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掃討

 逃げる騎兵を追撃する手段はなく、ケガをしていたり、戦場に置き去りになった鬼角族はすべて死体となった。助けを求める鬼角族に、羊達が情け容赦なく槍を投げつけて殺している姿も見たが、積年の恨みをはらそうとする黒鼻族を止めるものはいなかった。

 「教官殿。鬼角の死体は四十一ありました。こちらは切りつけられて、かすり傷を負ったものが二人だけです。この守備隊はじまって以来の大戦果ですよ」

 興奮気味なストルコムを横目に、無残な屍をさらす鬼角族の兵士をみてげんなりしていた私は、兵士たちに大きな声で命令を出した。

 「疲れているとは思うが、先に一仕事してほしい。このまま鬼角族の死体を置いておくと、肉食の獣がこのあたりに集まってくるかもしれない。穴を掘って、この死体を弔ってやってほしい」

 あちらこちらから、兵士たちが不満をあらわす声がきこえてきたが、再び大声で命令を下す。

 大声が出せるということは、戦闘は完全に終わったということだろう。

 「諸君の不満はわかるが、オオカミの群れでもくればもっと疲れることになるぞ。墓堀りを手伝ったものには、酒保しゅほを開いて酒を飲ませてやる。墓堀りを手伝わないものは今晩の見張りだ」

 現金なもので、今度はみなが墓掘りを希望したので、墓堀りをしない兵士を選ぶのが大変だった。

 墓堀り担当になった()()な兵士達には、鬼角族の死体をできるだけ敬意をもって扱うこと、死体の装飾品や武器は集めてすべて供出することを強調した。もちろん、貴金属をちょろまかす兵士はいるだろうが、そこまで監視はできないだろう。敵の死体を丁重に葬るのには意味がある。もし、チュナム防衛隊が鬼角族に敗北した時、遺体を丁寧に扱ったことで相手の慈悲を得られるかもしれないからだ。今日の勝利は、明日の敗北につながるかもしれないのだ。

 埋める場所の指示はストルコムにまかせ、私は一番はじめに投槍の餌食となった敵の司令官の死体のところへ向かった。その周囲には黒鼻族がぐるりと輪をつくっており、異様な雰囲気に誰も近づいていかなかったからだ。ヤビツの姿が見えたので声をかける。

 「ヤビツ君、なぜそこに集まってるんだ」

 私の呼びかけに振り返ったヤビツは、もともと黄色がかった羊毛に覆われていた胸を血で真っ赤に染め、口からはだらりと舌をたらし、血走った眼をしていた。

 「こいつは、このあたりの鬼角どくのどくちょうでしゅ。私ぃ達の仲間を殺しぃた恨みを、いま果しぃているのでしゅ」

 よく見ると、ほかのモコモコ達も繰り返し族長の体を投槍で突いている。黒鼻族の持つ、予想外の凶暴性に驚きながらも、ヤビツにいう。

 「君たちの気落ちもわかるが、死体は一刻もはやく埋めなければならない。私たちがやるから、君たちは投槍を集めてきてほしい。これは命令だ」

 ヤビツはその横長の四角い瞳でこちらをしばらく見つめた後、はっきりとした口調でいった。

 「鬼角どくを倒しぃたのも、しゅべて隊長しゃんのおかげでしゅ。命令にはしぃたがいましゅ」

 黒鼻族は、投槍を回収するためにばらばらに戦場へ向かっていった。人間の兵士なら、倒した相手の武具は自分のものにしてもよいという暗黙の了解があるが、モコモコ達にはそういう考えはないようだった。

 槍で突かれ、肉塊のようになった族長の死体を前に、吐き気を催しながら首飾り、指輪、大太刀や特に趣向をこらしたつくりの短剣などを回収する。自分の懐を潤すためではなく、族長の個人的な装備がなにかに役立つ可能性を考えたからだった。マヌエレがいなければ、この族長により死体にされたのは私だったのだが、特別な怒りも哀れみも感じることはなかった。

 近くの兵士に、族長の墓ははっきりわかるようにつくるよう頼んで、本部の天幕に戻る。

 私物の箱から壺を取り出し、中から飴を今晩の見張りの人数分用意する。

 戦いの後に飴なんて、子供だましもいいところかもしれないが、せっかくの初勝利だ。なんでもいいから、日常とは違うなにかをしてあげたかったのだ。

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