06 は最悪だった
「……きゃっ」
犯人の後ろ姿が見えてきた! と思ったのもつかの間。
彼を引っ張っていた右手がグッと後ろに引かれた。思いの外強い力だった為、危うく倒れそうになる。
「ちょ、なんで止まるの!」
「それはこっちのセリフだ! 何なんだよ一体、俺はお前の事なんか知らない! 勝手に手なんか触るな!」
大声で私に怒鳴りつけた男子高校生は、私の手を勢いよく振りほどくと、背中を向けて元の場所へと歩き出してしまった。
――は!? 何なのよ! こっちは親切心で……
と、言葉に出てしまいそうなのを飲み込む。引ったくりに気づいてない彼にして見れば、私なんかただの変質者だろう。
背後を確認すると、一瞬見えた犯人の背中は、大勢の人の中に消えていってしまっていた。
このままでは後々擦りに気付いた時、真っ先に私が犯人に疑われてしまう、と思った私は、今度は軽く男子高校生の肩を叩く。
「はぁ、悪かったわ。突然だったのは謝る……だけど、あなた。それでいいの?」
「なんですか、しつこいな! こっちは友達と――」
「あなた、財布擦られてますよ」
もう犯人を追いかけるのは不可能だと思った私は、淡々と事実を彼に告げる。
すると彼は面白いほどに顔色を変えていった。
そして、無言でカバンの中をチェックする。
「……な、なんでそんな大事な事、先に言わないんだよォ!」
「言ったよ! 聞いてないそっちが悪いんじゃない!」
「真純、これが私と男子高校生の出逢いよ」
「悪ぃ、全く最初聞いたの告白の話と繋がんねぇわ。もう終電も無いし、最後まで話聞いてやる。――で? その後は?」
もう何杯目になるか分からない空ジョッキを左手に、私は少し考えてから口を開く。
「腕、脱臼気味だった」
「違う、その後ってそーゆー意味じゃない」