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出会い


爽やかな風が吹く快晴の空の下、美しい人が立っていた。


半袖にネクタイの制服姿の上半身は健康的な胸の形を強調している。手を腰にあて、タイトなスカートから伸びる足は、ひざから下が長い。

顔を少し横に向け、赤い唇は真一文字。きれいな黒髪はポニーテールにまとめられており、白い頬はほのかに色づいている。下を向いた切れ長の二重の瞳は何を思っているのだろうか。


僕は、一目見て、その人に恋をした。


*****


朝の相浦駐屯地、僕は泣く子も黙る水陸機動団の医務室で、上司の臼杵うすき 速子すみこ衛生長に挨拶する。


「おはようございます。臼杵二佐!」


「おはよう。立花一尉。今日もかわいいわね」


衛生長は今年41歳。高校生のお子さんがいると聞いた。けど、全然、そうは見えない。

最初見たときは30代と思ったほど。ロングヘアの似合う美人だ。医官なので、脳筋系ではない。

身長も僕より5㎝高いだけの175cmほど。近くにいても威圧感がないので、安心できる。

もう一人の医官の方は、今日はお休みらしい。


自衛隊の課業(業務のこと)は、朝礼での国旗掲揚、部隊長の訓示などから始まる。ここ衛生隊の朝礼は、長い訓示もなく、比較的直ぐに終わり、医務室での事務作業に移る。

医務室に戻ると、臼杵衛生長が指示を下した。


「じゃあ、今日は、部隊の見学に行ってらっしゃいな。昨日、各小隊からぜひ見学に招待したいってお誘いがうるさかったし、早いとこみんなに挨拶してきたら?まずは第1中隊第1小隊からね」


「でも今日は衛生長と自分しか医官がいないので、自分が出てしまったら衛生長にここをお願いすることになってしまいます」


「この連隊、600名ぐらい隊員いるけど、みんな元気すぎて、医務室は割と暇なのよ。だから安心して行ってらっしゃい」


僕は衛生長に感謝し、指示された通り第1中隊第1小隊長の連絡先を確認し、見学に伺う旨の連絡を入れた。


*****


一条三尉は朝礼後、訓練計画立案の為、小隊事務室で事務作業をしていた。

小隊長の姿は見えない。

すると、小隊長席の電話が鳴る。


「はい。第1小隊長席です。え!・・・・あ!はい!いえ!大丈夫です!それではお待ちしております」


静かに受話器を置いた副長は、一瞬、理解が追い付かず、しばしその場で立ち尽くす。

しばらく固まった後、大きめの独り言をつぶやく。


「大変!天使ちゃんが来る!!」


急いで化粧を直すために私物のあるロッカーに向かうと、ロッカーから出てきた小隊長と出会い、声をかける。


「小隊長!大変!天使ちゃん来るって!ていうかもう来ちゃう!!

どうし・・よ・・・う・・・・」


慌てて要件を告げるうち、夏の制服にしっかりメークが施された小隊長のいでたちに気づく。

いつの間に?


「分かったわ。案内は隊長の私が行う。私は隊舎入口で出迎えるので、一条三尉も急ぎ準備して入口に来て」


「・・・小隊長・・・その恰好・・・ご存じだったんですか?見学のこと」


「そんなことはない。急ぎなさい。来るわよ」


そう一条三尉に言い残すと、佐伯小隊長は隊舎の外に出ていく。


*****


あいつが来る!やっと。


1か月前、私は中隊幹部から、新任の男性医官の話を聞かされた。

中隊長は私に新任医官の写真を見せてくれた。

その写真を見た瞬間から、私の頭からはあいつのことが離れなくなった。


それ以来、私はあいつの着任を心待ちにしていた。

着任予定日、私は待ち続けた。今日こそ会える。会ったらなんと声をかけよう。

そう期待に胸を膨らませ、正門が見える場所であいつの到着を待ち続けた。


でも、あいつは来なかった。


あいつが立派に医者の責任を果たして来れなくなったことは、後で知った。

会ったこともないやつの為に、私は心を痛め、涙を流した。


随分待った。

本気で心配した。

こんな気持ちは生まれて初めてだ。

だから私は、あいつをタダではおかない。

絶対に、振り向かせてみせる。



私は、隊舎の入り口で、大好きな医官を待つことにした。



次回は来週の木曜日の更新を目指します。

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