表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

要求の多い脅迫屋

掲載日:2018/01/09

前回の作品『臓器林の毒リンゴ』とは180度方向性を変えてみました。

お楽しみください。

一通の脅迫状が届いた。



『お前の家族が泣き叫ぶ姿が見たくなければ、私の要求に従え。

まず、駅前のヤマバ電機に迎え。そこには同胞がたくさんいる。間違っても誰かに助けを求めようとするな。

1番人の多いエリアに次の要求は置いてきた。』



僕を愚弄するつもりか。僕はしがない探偵だ。

この所、依頼状が山ほど届いていて、こんな戯れ言に付き合っている時間などないのだ。


しかし、困った。僕には、愛する妻と娘と息子がいるのだ。


家族の命を引き合いに出されてしまえば、どんな依頼より最優先だ。遊びに付き合ってやろう。



僕は、犯人の要求に従い、ヤマバ電機に向かった。

駅前という立地も功を奏してだろう、あふれんばかりの人だ。


1番人の多いエリア…どこだろうか。


普段はあまり電機屋に行くことがないため検討がつかない。直感とこの目で探すしかない。


むぅ…。どのエリアも人が多いじゃないか。

僕は、広大なフロアをくまなく探索した。


ゲームコーナーが1番人で溢れていたが、それらしきものは見つからない。

だいたい人の多さなど時間帯によって変わり得るだろう。

単なるイタズラに踊らされたのだろうか…。



探偵は、普段は人探しを手伝ったり、尾行をしたり、正直泥臭い仕事だ。

だがこの所は、変わった依頼が多い。

この街で、不審者が発生しているようなのだ。


不審者の特徴は概ね一致している。

がっしりとした体格で、ヒケが濃く、子供を付け回しているらしい。

完全に同一犯がこの街で悪さをしている。

時には、家の中に入ろうと試みることもあるようだ。


そんな仕事の悩みに思い耽っている時に閃いた。


1番人の多いエリア…!

ここじゃないのか?


僕は女子トイレの前に向かった。

駅前という立地もあり、女子トイレは常に混雑しているのだ。ここなら、いつも長蛇の列だ。


女子トイレの前には生け花があった。

付近を調べると、覗き込まないと見えない裏に一通の手紙があった。



『お見事だ。駅を挟んで反対側のおもちゃ屋にむかえ。

今度は、簡単だ。1番大きいぬいぐるみのそばだ。

そこにも、同胞は多い。余計なことは考えないことだ。』



完全に弄ばれている。


子供の寄り付きそう場所にばっかり連れて行こうとするな…。こいつ、もしかすると、依頼のあった不審者なんじゃないか…?

僕が、行方を嗅ぎまわってることに逆恨みでもされたか。

だとすれば、僕の子供達が不安だ。



私は急いで要求に従い、おもちゃ屋に向かった。


むぅ…。ぬいぐるみコーナーはどこだ…。


入り口から1番奥か…。仕事ばかりの僕の体には、少しの走りがフルマラソンのように辛い。


ぬいぐるみコーナーを注意深く調べた。

しかし、大きなぬいぐるみなど殆どない。

女の子向けの小さいものばかりだ…。


一応、他のエリアも、それっぽいものがないか確かめてみた。どこが、簡単なんだ…!ぬいぐるみだけでも種類が多すぎるぞ…。


諦めかけそうになり、店の入り口にむかった。



しかし、同胞がいると言いながら監視されている気配はないな…。

だいたいこいつは、単独犯だろう。

さては、はったりだな…。臆病なやつめ!


その時ふと閃いた。

この店で1番大きいぬいぐるみ…!

こいつのことか!


おもちゃ屋の店の入り口には、大きな熊のぬいぐるみがあったのだ。

何年もここでお客を招いているのだろうか。

薄汚れており、少しその表情も不気味だ。


どれどれ…。

あたりを探ると、やはり目立たない傍に、手紙があった。



『流石は腕のある探偵だ。褒めてやろう。

次が最後の要求となる。坂を下って、花屋にいけ。


一応繰り返しておくが、そこにも同胞は多い。

余計なことを考えれば、時間が過ぎていくぞ。


花屋に着いたら、アネモネの花を探せ。

その花に要求は託した。


タイムリミットは午後9時までだ。

私の要求に応じられなければ、午前0時、お前に代わって、私の服は真っ赤に染まる。お前の子供の笑顔は奪われるだろう。』



ふざけやがって…。僕の子供達に何をするつもりなんだ!

