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兵士の仕事

 翌朝から、さっそく兵士を二つのグループに分けて作業をおこなうことになった。

 補充兵たちにはストルコムをつけて、前回逃げ込むために使った陣地の前方に、更なる壕と土塁をつくることを命じた。そして、古参の兵士たちは本部天幕前に集合させて、投槍器(アトラトル)と投槍をつくらせることにする。本隊から送ってきた防御柵用の杭は、太さが大人の男の腕くらいあったが、長さは腰くらいの高さしかなく、本当に投げるためだけの短槍になってしまいそうだった。一本の杭から投槍器なら四つ、投槍なら三本作れるとして、五十本を投槍器、百五十本を投槍にすることにした。やじりは二百ほどしかないので、足りないぶんは、穂先を火であぶって固くしたり、石を加工して鏃にしてもいいだろう。もちろん余裕があれば、ターボルまで誰かを走らせてもいい。

 しかし、私の計算は、作業をはじめるやいなや、いきなり机上の空論であることが明らかになった。


 「隊長、この投槍器の後ろのかぎのところが折れてしまったんですが、どうしましょう」

 「あとで、紐を使って鉤をしばりつけるから、反対のほうの鉤が折れないように気をつけてくれ」

 別のところから声がかかったので、急いでそちらへ向かう。

 「杭を縦に割るのに失敗したんですが、どうしますか」

 「木材を無駄にはできないから、その木で投槍器をつくってくれ」

 「隊長――」

 「隊長――」

 昼までの二刻で疲れ切った私は、休憩を兼ねていったん全員の作業を止めさせた。

 「よし、それでは昼の休憩に入るが、その前に君たちの腕前を確認させてもらうぞ。こちらの端から順番にできたものを持ってきて欲しい。すまないが、木の余分はないので、手先が不器用だと私が判断したものは昼から穴掘りだ。もし投槍器や投槍の数が足りなければ、私たちはそれだけ鬼角族と正面から戦わなければならない。穴掘りを怠けるのは勝手だが、今やらないと墓の中で永遠に休むことになるぞ」

 兵士たちから不満の声が上がるが、一方でやむを得ないという雰囲気もあった。中には、細かい作業より、体を動かしている方がマシだといっている兵もおり、穴掘りをさせても問題はなさそうだ。

 投槍器をつくるために三名、投槍をつくるのに五名の兵士だけを残し、あとは計画の肝である落とし穴をつくるために陣地へ連れていった。

 「よし、いまからこの陣地の前に落とし穴を掘る。落とし穴といっても、馬の足を止めるだけの段差だから、そこまで深く掘らなくてもいい。そうだな、掘るのはすねくらいの深さだ。そして、その穴には草を放り込んで敵から見えないようにしておく。私が指示した場所から掘りはじめてくれ」

 防御拠点から三十歩ほど西に兵士たちを連れていき、穴を掘るように命令し、今度は新兵たちのいる黒鼻族の集落へ向かった。


 「教官殿、こちらは順調にすすんでますよ。こいつらまだまだ元気ですから、なんとか間に合いそうです」

 ストルコムの指示のもと、新兵たちは黒鼻族の集落の外側に壕を掘っていた。大声でこちらに注目するように声をかけ、みなの視線が集まったのを確認してから静かに話し出す。

 「諸君、穴掘りの仕事ご苦労様。鬼角族は約三十日周期でこの村を襲っている。次の襲撃まで二十日ほどしかない。その時、諸君が掘っている壕は君たちの命を守ってくれるだろう。流した汗のぶんだけ戦場で血を流さなくてすむ、というのは古参の兵士なら誰でも知っている格言だ。無駄だなどと思わず、がんばってほしい」

 近くで穴を掘っていたジンベジが、こちらを見て笑った。新兵の中には、疲れてうつむいているものもいたが、若いのだから回復力はあるだろう。

 これで、すべての駒はそろい、戦いの準備にも目途が立った。あとは私の計画通りに進むことを祈るだけだ。

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