後世にて、図書館を出て ~ 旅人と相棒の会話 5
2017.12.24 []を『』に修正、三点リーダーを修正。
今まで閑章は読まなくても良いというスタンスでしたが、今話はできれば目を通して頂ければ嬉しいです(まあ、本編に影響しないといえばしないのですが)。
『タイトル詐欺だよ!』
今まで読んでいた、「少年王バード【ビオス・フィア建国王物語】」と題された本を閉じようとして、頭の中を割れんばかりの大声?が響く。
「……別に詐欺ではないんじゃないか? 王として調印もしているのだから。まあ、仮王だったが。第一……
『完全に名目じゃない! あんなの王様じゃないよ! この本の作者おかしいよ!!』
「……第一、実際に建国王として歴史に名を残してるんだ。ビオス・フィアを建国に導いた王として」
『もう少しタイトル考え……って、名を残してるの? 王様として』
吹き荒れる叫び声?の中、ようやく一言説明を入れると、ようやく剣の声が落ち着きを取り戻す。
「ああ。公式には建国王、民衆には少年王として親しまれているな」
そう言って、本を本棚に戻し、剣に語りかける。その後のビオス・フィアの歩みを。
「王位についたリョウ・アーシは常々、『俺はなにもやってねえ。この国を独立させたのも、技術をもたらしたのも、バードたちが全部やったことだ。だから、初代の王は俺じゃねえ、独立をもたらしたあいつらだ』と語ったらしい。彼の意志の元、初代国王はバード、リョウ・アーシ以降の王は二代目から数えることとなる」
語りながら、図書館を歩く。
「そして、一時の王だからこそ、少年王と民衆は呼ぶわけだ。少年の時だけ王の座にあったのだからな。少年期を過ぎてなお王であったのなら、そんな呼び方はされなかっただろうな」
そうして、本棚の並ぶ空間から出て、読書エリアに差し掛かる。
「だが、彼がもたらしたものは独立だけではない。魔法と機械を融合させた新たな技術。それこそが、彼らが作り出し、ビオス・フィアにもたらしたものだ」
そのまま読書エリアを通り抜け、受付の前を通り過ぎる。
「バードたちの開発した飛行機と魔法動力は、ビオス・フィアが得た最初の独自技術だ。そして、その技術は交易都市との相性も良い。ビオス・フィアは彼らの残した飛行機で更なる利益を得る。そして、その利益を惜し気もなく技術開発につぎ込む。魔法動力は効率化していき、それらはやがて他の輸送機械を生み出す。列車とか、大型車両とかだな」
『ふむふむ』
「もちろん、その前から研究開発の下地はあった。だが、バードたちの研究こそが、ビオス・フィアを研究都市国家として花開かせたんだ。建国王という名は、国の形を作った王という意味も込められた言葉なのだろうさ」
話し終えたところで、図書館の入口に到着し。入口の扉を開ける。
青い空に、飛行機が空を舞う。隊列を組んで、華やかに。
石造りの家に、ときおり白い建造物が混じる風景。
舗装された道を、巨大な魔法動力車が走る。
ここは研究都市ビオス・フィア。機械と魔法を融合させた技術を誇る都市国家。
古の遺跡に造られた、独自技術によって栄える街。
遺跡の建造物は時を経るごとに壊れ、新たな建造物に置き換わり。今は僅かに面影を残すのみとなりながら。それでも、古き遺失技術を新しい技術に置き換え、発展を続けてきた都市。
今、この都市は、独立の時より繰り返し開催されてきた独立記念祭の初日を迎え、熱気に包まれていた。
◇
空を舞う飛行機を眺めつつ、話を移す。ビオス・フィアの歩みから、トロア・ミルバスのこと、バードたちのことに。
「トロア・ミルバスは独立後、王を象徴する機体となる。ビオス・フィア国王の専用機となり、空飛ぶ玉座と呼ばれるようになり、そして、その名は代々受け継がれる。空軍一番機、落ちることのない発展の象徴として」
