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愛を重ねる二人


演習から帰任後の最初の休日。

私たちは、今、松浦鉄道西九州線に乗り駐屯地近くの男性用幹部宿舎に向かっている。


佐世保市で映画とショッピングを楽しんだ後、夕食をどうするか相談すると道雪が罪のない笑顔で驚くべき提案をしてきた。彼が住んでいる男性用幹部宿舎で一緒に作って食べようというのだ。


「僕が今いる宿舎、僕しかいないから教子さんも自由に入れるよ。管理人さんは平日の昼間しかいないし、鍵も僕が管理してる。女性を入れてもいいよって、管理人さんも笑顔で言ってくれたよ」


私は驚いて彼をたしなめた。管理人の余計な気遣いはこの際、置いておいても、これを駐屯地の脳筋娘たちに聞かせるわけにはいかない。


「あなた、それ、駐屯地で絶対、話しては駄目よ。護衛とか何とか言って入り込む輩が出てくるわ。もし聞かれたら女子禁制って答えなさい」


「え?・・・うん。いいけど。教子さんは来るよね?」


「私はいくわ」


道雪は、私が知る男性とは違い、女性に対する警戒心がない。自分が女性からどれだけ魅力的に見えているかなど、考えたこともない、という感じだ。これでよく、今まで無事でいられたものだと心配になってくる。


私の心配をよそに、彼は、一緒に食べる夕食について、本当にうれしそうに話しかけてくる。


「食堂のキッチンも、業務用だからすごいよ。作ってると不思議と料理がうまくなった気になるんだ。教子さんも一緒に作ろう。シェフの気分が味わえるよ」


「そうね。一緒に作ろうか。楽しみね」


一緒にいると、つくづく感じる。

私は彼の笑顔に逆らえない。


*****


夕食はカレーを一緒に作って食べた。肉と野菜を切ってルーで煮込むだけだけど、一緒に作るのは楽しく、味もよかった。食器も二人で洗った。


今は、道雪の部屋で彼が持ち込んだビールを飲みながら、駐屯地の馬鹿娘たちの失敗談で盛り上がったところだ。


時計を見ると21時過ぎ。そろそろ楽しいだけの時間も終わりだ。私が時計を気にするそぶりを見た彼は、アルコールで頬を赤く染めた顔で訊ねてくる。


「教子さん、今日、外泊届け、出してますよね?」


もし、<出しているか?>と問われたら私は答えに迷ったろう。

強がって<出していない>と答えたかもしれない。私は、彼の優しさに感謝し笑顔で答えた。


「出してるわ。泊まっても良い?」


「うん!泊まっていきなよ」


私は思った。道雪は天使というより小さな悪魔だ。


でも、かまわない。

私は、そんな道雪のすべてを欲した。


*****


朝、私はいつもどおりの時間に目覚める。


広くないベッドの隣。

気持ちよさそうな寝息を立てる彼。

この寝顔はいつまでも見ていられる。思わず額にキスをしてしまう。


右腕に残る合同演習時に受けたあざを見つける。


心が痛む。


トイレに行かせてもらえないという嫌がらせを彼が受けたと聞いたとき、私は冷静さを保つのがやっとだった。


こんな風に彼を見つめていると愛しい気持ちや切ない思いがあふれ出してくる。



私は心から願った。

この幸せが続くことを。





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