04 本物と偽物
ふふふーん、と鼻歌を歌いながら、二階の窓際の一人席に着いた。
目下では通行人が引っきり無しに動いている。
私はそれを眺めながら、出来たてのビックモックにかぶりついた。
「これ、いつも思うけどさぁ、紙に包まれてたら食べやすいのに」
ポロポロとこぼれ落ちるレタスに文句を言いながら、トートバッグの中からスマートフォンとタブレットを出した。
スマートフォンのブクマから、日経株価を開く。そして、タブレットを片手で操作しながら、それをグラフに打ち込んでいった。
――うわぁ、さすがゴールデンウィークだね……。
徐々に仕事に熱が入っていくと、私はブルーライトカット眼鏡さえ取り出し、物凄いスピードで端末を操作し始めた。
そして、ひと段落してコーヒーでも飲もうとした瞬間。周りのざわめきに気づく。
「……ねぇ、あの女子高生……ヤバくない?」
「なんか、キャリアウーマンって感じ? 本物“ブルゾンさゆり”」
「高校生だよ? 音ゲーでもやってるんじゃなくて?」
「いや、さっき画面見えたら、“日経株価”って……」
――あ、やっちまった……。
つい、いつもの癖で開いてしまったスマートフォン。今どきの女子高生なら音ゲーだの、Fwitterだの、インスタントグラムだのをやるのだろうが、私が開いたのは完全に仕事。
それも、端末二個使いの女子高生なんて数奇でしかない。
――もしかして、女子高生のコスプレしてる“残念ババア”ってバレた!?
ばっ、と顔を上げると、噂話をしていた集団と目が合ってしまった。
「っ!」
驚いたのは向こうも同じだったようで、あわててどこかの席に移動して行った。
私ははぁ、とため息をつき、手元にならべられた物を見る。
かなりのボリュームのあるビックモック。砂糖の入っていないコーヒー。そして、仕事関係の情報しか入っていない端末機二台。
――はぁ、いつの間にこんなにオバサンになったんだろ。
これで髪も染め、きちんと化粧をして、ハイヒールなんて履いていたら、完全にかっこいいキャリアウーマンになるのだろうが、私は違う。
普段でさえ化粧もせず、髪を無造作に一つ縛りにして出勤している私は、ただ単に仕事に追われた枯れた女である。
擦れてない女、なんて言えば聞こえはいい。だが、そんなのは言い訳だ。
例えセーラー服に袖を通しても目下を通る、キラキラ輝く女子高生とは、根本的な何かが違っていた。
「そーいえば、五月ってまだ冬服だよね。……私、なんで半袖来てるんだろ」