08 メロン
「あっ」
私の苦しい誤魔化しに怒鳴った彼だったが、その後すぐに何かを思い出した模様。ビクっと跳ねるように声を出した彼は、みるみるうちに顔を青くしていく。
「……どしたの」
「メ、メロン……」
「……へ?」
「melonが入ってた! 俺、ついこの前電車の定期を更新したばっかりだったんだって!」
せっかく冷静を取り戻していた彼だったが、melon――電車の定期機能の付いた電子マネーカード――の紛失に気付いた途端、ギャグ漫画の如く“オロオロ”し始める。
「いや、大丈――」
「俺、十二駅分の定期だから、半年で五万円超すんだよ! え、どーすんの……やべぇ、超やべえ!」
この男子高校生は、melonその物がデータを管理しているとでも思っているのか、この世の終わりの様な顔で私にしがみついていた。
「うっわ、最悪……マジ最悪」
お母さんに怒られる、だの何だの喚き、ガクリと項垂れた彼の頭を、私は慰める様に抱きしめた。
「――えっ」
動揺する彼を他所に、私は子供に言い聞かせるように話し出す。
「大丈夫、それは駅で言えば再発行出来るから。一回家に戻って、親に保険証か何か借りて、それ持って駅に行けば大丈夫。まずは、財布を擦られたって事を警察に言いに行こうか、ね?」
ね? と言って、抱きしめていた頭を話す。
「……おま、マジ何なの」
「え、あ……ああ。ご、ごめんねぇ……」
枯れた生活の私にとっては、不安がる子供をあやす感覚だったのだが、どうやら現役男子高校生には刺激が強かったようだ。
予想外の顔をされてしまい、私まで恥ずかしくなってきてしまった。そのせいか異常に周りの視線が気になる。
「う、あ、うん! まずは警察! 一緒に行ってあげるから、ほら早くついてきてね」
一刻もこの場から去りたいと、彼の制服の袖を摘んで歩き出した。