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ユリアンカ

 味方から歓声が上がる。飛びつき腕挫ひしぎ十字固めが見事にまり、ハーラントは両肩を地面につけた。そのまま関節を締め上げて折ることもできたかもしれないが、私は相手の手首を離した。

 「我の負けだな」

 鬼角族がポツリといった。

 「最後の技をなぜ受けたんだ。あのまま右手一本で地面に叩きつけられていれば、私が負けていたはずだ」

 「あんな技は初めてみたぞ。びっくりして、ついお前の技にかかってしまったんだ」

 大声で笑うハーラントの考えはわからなかったが、なにか理由があるのだろう。

 「まあいい、では約束通り降伏してもらう。すべての武器はこちらに渡してもらうがかまわないか」

 「降伏したのだから仕方ないな。我らはどうすればいい」

 鬼角族を羊たちと一緒にすれば、予想できない問題がおきるかもしれない。

 族長の死体を槍でめった刺しにしていた情景を思い出す。

 かといって、この陣地の近くに置いておくと、鬼角族の本体と合流したり、こちらの状況をなんらかの方法で知らせる斥候のような働きをする可能性もある。

 一番いいのはターボルへ送ることだが、三十名の鬼角族を護送する兵士がいない。

 「とりあえずは、こちらが指定する場所に天幕をはってくれ。そのあとで、ハーラントさんは本部の天幕まで来て欲しい。まずは、武器はすべてこちらに渡してくれるかな」

 ハーラントがうなずき、高く大きな音で合図の口笛を鳴らすと、離れた場所で見ていた三十騎ほどの鬼角族が、常足なみあしでこちらへ近づいてくる。

 その時はじめて、私はこの集団がいままでの鬼角族たちとは違うことに気がついた。

 ふつう鬼角族の戦士は、胸に皮鎧、頭には兜をかぶって、腰に大太刀をいているものだが、数名の鬼角族は鎧どころか大太刀すら持っていないのだ。

 それどころか、何人かの鬼角族の胸はこんもりと盛り上がり、普通の人間ではありえないほどの大きさで女を強調していた。

 鬼角族の女性をみるのははじめてだった。

 そういえば、モフモフたちにも性別があるはずだ。角のあるのがオス? いや、みんな角があったような気もする。どうでもいい思考は、不躾なことばによりさえぎられた。

 「こんなガリガリが、本当に兄貴に勝ったっていうの? しかもオッサンじゃん」

 馬の上から女の声がした。また私たちのことばだ。

 鬼角族は人間の基準でいうとみな美男美女だが、馬上の女も目の覚めるような美人であった。他の女性と比べると、胸の盛り上がりかたは控えめだったが、それでも人間の基準なら豊満といえた。私の視線に気がついた女は、突然低い声で私を罵倒しはじめる。

 「なにジロジロみてるんだよ、このクソ人間。ガリガリの骸骨の分際で、調子に乗るとブチ殺すぞ」

 ところどころ鬼角族のことばになったので、意味がわからない部分もあったが、よくもこれほどの罵倒を続けられるものだと感心していると、ハーラントが強いことばで女を制した。

 「妹のユリアンカが失礼した。ザロフといったか、人間よ。口は悪いが、妹は性根の悪いキンネクではない」

 ニヤリと笑ってうなずくと、大声で陣地に向かってよびかける。

 「ツベヒ、なにかマントかシーツのようなものを持ってきてくれ。大至急だ」

 了解の声がきこえたので、ツベヒが仕事を果たすまでのあいだ、まわりの鬼角族をもう一度観察することにした。

 リーダーが下馬しているのに、そのほかの鬼角族が下馬しないのは、騎乗することがあまりにも日常的だからなのか。武装した騎兵二十名に囲まれているこの状況では、相手がその気になれば簡単に殺されてしまうだろうが、不思議と恐怖はなかった。

 「少し質問させてもらってもいいかな、ハーラントさん」返事がないので続ける。「キンネクの中に、私たちのことばが話せる人はどれくらいいるのだろうか」

 ハーラントはこちらの目を見てはっきりといった。

 「キンネクで人間のことばが話せるのは、我と妹だけだ。我と妹の母は、人間だったからな」

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