02 部屋掃除
――遡る事、三ヵ月前。
五月晴れとはよく言ったものである。窓を開けると、ひんやりした空気と共に、花の甘い香りが吹き込んで来る。眩しさに目を細めると、雲一つない高い空が広がっていた。
「いー天気」
ボサボサの頭を掻きながら、私はベット脇に直おきしてあるテレビを付けた。
『今年のゴールデンウィーク初日は、天気も良く、各地観光地は賑わいを見せております。帰省ラッシュも始まっていて東名高速道路は下り線六キロの――』
テレビでは毎年恒例の帰省ラッシュのニュースが放送されていた。テレビのチャンネルを変えても、街角のインタビューや、新人芸人特番など、これと言って私の興味を引くものはない。
「今年はお母さん達、旅行行っちゃうし、実家帰るわけでもなし! ……やる事ないなぁ」
二十一歳という人生の中でまだ華のある年頃の女……の筈だが、その“華”があるかどうかは、個人の差が大きい。
私はどうやら“無い”方の人種らしかった。
「真純は……」
昨晩のうちに連絡してあった真純へのLONE――メッセージ交換アプリ――を確認する。
「チッ。いいよなぁ、彼氏持ちは」
池袋の有名なパイを食べに行こうと言った誘いは、“悪ぃ、彼氏”の一言で玉砕された。
友達もいない訳では無いが、十八歳からほぼ休みのないブラック企業に務めた事をきっかけに、疎遠になってしまった。
唯一繋がりのある高校の友達は大学四年生。忙しい時期だろう。
「仕方ない。随分とご無沙汰になってたコイツら。片付けますか」
私はパイプベッドの上に仁王立ちにになり、散々な模様の部屋を見下ろした。
脱ぎ散らかされた洋服達。不思議たことに、コートが床に落ちている。ここ半年まともに部屋の掃除なんてしていなかったのだ。
私は部屋の窓を全て開け、マッハで片付けを始めた。
やり方は簡単。用意するものはごみ袋と洗濯カゴだ。散らかりの原因がほとんど洋服やお弁当のごみ、ペットボトルなので、捨てるか洗うかの二択なのだ。
「これは、捨て! 洗濯。……んー、もう毛玉だから捨て!」
ブラック企業に務めて以来、如何に“時間”が大切かを学ばされた。仕事の癖が抜けないのか、そもそもそれが性格になったのかは知らないが、私は躊躇せずに仕分けをしてゆく。
「仕分け仕分け……二位じゃダメなんですかっ! なんつって……って、あ! これ――」