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実戦経験なし

 「兵士三十名、無事チュナム集落守備隊に到着いたしました。臨時指揮官のツベヒです。お久しぶりです、教官殿」

 直立不動で到着報告をする若者の顔は覚えていたが、名前がわからなかったので名乗ってくれてホッとした。最後の訓練生だったことは覚えているが、訓練が終わったとたんに名前を忘れてしまうのは、もともと贈物ギフトの力で顔や名前を覚えているからだろうか。

 「ご苦労様、ツベヒ君。チュナムへようこそ。ここは鬼角族から国を守る最前線だ。君たちのような優秀な兵士が配属されて私もうれしいよ」

 笑顔で右手を差し出し、力いっぱい握手をした。握手に力を込めるのは、自分がまだまだ若く力強いことを伝えるためだというのも、ローラール教官からの受け売りだ。

 「君が来ているということは、あの大男もいるのかな」

 名前がわからないので、いかにも親密な感じで質問してみる。

 「ああ、ホエテテのことですか。あいつもきてますよ。それにジンベジもいます」

 ジンベジというのが誰のことかはわからないが、わかったような顔でニヤリとしておく。

 「教官殿、全員おもてにおりますので、よろしければひとこと声をかけていただけませんか」

 たしか、ツベヒは貴族の出身だったが、なかなか人の使い方というのを心得ているものだと感心する。

 正式な訓示は明日になるだろうから、ひとことねぎらいの言葉をかけておけという意味だろう。

 黙ってうなずいて、天幕の外に出る。

 荷馬車が八台に、三十名のほどの兵士が地面に座り込んでいた。

 「小隊気をつけ!」

 ツベヒの号令で、二十九名がすばやく整列する。

 「懐かしい顔が見られて、ホッとした。私の教え子の中でも特に優秀な君たちがここに配属され、私もうれしい限りだ。今日はゆっくり休んでほしい。そのかわり、明日からこき使うからな! 天幕をどこに設置するかは、副官のストルコム君が指示してくれる。それでは解散」

 ほとんどの兵士が、ストルコムについて天幕の準備に向かう中で、一人の若者が近づいてきて、握手を求めてきた。きっとこの若者がジンベジだろう。

 「久しぶりだな、ジンベジ君」そういいながら、強く握手してやる。「また会えてうれしいよ」

 「教官、名前を覚えていただいていて感激です。またご一緒できて、本当に心強いです」

 紅潮した顔のジンベジの、私を疑うことのない純真な眼差しに少し恥ずかしさをさを感じ、思わず目をそらしてしまう。

 「まあ今日はゆっくり休んでくれ。明日からは穴掘りの仕事が待ってるからな」

 「穴を掘るのですか」ジンベジには、戦闘訓練ではなく穴を掘ることの意味がよくわからなかったようだ。「なんのために?」

 「もちろん、敵の騎馬に対抗するための壕だよ。鬼角族は馬に乗るからな」

 合点がいったようで、ジンベジは軽く礼をしてから、そのまま天幕を張る場所に向かっていった。

 これで、ジンベジが補充兵たちに、明日の仕事の内容を伝えてくれるだろう。あの性格なら、自分だけが知っている情報を、他の兵士にいいふらしてくれるに違いない。

 天幕に戻って、明日以降の計画を練り直すことにする。

 荷馬車の一台に満載されていた木の杭や廃材は、依頼していた防御柵用のものであろうが、考えていたより量が少なかった。柵をつくったうえで、投槍を二百本作るのは無理かもしれない。かなり疲労がたまってきている古株の兵士には、しばらく投槍器(アトラトル)と投槍をつくってもらおう。ヤビツに投槍部隊の訓練をさせるためには、まず投槍器と槍が最優先だ。いろいろ考えをめぐらせていると、ストルコムが天幕に戻ってきた。

 「教官殿、連中に天幕を張る場所を教えてきました。それより、あいつらは教官殿の教え子なんですか」

 ストルコムが、少し心配そうな顔で話しかけてくる。

 「そうだな、私の最後の教え子だ。そして全員実戦経験なしの新兵だよ」

 ストルコムは天を仰いだ。

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