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別嬪揃い

 小麦や干した果物などを大きな袋二つに詰め込んで、馬のいる場所に戻ると、そのままターボルの町へ馬を走らせた。徹夜は体にこたえるので、できるだけ規則正しい生活を心がけているのだが、こんな状況なのでしかたがない。明け方まで馬を走らせる。

 町に入っても、十人ほどの兵士が隠れている様子はまるで感じられなかったが、大声でアコスタをよぶと、ぞろぞろと兵士たちが通りに姿をあらわした。半分くらいはどこかで顔を見た兵士だったが、あきらかに初めて見る顔もいる。

 「みんな待たせたな、少しだが食料もある。一息ついてから、すぐに出発するぞ」

 村長の家に馬をつなぎ、脱走兵たちを集める。

 「薪があるなら持ってきてくれ。小麦がいくらかあるので、麦がゆをつくる」

 兵士達がそれぞれ薪を持ち寄り、私に手渡すとともに挨拶をかわした。アコスタを含む六人は、チュナム守備隊の兵士で、残りの四人は他の部隊にいたらしい。もちろん、この中に敵の間諜が紛れ込んでいる可能性はあるが、いまはそのことを考えている暇はない。鍋をかまどにかけ、火打石で手早く火をおこす。水筒から水を鍋に注ぎ、小麦の袋からすくってきた麦を兵士たちに渡して脱穀を頼んだ。道具がないので、手で揉んで殻を取り除くしかないが、手分けすればすぐだろう。腸詰が少しあったので、短剣で薄く切って岩塩とともに鍋に放り込んでおく。

 人は、なにかをしながら質問されると口が軽くなるという。脱穀作業で両手がふさがっている今こそ、いい機会なのかもしれない。さりげなくはなしかけることにする。

 「君たちは、なんで逃げ出してきたんだ」

 赤ら顔の少し小太りの兵士が、懸命に手を動かしながら答えた。

 「ザロフ隊長がギュッヒン様の陣から出ていくときに、いつでも諸君を歓迎するっていってたじゃないですか。あれをきいて、ピンときたんですよ。俺は兵隊に志願しましたが、それは国を守るために志願したのであって、仲間同士で殺しあいをするためじゃないんです。偉いさん同士で戦うのは勝手ですが、俺はそんなのに関わりあいになりたくないんです」

 数人の兵士が同意を示す声をあげた。

 「ザロフ隊長ならわかってもらえると思うんですが、一度敵対した俺たちは、ギュッヒン侯にとって信用できない兵士なんですよ。戦場に駆り出されても、一番死ぬ率の高いところへ配置されるに決まってます。自分たちが反乱を起こしたくせに、上官の指示通り戦った俺たちを、まるで邪魔者みたいに扱うのには納得がいきません」

 アコスタが強い口調でまくしたてる。

 たしかに、厭戦えんせん気分が高まっている兵士たちへ、脱走をうながすために大声で歓迎すると叫んだ。しかし、軍隊という組織は上官への恭順が絶対的に必要であるのに、公然と上官を批判する姿勢はいただけない。脱走してきた兵士たちには、できるだけ早く鬼角族の一員となってもらい、軍人だから戦うのではなく、自分たちの身内を守るために戦うようになってもらう必要があるだろう。

 私は薪をくべる手を止め、振り返った。

 「君たちは逃亡兵だ。いまさら軍に戻っても、逃亡兵への処罰は縛り首だというのは知っていると思う。君たちが国に帰る方法はたった一つしかない、それはギュッヒン侯を倒すことだ」

 冷や水を浴びせられたように、兵士たちが急に静かになった。それを確認してから、ことばを続ける。

 「もう一つの道もある。それは、鬼角族の一員として生きていくことだ。鬼角族は、最近の戦いでたくさんの男手を失っている。鬼角族と人の間に子どもを成せることは確認しているから、ここで伴侶を得て人生を全うすることもできる。鬼角族の女性は別嬪べっぴん揃いだぞ」

 守るもの、失って困るものがある若者は、めったに辺境には来ないものだ。私の提案に、どれほどの魅力があるのかはわからないが、兵士たちがまた軽口を叩きはじめたことから、それほど悪くない条件であることはわかった。

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