表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
266/326

解放

 イングの警告に馬上のツベヒと、槍を握ったジンベジが周囲をキョロキョロと見まわす。

 私たちの左前方に、槍を持った兵士たちが横列をつくろうとしているのが目に入った。騎兵の突撃に備えるのはいいが、この状況で横列を組んで槍衾やりぶすまをつくるのか。棒立ちの騎兵に各槍兵が襲いかかるほうがいいのではないか。強ばったうまく動かない体とは違い、頭だけが冷静に状況を分析していた。

 「左前方に敵! 俺に続け! 全員突撃!」

 ツベヒが大声を張り上げて敵の隊列に向かった。重騎兵は顔を覆う兜をかぶっているため、敵の場所をうまく見つけることはできないようだ。しかし、指揮官であるツベヒが進む方向を見て、そちらの方向へ馬首を巡らせ進みはじめた。

 私の方へ向いていた殺気が消える。突っ込んでくるツベヒに向かったのだ。

 鎧の重さで後続の重騎兵たちの行き足は遅い。戦闘に関しては十人並みのツベヒが、まるで英雄の一騎駆けのように突出する。

 「シルヴィオ、援護だ」

 風魔術など準備する時間はない。敵の気が散るように、とにかく矢を射こんでくれればいい。

 幸いにもシルヴィオも同じ考えだったようで、半弓を敵へ向かい立て続けに射かけた。弓鳴りは矢よりも早く相手に届く。

 ツベヒは馬上で姿勢を低くし、右手には剣を持って前方へ突き出していたが、槍と比べれば得物の長さはあきらかに短い。ツベヒはどうするつもりなのか。騎兵の突撃にも、急いでつくった槍衾は形を維持していた。

 「ツベヒ!」

 若き指揮官は、非常に簡単な方法で敵の十数本の槍衾をかわした。私の叫び声がきこえたとも思えないので、はじめからそうするつもりだったのだろう。敵の目前で馬を急に左へ回し、近づかないという単純な方法で敵の槍から自分の身を守ったのだ。敵兵に弓や投槍があるのであれば、その回避方法は不十分であったかもしれないが、やっと武器を持ち出したような兵士たちには有効であった。

 兵士たちの注意がツベヒにそれた直後、重騎兵たちが敵の隊列に飛び込む。

 ジンベジが驚きの声を上げる。十騎のうちの一騎が、前方に大きく投げ出されたのがはっきりと見えたからだ。

 「ジンベジ、敵を総――いや、落馬した兵士の様子をみてきてくれ」

 すでに敵の槍兵は地面に倒れているか、逃げだすかして姿を消していた。十人の槍兵を犠牲にして、一人の騎兵を討ち取る作戦だとすれば、成功したといえるのかもしれない。だが、私なら天幕に隠れ、近づいてきた騎兵を槍で突いたり、物陰に隠れて不意をうつような作戦をとるだろう。

 「倒れている兵士に告ぐ! そのまま寝ていれば、これ以上私たちはなにもしない。変な気を起こすのなら、ひとりひとりとどめを刺す必要がでてくる。そのまま黙って寝ていろ!」

 これは殲滅戦ではない。もちろん、死んだふりをした敵兵が再び襲い掛かってくる可能性もあるが、元をたどれば友軍なのだ。甘いといわれても、譲るつもりはない。

 「教官殿、ノカはなんとか無事です。背中を強く打ってますが、とりあえずは死んだりしないと思いますよ」

 ノカという兵士の馬は槍に右脚を貫かれ、苦しそうに倒れていた。

 「シルヴィオ、弓で援護! イングは槍を集めろ!」

 そういうと、私は馬を降りて、倒れた馬のところは近寄っていった。

 「もういい、ここでゆっくり休め」

 つぶらな瞳で私を見つめる馬の左に回り、左肩、肩甲骨、あばら骨の場所を確認する。馬の心臓は、人間と同じように左胸部にあるが、多くの骨で守られている。力任せでは、馬が苦しむことになる。あばら骨の隙間に短剣を慎重に深く突き刺すと、馬の瞳から光が消えていった。

 「親父、俺は馬に乗るより走るほうが得意だから、俺の馬をノカという奴に使わせてやってくれ」

 「ありがとうイング、いざというときは、私の後ろに乗ればいい」

 そういうと、さらなる目標を探して馬を進めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