その男、鬼畜につき
「じゃあとりあえず、全員俺に土下座しろ」
その言葉を聞いた生徒たちは一瞬、己の耳を疑った。
「先生、今なんて?」
「だから、土下座しろって言ったんだよ。あ、なんなら四つん這いになって豚の鳴き真似でもいいぞ」
聞き間違いではなかった。それどころか、より悪くなっている。
「どうした、出来ないのか?」
サディが挑発するように聞いてくるが、出来るはずがない。そんなものは羞恥心が有る限り絶対に無理だ。
そんな生徒の考えを読んだのだろう。サディは舌打ちすると、「授業を始める」と言って黒板に字を書き始めた。サディが生徒たちに背を向けると、生徒たちは小声で相談を始めた。
「ヤバいよあの先生」
「開口一番『土下座しろ』はさすがにないだろ・・・・」
「でも授業は真面目にやるかもよ。ほら、今だって一生懸命黒板に書いてるし」
その生徒の言葉に、生徒たちの視線がサディに向けられる。生徒たちの視線を一点に浴びて、サディが黒板に書いた言葉は、
野球拳大会
「は?」
誰からともなく間の抜けた声が漏れる。サディは生徒たちの方を向きながら爽やかな笑顔でいい放つ。
「今日の一、二時間目の授業は野球拳大会とする」
「はああああああ!?」
生徒たちの叫び声が重なった。
「ヤバいよあの先生」
「アイツ本物の鬼畜教師だよ」
結局、二時間ほど説得してどうにか野球拳大会は免れた。サディが教室から出た瞬間、生徒たちが一斉に騒ぎ始める。
「確か次の授業もあいつだよね。今度は何されちゃうのかな」
生徒の一人が身を掻き抱く。それを見て一人の男子生徒が立ち上がった。
「俺、校長に文句を言ってくる」
たがその時、休み時間終了のチャイムが鳴った。男子生徒はしぶしぶ椅子に座る。サディが教室に入ってくる。脇に小さな箱を抱えている。嫌な予感がする。サディは教壇に立った瞬間、箱を開けながら言う。
「えー、三時間目は錬金術で作ったスライムの対処方法をします。では初め」
瞬間、箱の中から銀色の塊が数個飛び出した。スライムだ。スライムたちは箱から飛び出すと、生徒たちに向かって飛んでいった。
「うわあああああ!!」
教室内はパニックになった。生徒たちがやみくもに撃った魔法が教室の壁を破壊していく。その様子を、サディは満面の笑顔で眺めていた。
「服の中にスライムが!誰か助けて‼」
「よし、俺に任せろ!」「いや俺が!」「俺こそが!」
「男子何でそんなに嬉しそうなの!?」
その後、授業終了五分前にどうにかスライムを全滅させた。スライムは攻撃力こそ無いものの、とにかく速いので一体倒すのも一苦労なのだ。
「次の授業は校庭で行う。さっさと着替えて校庭に出ろ」
だがサディは自分は関係ないとばかりに通達すると、教室を出た。
終了したのはまだ三時間。まだ半分も残っている。
生徒たちはこの後の悪夢を想像し、ため息を吐いた。
こんな教師がいたら面白いかもしれませんね。