空を飛ぶ飛行機を見上げる。隊列の先頭、祭りの開幕を告げる編隊飛行を先導する、今代のトロア・ミルバスを。
「まず、トロア・ミルバス二号機はバードたちからビオス・フィアへと委譲される。もっとも、二機のトロア・ミルバスは別にバードたちの所有物ではなかったがな」
『……じゃあ、バード君たち、飛行機を失っちゃったの?』
「いや、新たに新造された飛行機をビオス・フィアの政府から買い受けている。月賦でな」
『月賦なんだ。……世知辛いね』
「むしろ温情だと思うがな。この時代は飛行機を飛ばせる人間自体がほとんどいないんだ。魔法動力を駆動するのに特殊技能が必要だからな」
『……おお! デュアルキャスト云々ってやつだね!』
「ああ。実際、特殊技能を必要としない動力の開発は相当難航することになる。そんな時代だ。空路で交易が出来れば、利益を出すのは容易いだろう」
『うんうん』
「しかも、世界を旅したいというバードの望みも叶う。……まあ、飛ばせる人間が限られている以上、ビオス・フィアもバードをつなぎ止めていきたいわけだ。そのための月賦だろうな」
『なるほどね~。ちゃんとバード君の夢はかなったと』
剣の声を聞きながら、苦笑する。結局、夢とは何なのだろうと。
「そうだな。……だが、彼が幼い頃に見た夢は、『自由に空を飛び、旅をする』だろう。月賦に制限された自由とは少し違う気がするがな」
『……じゃあ、嫌々だったのかな? 世界各地を飛ぶために、交易でお金を稼ぐの』
「いや、そうは思わないが」
『私はね、むしろ夢が大きくなったと思うんだ。自由に空を飛び、旅をするっていうのは子供の夢だよ。自分だけの夢。バード君が叶えたのはそうじゃない。ビオス・フィアの期待を乗せた夢を叶えたんだ。だから、王様になってないのに、王様として名を残したんだよ』
「まあ、そうだな」
『だから、月賦に制限された自由じゃないんだよ。期待を背負った夢なんだよ。そして、その夢は、人に認められて初めて見ることができるんだよ』
「……」
『子供の夢ってね、叶えたところでつまらないんじゃないかな。自分一人が嬉しいだけなんだから。だから、例え重くても、何か制限されても、人の期待を背負った夢を叶える方が幸せだと、そう思うんだ。だからね、バード君はきっと、子供の夢を叶えるよりも幸せになれたと、そう思うよ』
「……そうだな。バードは一人では生きられないことを痛感していたはずだからな。自分だけの望みをかなえるよりも、彼にとっては良かったのだろうな」
『そうでしょそうでしょ! えっへん!』
「……いや、別にお前が偉いとは思わんが」
『むぅ!』
「そろそろ公園だな。祭りの本会場だ」
そうして、祭りの会場、都市の中央部にある公園に足を踏み入れる。道は人で埋め尽くされ、常に動く、熱気にあふれた風情の中。剣が、近くの屋台の中を見たのか、声をあげる。
『おお! なんか面白い人形がある! あれ、もしかして?』
「ああ。バード、フレイ、イーロゥ、メディーナが踊っているところを模した人形だな」
『自動的に回ってるね? バード君とフレイちゃん、イーロゥさんとメディーナさん?がペアなんだ』
「まあな」
『メディーナさん、男装なんだ。最後の叙勲式の衣装?』
「いや。王宮に招かれた時は大抵男装だったからな、彼女は。まあ一時期だけだが」
『えぇ~! ドレス着たいみたいなこと言ってなかったっけ?』
「国王主催のパーティーは身分を示すものを着用しなければいけないからな。彼女の場合、騎士号以上のものが無い以上、騎士の衣装にならざるを得ないだろう。ドレスに騎士勲章を付ける訳にもいかないのだから」
『おぅ! それは少し可哀そうだよ! ……着せ替え用の衣装もセットなんだ。バード君は紳士っぽい衣装に、王族のもあるね。……飛行服で踊る人はいないと思うな』
