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武力衝突の始まり


医師には、患者を治療する他にも重要な仕事がある。

死亡した患者の記録作成もその一つ。死亡診断の記録は、患者の最後の公式な記録になる。残された遺族にとって手続き上、重要なものとなる。


救命救急医をしていると、搬送時点で蘇生の可能性の無い患者さんが運び込まれることがある。そんな時は、死亡の診断を正しく行い、丁寧に記録を作成することを、立花一尉は沼田二佐から教わった。この仕事に手を抜いてはいけないと。


護衛艦「いせ」 手術室。

今回の派遣で最初の負傷兵として運び込まれた女性。その凛々しい横顔は、彼女が生前、強さと美しさを兼ね備えた、得がたきパイロットであったことを思わせる。沼田二佐は責任者として死亡の診断を行っている。衛生士(看護師)の女性が彼女を綺麗にする。


沼田二佐がつぶやく。


「このあたりはサメが回遊することもあるというが、ご遺体が綺麗だったことはご遺族にとっては良かった」


収容されたのは、航空自衛隊、F-2A戦闘機パイロットの二等空佐。遠く福岡県築城基地から空中給油を受けこの空域に飛来し、空対艦ミサイルASM-2による攻撃によって、共和国054A型フリゲート1隻を撃沈、1隻を戦闘不能状態にするという戦果を挙げた。


彼女は、空対艦ミサイルによる攻撃後、離脱中に敵艦の対空ミサイルによる攻撃を受け撃墜された。

ともに攻撃に参加した部下のパイロットによると、被弾直前、彼女は、あえて接近する敵の対空ミサイルを自らの機体に向かわせるような空中機動をしたと証言している。


沼田二佐は、死亡所見に加えて、彼女の部下の証言も診断書に添付することで、ご遺族に対し、このパイロットの最後の様子も伝えようと気を配る。


診断に立ち会う航空自衛隊の女性作戦士官がつぶやく。


「我々にグラウラー(電子戦機)があれば・・・・・」


専守防衛を是とする日本の正面装備は偏っていた。電子戦に関連する装備は、敵の仕掛ける電子戦攻撃(ECM)に対抗するためのカウンター(ECCM)が主であり、積極的に敵の索敵能力を奪う航空機を所有していなかった。


今回の戦闘は日本が世界に誇る対艦攻撃能力を持つ戦闘機と、共和国の最新フリゲート4隻の艦隊との間による、空対艦戦闘で開始された。


*****


多くの戦闘では、作戦前の兵士に対し作戦の目的や内容が説明される。だが、実際の戦闘が開始されると状況を正確に把握できる兵士は限られる。


なぜ、自分は待機しているのか?

なぜ、自分は攻撃されているのか?

自分はどこから攻撃されているのか?

いつまでこの戦闘は続くのか?


これらを把握できる兵士は限られる。


護衛艦には多くの自衛官が乗艦する。水測員や作戦士官などとしてCIC/FICで勤務する乗員は、現在の戦闘状況を俯瞰する立場で把握することができる。


だが機関員や飛行士など、多くの乗員は戦闘の状況を詳しく把握することはできない。搭乗する護衛艦が直面する状況のみが艦内放送によって逐一伝えられる。


上陸部隊として「いせ」に便乗する西部方面普通科連隊の陸上自衛隊員や治療区画で待機する衛生隊も同様だ。戦闘の開始前、最初の戦闘は潜水艦もしくは戦闘機による攻撃となることが予想されることは全士官参加のブリーフィングで伝えられた。だが、現在、戦闘がどのような状態で進展しているのかは不明だ。


彼女らが知っていたことは、搭乗している「いせ」が目下、対潜戦闘中であることのみであった。


そんな中、「いせ」から救難・輸送ヘリコプターが離陸。墜落した味方のパイロットを収容して帰艦する。


この時初めて、戦闘の状況が衛生隊の医官・衛生士たちに伝えられる。2機のF-2Aの活躍により、実に4隻のうち2隻の敵フリゲートを戦闘不能とし、さらに別のフリゲート1隻も、味方の潜水艦の魚雷攻撃によって撃沈したと。残された1隻のフリゲートはすでに白旗を掲げ、海に投げ出された友軍の乗組員の救助中だという。


戦闘は彼女たちの予想を超える速さで進展している。




第1小隊の出撃する時間が迫りつつあった。









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