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弓鳴り

 左にナユーム族の騎兵、右にキンネク族と私たち。

 百八十騎弱の騎兵が横に並んだ姿は壮観だ。戦場では千騎を超える騎兵が投入されるが、速度と打撃力を重視する為に、このように横列を組んで進むことはない。

 「全隊前進!」

 私の号令とともに、ゆっくり騎兵たちが前進する。数も戦闘力も圧倒的にこちらが上だ。なにも恐れるものはない。

 フェイルの町から、鐘のような音がきこえてくる。見張りが私たちに気がついたのだろう。だが気にする必要はない。むしろ、一般の人々が家の中に駆けこんでもらえれば有難いくらいだ。

 「全隊止まれ!」

 おおよそ町から二百歩ほどの距離で停止する。ここなら互いに弓の射程外だ。

 大きく息を吸って、腹の底から声を絞り出す。

 「フェイル守備隊の兵士に告ぐ。私はチュナム守備隊のローハン・ザロフだ。タルカ将軍の命を受けてここにいる。王命である。すみやかに降伏しろ。命は保証する」

 敵からの反応を待つ。

 町の西側に敵兵が集まってくるのが見える。騎兵の姿はない。長槍が右へ左へ揺れている。

 「もう一度繰り返す。すみやかに降伏しろ。名誉にかけて命は保証する」

 返答はない。左右に揺れていた槍つが、規則正しい列をつくるのがわかる。

 「全隊前進!」

 もう少しだけ圧力をかけることにする。遠くに見えていた馬列が、ほんの少しでも前に出ることで、より大きな存在になることに敵は耐えられるだろうか。

 「全隊止まれ!」

 おおよそ五十歩前に進む。敵には、茶い壁が近づいてきたように感じられるのではないか。

 「降伏しろ! 王の名において、諸君の命は保証する!」

 長槍が少しふらついているようだ。兵士たちに動揺が走っているに違いない。

 「さっさと白旗を掲げればいいのに、相手の士官はバカなんですかね」

 隣にいるツベヒがつぶやく。

 まったくだ。この状況で降伏しないというのは、決断力のない愚か者か、命がいらない自殺志願者なのだろうか。それとも、なにか秘密兵器があるのか。

 「ツベヒ君、敵はなにか策を隠しているのかな」

 実はフェイルの町に伏兵が配置されていて、目前の三十人は撒餌まきえなのだろうか。騎兵による突撃を誘い、町の狭い路地に槍兵や弓兵を隠しているのか。

 「隊長、そんな気配はみえません。もし伏兵がいるならば、町に騎兵を入れなければいいと思います。まずは目前の部隊を倒し、そのまま取って返すように命じればいいでしょう」

 市街戦では、突撃という騎兵の強みがいかされないかもしれない。それを敵が望んでいるなら、避けることこそ上策だろう。

 「そうだな、ありがとう。ハーラントさん! ハーラントさん!」

 ハーラントが、おうと返事をするのを確認してから続ける。

 「あと少しだけ前進します。敵が降伏しなければ、そのまま突撃しますが、町の中には敵兵が待ち伏せている可能性があるので、町の中には不用意に入らないようにエナリクスさんへ伝えてください」

 ハーラントが左翼へ馬を走らせる。

 「これが最後の警告だ! 降伏しろ! 命は助ける!」

 やはり返事はなかった。

 「全隊前進!」

 騎馬隊はゆっくりと前に進む。百歩の距離なら、瞬きする間に敵陣へ到達するだろう。三十人の槍衾など鎧袖一触がいしゅういっしょくで消え去るはずだ。敵の指揮官はなにをしているのか。

 次の瞬間、高い弓鳴ゆなりが戦場に響きわたる。

 音は一張りの弓から発せられたものだが、矢の風切り音が尋常ではない射手いて弓勢ゆんぜいを表している。

 「弓だ! 気をつけろ!」

 私は殺気を感じなかった。つまり私を狙ったものではないはずだ。

 気をつけろとは叫んだが、轡を並べて作った横列が仇となり、馬を前に進ませること以外はできなかった。

 左の方で誰かがうめく声がきこえ、ドサリと誰かが馬から落ちた。

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