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バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
第二章・御家騒動と他者の思惑
7/44

1.事故と訃報

2016.8.29 誤字修正

2017.12.24 三点リーダーを修正。


第二章開始。

メディーナさん視点です。

 そうして、その日も、バード君とジョギングして、朝食をとって、いつもと同じように過ぎていくと、そんな風に思ってた。


 だけど、この日から、私の日常は一変する。


 それは、バード君がイーロゥ先生と訓練をする時間のほんのすこしだけ前、イーロゥ先生がバード君を迎えに来るのを待っていた時のことだった。



 窓の外で何かが光った、と一緒に爆発音。急いで窓に駆けより様子を伺う。よくわからないわね。あれ? 煙?


 中庭の奥の方から煙が上がっているのが見える。違う。距離的には……


「どう? 何かわかった?」


 慌てず、椅子に腰かけて、ぬるくなったお茶を口にしてたバード君が訊ねてくる。ちょっと落ち着きすぎじゃないかしら? こんな図太い子だったっけ?


 おっと。私も危機感が足りないわね。とりあえず、バード君に返事してと。


「正殿の方で何かあったみたいね? 火事かな?」

「火事であんな音はしないと思う」

「そうね。……ちょっとここでは何があったかわからないわ。聞いてくるね」


 そう。何かあったのは正殿の端の方で、すぐここが危険になるわけじゃなさそうだったから、少しだけ落ち着くことができた。


(とりあえず、警備兵さんかな?)


 そのまま、バード君の部屋から出る。少し御殿の中が慌ただしい。警備室に行くと、緊張した面持ちで警備兵さんが一人待機していた。


「正殿の方でなにかあったようですが、わかりますか?」

「は。研究室で爆発事故があったと聞いています。御殿にまで危険は及びません。現在、みだりに動かないよう各所に伝達中であります」


 あれ、すれ違ったみたいね。


「詳細が分かり次第、再度連絡します。今は慌てず、連絡が取れるよう待機をお願いします」

「わかりました。部屋に戻りますので、詳細がわかり次第教えてくださるようお願いします」

「は」


 警備室を退室、部屋に戻って、正殿の研究室で事故があったこと、こちらに危険が無いこと、ここで待ってれば詳細を伝えに来てくれることをバード君に伝える。


「今日の授業は?」

「無理じゃないかな」


 バード君、少し残念そう。何も、イーロゥ先生の日に起きなくてもいいのに、と思ってそうね。


 …………


「退屈だね」


 バード君がほんとに暇そうにしつつ、そう呟く。うん。楽しみな授業がなくなって、ただ待てと言われれば、そうなるよね。


 と、静かな部屋の中をノッカーの音が響く。連絡がきたかなと思い、扉を開ける。扉の前には護衛を付けた役人さんがいた。


(あれ、警備兵さんじゃない?)


 少し疑問に思っていると、「お話しがあります。中で話をさせて頂いても良いでしょうか」と。「どうぞ」と部屋の中に案内すると、既にバード君が余所行き状態になってる。切り替え早いね。


 そこで、役人さんが、事故の説明を始め、そこで……


「本日は王族の方々が研究室を視察中でした。特に国王陛下と皇太子殿下は重傷、クローゼ妃様は重体です」


 研究室の事故が、この国を揺るがしかねない大事件であることを知らされた。



 事故のことをまとめる。何十年も停滞してきた聖典解読だけど、最近少しだけ進展があったみたい。解読された内容を元に研究した結果、水を消費して空気を生み出す魔法が出来た。この空気が、普通の空気とは少し違ってて、軽い空気と重い空気が生まれるらしい。


 あと、魔弾の素材の一つに樹液からつくるゴムって素材があって、これを使うと、すごく薄い、空気を閉じ込める膜を作れるみたい。


 ゴムで作った薄い膜で軽い空気を閉じ込めると、その膜は宙に浮いて、手を放すとどこまでも上昇するようで。研究所では、これに風船って名前をつけた。いつか、風に舞う船を作りたい、その第一歩として。


 この風船、現時点では実用性は無いけど、ふわふわ漂う風船を眺めてるだけでも楽しいみたい。最近の停滞していた雰囲気を良くするために公表してはどうかと意見があって。聖典解読した結果だから、まずは王族の方々を呼んでの視察となったと。


 事故が起きた詳しい原因は不明だけど、魔法で生み出した空気が原因ではないか、と推測しているみたい。


 こんなことを考えれるようになったのはもっと後のことだけど。



 私はその話を聞いて、国王陛下よりも、皇太子殿下よりも、この国のことよりも、クローゼ様重体の報にショックをうけた。情けないけど、このときはバード君のことも頭になかった。母親が重体なんて聞かされて一番ショックを受けてるのはバード君のはずなのに。


 後の話は、正直上の空だった。ただ、クローゼ様は国王陛下から少しだけこの研究のことを聞いて、ぜひともその風船を見たいと陛下にお願いして視察に参加した、なんて聞いて。


