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嫌がらせ

 一兵士として軍へ入隊した私は、実戦になると体がすくんで動かなくなり、臆病者で軍規違反を犯したとして営倉に入れられることになった。戦場でのあまりにも極端な変化をいぶかしく思った神官が、改めて贈物ギフトを調べたところ、私が訓練トレーナーという珍しい贈物ギフトの持ち主であることが判明したのだ。

 贈物ギフトのおかげで私は士官学校へ入ることになり、そこで出会ったのがエンテリア・タルカだった。タルカは士官学校一の秀才であったが、肉体面では平均以下で、贈物ギフトの力で実技全般を得意にしていた私とはちょうど対照的な生徒だった。卒業後、私は新兵訓練所の教官として代わり映えのしない生活を過ごしていたのに対し、ギュッヒン侯の参謀としてエンテリア・タルカの名は広く知られるようになっていった。

 「お久しぶりです、タルカ将軍。士官学校以来でしょうか」

 目じりの皺が、私の中にある青年の姿を上書きしていく。髪に白いものが混じっているが、それはお互い様だ。

 「そうだな。あなたには訓練でボコボコにされたのを覚えているよ」

 笑いながら、タルカ将軍は椅子に座るよう促した。

 「昔話はやめておこう。さっそく本題だが、鬼角族を動員して西方から攻撃できるというのは本当か」

 ハーラントのキンネク族だけでは、動員できる戦力はせいぜい百騎程度になる。もし、攻撃といえる規模の兵士を揃えるのであれば、他の鬼角族の部族を仲間に引き込まなければならないだろう。果たしてそれは可能なのか。地震の影響がどれくらい広範囲なのかによるが、不可能ではないはずだ。

 「騎兵一騎に対して羊五頭、戦争に勝利すれば追加で羊五頭。あるいは馬一頭を約束してもらえれば、ある程度の数を動員できると思います」

 「最大で何騎、最低で何騎の鬼角族を集められると考えているのかね」

 一つの部族が五百名程度の人口だとすれば、自分たちの生活を維持しながら送り出せる人数は百程度だろう。二十部族すべてが兵士を派遣するならば、最大で二千騎。最低なら、キンネク族とナユーム族の百騎をあわせて二百騎といったところだろうか。

 「最大で千騎、最低なら二百騎。補助部隊として黒鼻族の兵士を二百人動員できます」

 タルカ将軍は視線を床に向け、少しなにかを考えている。

 「黒鼻族というのは、あの羊の人だろう? 戦いに役立つのか、あの羊人は。それに、二百騎ぽっちの騎兵では、なにもできないのではないか」

 「ああ見えても、羊たちは四十人でギュッヒン侯の重騎兵を二十騎倒したんですよ。また、鬼角族の騎兵は補給なしで十日以上行動することができます。人間の軽騎兵の倍は戦いますし、手に負えない相手からは逃げることができる機動力もあります」

 私の売り込みに、タルカ将軍はニヤリと笑った。

 「後方かく乱なら二百騎でも十分というわけだな。しかし、あの重騎兵を羊が倒せるとは思えないのだが、どういう手品を使ったんだ、ザロフ君」

 「黒鼻族は恐れを知らない優秀な兵士ですよ。それに、草が彼らの食料ですから、水以外の補給は必要ありません」

 私が西方で動員できる部隊は、どう考えても戦局を左右できるほどの大戦力にはなりえない。しかし、ギュッヒン侯への嫌がらせとしての効果はある。タルカ将軍は、その損得を頭の中で素早く計算しているようだ。

 「最大で千騎を集めたとしても、羊が一万頭か。羊って一頭いくらくらいするんだろう。ローセノフ君知っているか」

 突然の問いかけだったが、ローセノフ中隊長はよどみなく答える。

 「羊一頭で、正銀貨一枚から一枚半くらいですな。ヴィーネ金貨でなら五百枚から七百五十枚相当になります」

 「ザロフ君、報酬はすべて戦いに勝利した後になる。もしわれわれが負ければ、報酬は支払われない。だが、私は戦いに勝つつもりだ」

 タルカ将軍は自信に満ちた声でいった。

 「から約束は好きではない。君の作戦に軍費として用意できるのは、ヴィーネ金貨百枚が限界だ。値切るようで悪いが、それ以上は出せない。年明けの三月、いや春分祭りの日までには二百騎以上の騎兵部隊を組織して、ギュッヒン侯の後方を攻撃して欲しい。ギュッヒン侯が無視できないような後方かく乱を頼む」

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