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憎いあいつ


気に入らない。


男っ気のないこの駐屯地に、突然、日本唯一の男性医官が赴任すると聞いて1週間、そいつは約束の日に来ることはなかった。


別にそいつが悪いわけでないことは知っている。自分は重傷を負いながらも、女の子の命を救ったらしい。立派な事をしたと思う。

結局、予定より3週間も遅れたかと思えば、いきなり一等陸尉として、私より高い階級で現れた。

医官は作戦行動で指揮・命令を行うわけじゃないけど、上官というところが気に入らない。私より年下のくせに。


しかも現れたと思ったら、いきなり隊員たちの注目を集めた。

あんな、いやらしさ漂うぴっちりしたスーツなんか着てくるからだ。

隊員どもの注目を浴びたからなのか知らないけど、何よ!

あの恥ずかしそうにうつむきながら歩く姿。

ぶりっ子か?私は嫌いだ。

ああもう!あいつのことを考えれば考えるほど、腹が立つ。



私の名前は佐伯さえき 教子のりこ、27歳、二等陸尉。西部方面普通科連隊 第1中隊 第1小隊、いわゆるレンジャー小隊の小隊長を拝命している。

泣く子も黙る水陸起動団筆頭の特殊部隊の隊長なのだ。防衛大学を卒業した同期出世頭でもある。

人からはクールビューティと言われる程度の見た目の良さを備えている。

黒髪はポニーテールにして知的感を出しているつもりだ。


なのに、あいつは、この私のところに挨拶にすら来ない。


イライラしながら校内を歩いていると、部下の一条いちじょう 定子ていこ 副小隊長(24歳)が近寄ってくる。見た目はセミロングのお嬢様系だが、身長は私より5cmも高い185cmもある脳筋女だ。

この女は、あいつが着任した日、隊員どもに囲まれ困っているところを見るや、最高のポーズを決めてあいつの前に姿を現し、邪魔な隊員を追っ払うという方法で、多分、あいつの好印象を得ている。

すでにロックオンしているのだろう。あいつ、隙だらけだから。まったく!


「ねえ、隊長殿、私決めたわ。あの天使ちゃん、私のものにする」


「そう。頑張って」


「・・・・隊長殿は、あの天使ちゃんのこと、気にならないの?」


「べつに。少女の命を救った立派な医官よ。医者として腕を振るってくれればそれでいい」


「ふうん・・・・。ところで隊長、隊長っていつから双眼鏡を持って歩くようになったの?」


「べつに。理由はない」


「そうなの?・・ふうん・・・ あ!天使ちゃん発見!」


私は双眼鏡で一条三尉が指さした方向を確認しようとして、まんまと騙されたことを知る。


「ふふうん!やっぱり隊長も気になってるんでしょ?あとで、私たちの第1小隊にも見学に来てって、お願いする予定なので、一緒にご挨拶します?」


「見学に来るなら、私が無視するわけにはいかない」


「はい。了解しました!では、一条三尉、天使ちゃんを我らが第1小隊に見学に誘いに行ってまいります!」


脳筋女(一条三尉)はあいつのところに見学の誘いに消えていった。

今頃、他の小隊も誘ってるのだろうか。

あいつ、可愛いから・・・ちくしょう!まったく気に入らない。

うちが第1中隊第1小隊なんだから、最初に来るべきなんだ。

来なかったら、恨んでやるんだから!・・・あいつ。


*****


夕方、第1中隊隊舎の小隊幹部が使う事務室で日報を書いていると、一条が戻ってきた。表情から結果は読み取れない。

気になるけど、私から聞くのは違う気がする。

すると部下たちがすぐに確認する。私は仕事をするふりをして耳に神経を集中する。


「一条さん、どうでした?天使ちゃん、来てくれことになりました?」


「それが、ほかの小隊もいっぱい誘っているみたい。衛生長さんには、予定を確認してから連絡するって言われちゃった。すぐには見学してもらえないかもなあ」


・・・・やっぱり。他の小隊も誘っているのか。


「えー!そうなんですかあ?どうせ、うちの部隊、医務室に行く子なんて滅多にいないんだから、見学すればいいのに!本人には会えました?」


「連隊長以下幹部への挨拶まわりだって。なんか、珍しがられて、どこ行っても引き留められて、大変見たいよ」


・・・・幹部って。私のところには来てないぞ!


「とにかく、お誘いは伝えたから、ひとまずは連絡待ちね」「ぶうー!」


部下たちは残念がっている。

私は再び作業に集中する。


*****


終礼後、私は早めに帰宅する。


「隊長殿、今日は早いですね。お疲れ様です」


「お疲れ」


私は幹部用宿舎に戻る途中、連隊本部棟に立ち寄る。

棟入口でしばらく待っていると、帰宅途中のその人が現れる。


「臼杵衛生長!」


「あら佐伯二尉、お疲れ様。どうしたの?何かあった?」


「今日はお願いがあってまいりました」


「何かしら?」



この私が、一世一代のお願いで頭を下げたのは、

これが初めてだった。



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