03 最期の思い出
「こんにちは、こんにちは! ああ、なんて今日は天気が良いの!?」
雲一つ無い高く澄んだ青空。膝丈のプリーツスカートを翻し、真っ白な生地に良く映える紺色のセーラー襟。数年前の流行りの丈のソックスに、傷の付いた茶のローファー。
胸元の桜の校章は隣町の学校の物。そして、黒のネームプレートには金の文字が刻まれている。
“Kanzaki Teru”
――今、何やってんのコイツって思った人いるでしょう?
そう、私。神崎輝、二十一歳。セーラー服を来て堂々と街を歩いているのだ。
つい数十分前、部屋の隅で見つけた紙袋。中を開けてみたらまさに玉手箱。三年以上もそこに封印されていたらしい、懐かしの高校の制服が入っていたのだ。
そう言えば、卒業した後「制服テーマパーク」したいだか、何だか思って取っておいたのを思い出した。
だが、そんな暇なく月日が過ぎ、忘れ去られていたようだ。
さすがにもう制服なんて歳じゃないし……とごみ袋に突っ込んだ――はずだったのだが、今現在着用しているという矛盾が生じている。
「最期の思い出よー。いいじゃない、いいじゃない! ゴールデンウィークなんだからっ!」
ちょっと人目も気になるが、そこは都会というこの町が全て許してくれている気がする。
実際、こういった遊びをしているのは私だけではないだろう。明らかに年齢の高い女子高生を見た事が何度もある。
チラッとショーウィンドウに写った自分と目が合った。
「……なんだ、そこそこイケてるじゃない。まさか、こんな事に役立つなんてねぇ」
日頃忙しい為、CCクリームをぬりたぐり、アイラインで目の淵を描く。軽く眉毛を染め、薬用色付きリップを塗ってはい終わり。そんななんちゃって化粧で過ごしている私の肌は、それほど劣化していないようだった。
“若干肌がくすんでる高校生”くらいには見えるのではないだろうか。
「にししっ」
さすがにスクールバックは見つからなかった為、トートバッグで代用している。私はその中から有名ブランド“Semantha Thavesa”の財布を取り出し、憧れだった制服モクドナルドを満喫しに、自動ドアを潜った。
「いらっしゃいませ! ご注文お決まりでしたら、こちらでどうぞ」
笑顔が素敵なお兄さんが、女子高生の私に向かって声をかけてくる。
――ああ、なんて楽しいのだろう!
このお兄さん、大学二年生位かな? もしかしたら、年下(に見える)の私に恋心とか抱いちゃったりして! (実際は私が年上だけど)
なんてほんわりと妄想していると、お兄さんが少し困った顔で声をかけてくる。
「お、お客様……?」
「あ、ごめんなさい! えっと……」
そう言えば、メニューを考えていなかった事に今更気づく。後ろを見れば、長蛇の列が出来上がっていた。
「ビックモック、コーヒーで。砂糖いらないです」
「びっくも……か、かしこまりました……?」