反抗する生徒たち 2
今回も鬼畜教師が派手に暴れます。
Let's 鬼畜!
童貞勇者が校庭に出ると、そこには既にクラスメイトが集まっていた。しかし、サディの姿はどこにもない。
「あれ? 先生は居ないのか」
男子生徒がクラスメイトに聞いた時、サディがやって来た。
「悪い悪い。ちょっと校長に許可取ってて、遅れちまった」
サディのその言葉に、クラスの全員にどよめきが走る。童貞勇者がサディに聞く。
「許可されたんですか!?」
魔法とは、人類殲滅生物『魔王』を倒すためだけに作られた技術だ。よってその威力は絶大である。一発でも当たれば人体は吹き飛ぶし、魔法の種類によっては建物を一撃で塵に変えることができる。
それ故に、授業以外での魔法の争いは原則禁止となっている。どうしてもやりたいならば校長から許可を貰うか、魔法を使わないで模擬刀の試合をするしかない。今回の戦いは完全に私情なため許可されないと思っていたのだがーーーーー
「い、一体どうやって許可を・・・」
「『生徒に喧嘩売られたから戦うわ』って言ったら、『サディ君なら死なないし大丈夫だろ』って言われて普通に許可されたが?」
驚いている生徒たちに、サディはあっけらかんと答える。童貞勇者はしばらく呆然としていたが、やがて我に変えると、サディに手のひらを向けた。
「じゃあ始めましょう、先生」
十五メートルの距離を挟んで、二人は向かい合う。
「では先生、いきますよ」
「ああ、来い」
サディの返事とともに、童貞勇者が呪文を唱える。
「輝け【ファイアー・エンブレム】!」
童貞勇者の手のひらから炎が吹き出し、サディを襲う。くらえば即死の攻撃をサディはーーーーー
「ひょい」
「な・・・」
かわした。それも魔法を一切使わずに。まるで酔っぱらいが動くかのような動作で、的確に避ける。
「くっ。次だ! 轟け【ウォーター・ルイアーガ】!」
童貞勇者が手のひらをサディに向け、呪文を唱える。童貞勇者の手のひらから凄まじい量の水が吹き出し、一直線にサディを狙う。だがサディはーーーーー
「ひょい」
「ま、またかわしただと・・・」
サディがあまりにも平然と避けているので忘れていたが、【ウォーター・ルイアーガ】の速度は音速並みだ。音速級の攻撃を避けるなんて、サディはどんな身体能力をしているのだろうか。
「ほらほら、さっさと来いよ」
「ッ! 痺れろ【エレクトロ・マグナス】!」
童貞勇者が懲りずに呪文を唱え、サディに向けて放つ。手のひらから電撃がほとばしり、サディ目掛けて飛んでいく。サディはまたもそれを千鳥足で回避する。
「くそっ! 輝け【ファイアー・エンブレム】!」
「ひょい」
「くそっ!なら轟け【ウォーター・ルイアーガ】!」
「ひょい」
「くそっ! なら次はーーーーー」
童貞勇者が魔法を使う→サディが避けると言ったやり取りが数回続いた後、サディが挑発するように言う。
「その程度か、童貞勇者。ならお前は一生童貞だな」
「うるさい! 黙って見てろ!」
敬語すらかなぐり捨て、童貞勇者が呪文を唱え始める。
「輝け・そして轟け・そして痺れろーーーーー」
「こ、この呪文はーーーーー」
一人の女子生徒が何かに気がついた。
「先生、逃げてください!」
女子生徒の悲鳴とともに、呪文が完成する。
「しねぇ!」
童貞勇者が口の端を歪め、サディに向けて魔法を放つ。炎と水と電撃が同時に飛び、その衝撃で空気がビリビリと震える。
「やべっ!」
空気の震撼からかなりの威力だと判断したサディは、地面に転がり紙一重のところで回避する。背中を三属性の光線がかすめ、わずかな痛みが走る。サディは自分の身体を確認して、五体満足であることを確認すると、ホッと胸を撫で下ろした。
「あやうく死にかけた・・・」
「くそっ! ならもう一度!」
童貞勇者が再度呪文を唱え始める。その直後、鞭に頬を張られて地面に倒れた。
「な、なんだ!?」
「反撃開始だ、童貞勇者」
いつの間にかサディの右手には鞭が握られていた。童貞勇者がそれに気がついた瞬間、サディが鞭を振るった。鞭が超速で振るわれ、童貞勇者が声にならない悲鳴を上げる。
「せ、先生、その鞭は一体・・・」
「ふっ。調教用の鞭だ」
女子生徒の質問にサディは爽やかな笑顔で答えながら、鞭を振り続ける。鞭の速度はだんだん速くなり、童貞勇者の身体を蹂躙していく。
「ふむ。なかなかいい反応だな。このまま行けばあと五分くらいで目覚めるか」
サディは真剣な顔つきで鞭を振るいながら、童貞勇者の反応を見ている。童貞勇者の顔はよだれまみれになっており、確かにドMに目覚めるのも時間の問題だった。
「ほ、ほぉぉぉぉぉぉ!」
「よし! あと三十秒くらいだ!」
サディが嬉しいそうに言い、鞭を振るう速度がさらに速くなる。
「五、四、三、二、一!・・・・ッ!」
あと一秒で調教が完了する、と言うところで、どこからか飛んできた銃弾が、サディの鞭を遮った。あと一歩のところで調教を邪魔されたサディは、半ギレで辺りを見回した。
「誰だ、俺の調教の邪魔をした奴は⁉」
「やはり、調教でしたか」
悪気のなさそうな声が聞こえると同時、校庭の隅からアーチャが現れた。その手には、つい先ほどサディの鞭を止めたであろう拳銃が握られていた。
「お前か、アーチャ=ミリタリー!」
調教を邪魔した犯人ということも相まって、サディは激怒しながらアーチャに詰め寄った。
「なんでそんな事をした⁉ これは神聖な試合のはずだぞ、どうして水を刺すような真似をした⁉」
「あれは戦いではなく一方的な蹂躙です。神聖な戦いではありません」
アーチャは悪びれた様子もなく言うと、サディの目を見た。
「今回の戦いでよくわかりました。この事は校長先生に報告させてもらいます」
「・・・マジ?」
「マジてす」
そう言うとアーチャはスタスタと歩いていってしまった。
後には当事者二人と、大量の生徒たちが残された。