 息子のバードが最近鳥のことを熱心に勉強してる、空を舞う鳥に憧れているみたい。空に漂う風船というのをぜひ見てみたい。次に会うときに風船を見せてあげればきっと喜ぶから、そんな理由で視察に参加するようお願いした、なんて話を聞いて。


 今は面会謝絶と言われて。御内密にと言われて。話を終えて。退出されて。バード君と二人きりになって。我慢できたのはそこまでだった。


 声をだして泣いた。そのあいだ、ずっとバード君が慰めてくれて。「大丈夫だよ」「きっと元気になるよ」って、何回も言ってくれて。一時間以上も、ずっと。


 すこし落ち着いてた。「ごめんなさい、ありがとう」バード君に伝えると「もう大丈夫?」って。うん。随分心配かけた。「良くなったら、お見舞いに行こうね」「うん、そうよね、お見舞い行こうね」、そんなやり取りをして、返事して。逆だよね、本当は。たよりないお姉さんでごめんね。



 クローゼ様の訃報が届いたのは、午後、日が沈む少し前のことだった。



 バード君にクローゼ様が亡くなったことを伝える。お葬式のことを伝える。泣きたくなるのをこらえ、淡々と。バード君は私の一言一言に、「うん」とだけ。


 夕食を厨房に取に行って。応接間の机に並べて。


 バード君は何も言わない。ただ黙々と夕食を食べる。私も何も話さない。話せることがない。そうして静かに夕食を終えて。


 食器を集めて、片付けて、厨房まで運んで、部屋に戻る。


 バード君は応接間にはいなくて。寝室に一人戻って。泣き声が漏れ聞こえてきて。


 私は声をかけず、そっと部屋を後にした。



 次の日、バード君と一緒にクローゼ様の葬式に参列する。


 クローゼ様の側付きの方が葬儀を取り仕切る。身分の高い人はいない。参列者はバード君、私、御殿に関わる役人数人、あとは多分親交があったであろう役人、女中、兵士が少し。


 バード君と一緒に棺に花を添える。棺が持ち上げられる。神父様を先頭に、棺、参列者で列を作る。私とバード君は棺の横。王城を出て、教会まで歩く。お墓まで運ばれて、埋葬される。もう一回、バード君と一緒にお墓に花を添える。


 そうやって、簡素なお葬式を終える。部屋に戻る。特にやることが無い。話すこともない。悲しみを引きずって、ほとんど無言のままその日も終える。



 次の日の朝部屋に行くと、既にバード君は起きてて朝の訓練に行こうとしていた。


「メディーナさん、遅いよ」


 えっと、バード君?


「毎日やるって決めたのに、一日さぼっちゃったんだ。今日は走るよ」


 ちょっと空元気? いや、だいぶ、かな。


「……走るくらいならできそうだから。他は出来なさそうだけど」


 ……


「……まだ、少し、考えると悲しくなるんだ。集中するのが大事なのに、ちょっと」

「だけど、走るのは多分大丈夫だから。今日は走ろう、って思うんだ」

「メディーナさんも、今日は走らない?」


 うん。そうだね。ずっと悲しんではいられないね。


「うん。そうだね。走るくらいなら大丈夫かな」

「着替えてくるから中庭で待っててね」


 速足で自室に戻って着替えてくる。で、中庭で合流してほんの少しだけ、数分程度だけジョギングする。うん。少しの間だけだけど悲しみが和らいだ気がする。


 バード君も、本格的に走る気はないのだろう。私と一緒に走るのを終わる。

 で、部屋に戻って、話をする。


「当分の間、朝の運動は今くらいにしておいた方が良いと思うよ」

「そうなの?」

「あまり早くに普通の生活に戻ると『情が薄い』とかいう人が出てくるから。結構面倒なんだよ、そういう人」


 つまらない一言をまずは言う。でも、本当に言いたいのは次の言葉。


「でも、ずっと悲しんで、塞ぎ込んでても、クローゼ様はきっと喜ばないと思う。だから、心配をかけないように、少しずつでもいいから元気になろう」


 バード君、だから今日は走ろうと思ったんだよね?


 一昨日、昨日は情けないお姉さんだったけど。いつまでもそんなんじゃダメだから。そろそろ返上させてもらうよ。



 今日は、少しずつだけど、バード君と話をした。まだ、普段通りじゃないけど。少しずつでいいから。少しずつで。


 そうやって、数日が経過して。


 国王陛下、皇太子殿下も、治療の甲斐なく、お亡くなりになられた。お二方とも、先に埋葬が行われ、国葬は一週間後に改めて行われるとのこと。当然、私もバード君も参列する予定。


 バード君の授業は国葬が終わるまでは中止となった。


 今現在、王弟殿下が政務を取り仕切っている。国王陛下にはバード君を含め4人の王子がいるが、皇太子殿下を除くと最年長で17才。国政を取り仕切れる年齢ではないと判断された。


 今は後継者問題のため、事故の調査、責任問題は棚上げされている。次の国王が戴冠するまで、研究室の責任を追及するのは困難らしい。


 王城がいつ正常化するか、先が見通せない状態のなか、女中長に呼び出されて。


 側付き女中の罷免を申し渡された。


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