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無策

 行軍は順調に進んだが、やぐらをなんとかする手立てはまるで頭に浮かばなかった。

 シルヴィオの風魔術を使い、火矢のようなものを櫓の中に射込むということも考えたが、櫓が使えなくなるほどの爆発物も、魔術も用意できなかった。油断している兵士を遠くから狙うことはできるだろうが、一人が倒れれば、他の兵士は姿を隠してしまうだろうことは火を見るよりも明らかだ。

 「ライドス君、君は櫓を制圧する案を持ってはいないよな」

 「櫓を攻略するためには、攻城櫓を使う、投石機で破壊する、火矢で焼くなどという方法があります」

 もちろん、それくらいは私も知っている。

 「攻城櫓などないし、投石機も用意できない。火矢への備えとして鋼の板張りがされていると説明してくれたのは君だ」

 しょんぼりするライドスを横目に、イングが得意げにいう。

 「親父、その櫓の兵隊が入れ替わるときに、潜り込めばいいんじゃねえか」

 「縄梯子(なわばしご)というのはのぼりにくいものだ。それに、梯子の途中で上から矢が降ってくることになるんだ。命がいくらあっても足りないぞ」

 横からツベヒが口をはさむ。

 「だったら、煙はどうでしょうか。姿を隠せるくらいの煙を用意すれば、弓で射られることはなくなるはずです」

 今までの案の中では、一番まともな提案だ。しかし、煙をどうやって起こせばいいのか。

 「それは悪くないな、ツベヒ君。しかし、どうやって煙を起こせばいいんだ。油も木もないぞ」

 「煙を起こすための薬があるときいたことがあるのですが――」

 「煙硝えんしょうのことだな。煙硝と砂糖を溶かしてから混ぜて火をつけると、もの凄い量の煙が出るはずだ。だが、煙硝も砂糖もない」

 あったとしても、どれくらいの割合で混ぜ合わせるのかということがわからない。以前、書物で煙を出す方法について書かれていたのを読んだのだが、はっきりと内容を覚えていなかった。まさか、戦場で煙が必要になるとはにも思わなかった。結局、無駄になる知識などなにもないのだ。

 「だが煙は悪くない。なんとか煙を用意できないか」

 誰からも返事はなかった。


 城塞都市ルスラトガまで半日の距離で鬼角族に天幕を張り、一日待機してもらうことになった。その一日で、なんらかの方策をみつけなければならない。

 軍服を脱ぎ捨て、イングを連れて一足先にルスラトガへ向かう。一見すると、あまり裕福ではない商人のように見えるはずだ。城塞都市といっても、敵が近づいてくるまでは出入り自由だし、特に書面の様なものがなくとも町には入れるだろう。


 遠くに見えるルスラトガは、まるで都の王城のようだ。だが、近づくにしたがって、城壁が低いのが見て取れる。本格的な戦争のためというより、騎兵による攻撃にのみ備えたように思えるのは、おそらく遥か昔に対鬼角族の為につくられた為だろう。

 「イング、私たちは旅の商人だ。西方の町から、食料の買い付けにやってきたんだ、いいな」

 「親父は有名人だから、誰か知り合いに会わなければいいんだけどな」

 「縁起でもないことをいわないでくれ」

 有名人というわけではないが、新兵訓練所で少なくない兵士たちを鍛えているのだ。思いもよらない邂逅があるかもしれない。

 できるだけ平静を装いながら、近づいてくる南門を凝視する。

 門の左右にやぐらが見える。

 弓を持った兵士の姿。思ったより櫓の上は狭く、二人くらいが限界だろう。ということは、左右に四名の弓兵が常駐しているわけだ。この櫓から門の外、門の内側に矢の雨を降らすことができる。四人とはいえ、圧倒的有利な場所からの攻撃は、私たちに多大な被害を与えることができるだろう。

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