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煽り

 「まず、私たちが戦った相手は二千人ではなく、二千三百人です」

 ハーラントが、そのことばを伝え終わるかどうかといったところで、嘲り笑うような声がした。

 「一方、味方はキンネク族の皆さんと、私たちを合わせて百人ほどでした」

 今度は、もっと沢山の笑い声がきこえた。ハーラントの声にイラつきが混じるのがわかる。

 「私たちは敵の急所を攻撃し、敵が西方に居られない状態をつくりだして撤退させました。今回も、ナユーム族のみなさんと協力して、敵を打ち倒したいと思っています」

 現実的には、私たちの行動はあくまで後方かく乱であり、敵を打ち倒すのはタルカ将軍だが、そのことはとりあえず置いておこう。

 今度は笑い声は上がらず、自分たちが戦う相手への不安が場を満たしているように思えた。先ほどまでは、二千人の敵と戦っているといった、キンネク族の戦士を嘘つき呼ばわりしていたのにもかかわらずだ。

 「そんな相手に勝てるのか、と考えているのではありませんか。はたして、この人間はともに戦うのに値するのかと。では、私たちの実力を証明しましょう」

 そこまでいうと、周囲のナユーム族に視線を走らせる。少し顎をあげ、傲慢に見えるようにして。

 結局、腕に覚えのある新兵から尊敬を勝ち取るには、こちらの方が腕力で上回っていることを示すことが一番なのだ。その私の思い上がりを、拳でうちのめしたイングが隣にいるのも何かの縁なのかもしれない。

 「皆さんの中で一番強い人と、私が相撲すもうをとるのはどうでしょう。私が勝てば、皆さんも私たちを信頼できるのではないでしょうか」

 ハーラントがわたしの方をみて、ニヤリと笑う。ハーラントとの相撲すもうは、ほぼ互角で最後はハーラントが勝ちを譲ってくれた。だが、後日、私は関節技を、ハーラントは鬼角相撲の技術を教えあい、互いにかなりの腕前になったと自負している。滅多なことで負けるとは思えないし、相手の知らない関節技を使うことで絶対的優位な立場を取れるだろう。立ち上がり、周囲のナユーム族の戦士たちを挑発的に眺める。

 「誰か我こそはという人はいませんか」

 空気が凍った。

 なによりも戦士としての誇りを大切にする鬼角族の尊厳が、人間ごときに挑戦を受けたのだ。

 エナリクスが何かを叫ぶと、ひときわ大きな男が前に出た。こちらを向いて、何事かをはなしかけている。

 「おいローハン、こいつはナユーム族で一番相撲が強いらしいぞ。素手でこいつを倒せるなら、人間に対する考えを改めるそうだ」

 面白そうにハーラントが笑う。ハーラントは、私が勝つことを確信しているらしい。

 長身のエナリクスより、さらに一回り大きく胸板もぶ厚い。しかし、体格の違いを覆すのが技術だ。そして私には、訓練トレーナーという贈物ギフトがある。

 意を決して男の前に進もうとした瞬間、体に電流が走った。

 殺意だ。

 これから相撲をするというのに、大男は私を殺すつもりなのだ。死んでもかまわない、殺してやりたいといったものではなく、必ず殺すという明確な殺意。

 訓練トレーナー贈物ギフトは、ほとんどの武芸をかなりの水準でこなすことのできるものだが、実戦にはなんの役にも立たない。それは、明確な殺意を前にすると体が動かなくなるからだ。眼前の大男は、相撲すもうであることなど無視して、私を殺そうと考えているのだ。

 挑戦したことそのものが許せなかったのかもしれないが、ここまで殺意をあからさまにするのはどうなのか。侮辱するほどのことはいっていないはずだ。ことばを勝手に変えて、ハーラントがあおりすぎたのだろうか。

 体が硬直して動かない私の後ろから、イングが一歩前に進み出た。

 「親父、この勝負、俺にやらせてくれないか」

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