「まあ、その辺りはバードを模した人形だからだろう」
『フレイちゃんは……、ドレスに、白衣?、飛行服?? ちょっと作った人、頭おかしいんじゃないかな!』
「いやだから……」
『イーロゥさんは……、騎士装束に、兵士の衣装?、皮鎧??、やっぱり作った人、頭おかしいよ!』
「……さすがにこれは悪ふざけの類か」
『おお、黒い外套! これ結構似合ってない?』
「……踊る衣装からはかけ離れてるがな」
『最後はメディーナさんだね。騎士装束、ちょっと煌びやかだね』
「まあ、近衛の衣装に近いからな。見栄えは相当良いだろう」
『あとはドレスに、乗馬服、メイド服に、これもメイド服?、あとエプロンドレスに、……なんか偏ってない?』
「多分、この人形の作者のイメージなんだろうな」
『嘘だ! これ絶対趣味だよ! メディーナさん、ここまでメイドに偏ってなかったよ! ……もしかしてジャーニィも?』
「うん? 普通に家庭的で良い人だと思うが、なにかおかしいか?」
『このメイドオンパレードな衣装で疑問を感じなかったのに、その感想が出てくるジャーニィも良く分からないよ……』
そんな会話をしながら、祭りでにぎわう公園を散策する。食べ物を売る屋台、玩具を売る屋台、ときに遊戯に興じる屋台と、さまざまな出店の中を歩き、時に買い歩き、遊び歩く。
そうして祭りを楽しむ中、剣の感慨深げな声が伝わってくる。
『そっか。この街の基礎を作って、ここまで祝われる存在になったんだ、バード君たち』
「ああ。本人たちにそのつもりは無かったんだろうがな。だからこそ世の中は面白いと思う」
『うん?』
「歴史に名を残したい人間なんて沢山いるだろう。その内、どれだけの人間が歴史に名を残せたのか。そんなのはほんの一握りのはずだ」
『そうだね』
「それなのに、ただ夢を追い、それを叶えただけの人間が、これほどの名を遺す訳だからな」
『……それは当たり前だと思うけどな』
「そうか?」
『だって、歴史に名を残したいなんて、雑念だよ。純粋に一つのことをやり遂げた人の方が成果が出せるなんて当たり前のことだよ』
「……そうだな」
『一生懸命になった人が歴史を作り、残してくんだよ。だからきっと、バード君たちは凄いんだけど、当たり前でもあるんだよ』
「……なるほどな」
『それよりも、今は祭りだね! で、祭りを楽しんだら、次の目的地を決める! 私たちはここに永住したい訳じゃないんだから。今しか楽しめない祭りを、今は楽しむんだよ!』
その言葉に、改めて変な存在に出会ったものだと思いつつ。その思いが表層に出たのだろう、剣の文句が頭に響く。
『むう! 聞こえたよ!』
「そりゃ、自力で動けないのに旅が好きって、変じゃないか?」
『動けないからだよ! ……そうだね、結構感謝してるよ、ジャーニィには。私一人じゃ動けないからね』
「……まあ、まだ日は浅いが、相棒のつもりだからな。何かあった時には頼むぞ、相棒」
『……相棒ならね』
「うん?」
『相棒なんて呼ばずに、名前で呼ぼう!』
「……確か、封核剣とか言ったか?」
『それは機能の名前だよ! 私はそんな味気ない名前じゃないよ!』
「他に名前を知らないが。そんな名前よりは相棒の方が良いと思ったんだがな」
『そういえば自己紹介、まだだったね!』
「お前な……、それでどうやって名前を呼べと」
『ごめんごめん。そういうわけで、私の名前、【シアリー】ね。これからもよろしく!』
「わかった。シアリーだな。これからもよろしく頼むよ、相棒」
『……むぅ!』
そんな他愛もないことを話ながら。次の目的地を頭から放り出し、祭りを楽しむ。まあ、相棒の言う通り、今しか楽しめないことは全力で楽しむべきだろう。
祭りは初日。まだまだ始まったばかりなのだから。