犯人は、ここのとこ依頼のあった子供大好き髭面親父に違いないな。


日も暮れはじめている。とにかく急がなければ。



僕は、要求に応じて花屋まで駆け下りた。

アネモネの花…アネモネってどんな花だ…?


「すいません…。アネモネの花を探しているのですが…。」

「アネモネですね。お客様ラッキーですね!

ついこの間入荷したばかりなんですよ」

「そうでしたか。ちょっとゆっくり見て考えてみます。

どうもありがとうございます。」


僕は、アネモネの花の周辺を探しまわった。

今までどおり、手紙が…あれ…見つからない。


一応店内の手紙を隠せそうな場所をくまなく探した。


本当にさっきの手紙が最後の要求だったのだろうか。

アネモネの花に要求は託した…か。


「何度もすいません…。アネモネはどういう花なんですか?」

「アネモネは白や赤や紫の可愛らしい花で、プレゼントなんかにはとっても人気なんですよ。

でも、すみません。たまたま入荷したのが紫色だけなんです。」

「何故紫色だけなんですか?」

「私が個人的に好きなんです。アネモネは、花言葉が〝恋の苦しみ〟だったり〝見捨てられた〟だったり切ない花なんですけど…紫色のアネモネは〝あなたを信じて待つ〟が花言葉なんです。なんだか素敵じゃないですか?」



あなたを信じて待つ…か。

この花に込められた要求…。


犯人は何故、タイムリミットが9時だと言ったんだ?


午前0時に犯人の服が真っ赤にそまる?


犯人は子供好きのヒゲ面の体格がいい男?


電機屋やおもちゃ屋や花屋に同胞?


子供たちの笑顔?



「すいませーん。ここって今日何時までやってます?」

他の客が花屋さんを呼びつけた。

「いつもは8時までですが、今日は9時までやってますよ!なんたって…」



私はピンと閃いた。

閃くと同時に、走った。今の時間は…8時15分か。

間に合ってくれ…!


犯人はこのために、わざと店内を回らせたのだな…。

頭のキレるやつだ。


おおかた事件の真相は分かったぞ…!


私は残りの力を振り絞って、全力疾走した。

愛する子供たちのために、愛する妻のために…!



8時54分。

私は、再び花屋さんに戻っていた。


「すいません…!

もう1つだけ教えて欲しいことがあるのですが…。」



私にやれることは全てやった。

悔いはない。


犯人の脅迫に屈することにしたのだ。


私は自分が恥ずかしくなった。

仕事に追われる毎日で、大切なことを忘れていたのだろう。



私は、ボロボロの足を引きずり、愛する家族の待つ自宅に帰宅した。


子供たちはすでにスヤスヤ眠っていた。


「あなた、おかえりなさい!ちょっ…!」


僕は妻を抱きしめた。


「ちょっといきなりどうしたのよ」


僕はおもむろに真っ赤なバラの花束を渡した。


「渡したいものがあるんだ…脅迫屋さん。せっかくのクリスマスだからね。いつも仕事ばかりでごめんな。君なら赤いバラの花言葉は分かるよね…?」


「流石名探偵さんね。少しは楽しんでもらえたかしら?」


「お陰で君がサンタにならないで済んだね。子供たちのプレゼントは閉店間際に駆け回って、買ってきたよ」


僕は、電機屋で買ったゲームソフトを息子の靴下に、おもちゃ屋で買ったぬいぐるみを娘の靴下に忍び込ませた。


今日の夜は、この街のあちこちで、子供好きの赤い髭面親父が、子供たちの笑顔のために、脅迫に応じるのだろう。


明日の朝が楽しみだ。

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

今後とも、黄金のどんぐりを宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