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バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
閑章・後世の図書館にて
33/44

後世の図書館にて ~ 旅人と相棒の会話 4

2017.12.24 []を『』に修正、三点リーダーを修正。


本編ストーリーとは関係のない掛け合いです(設定等の説明回です)。

読み飛ばしても問題ありません。

『急展開だね! なのに、何で読むの止めるかな~』

「切るのならここじゃないか? 次の話を読み始めたら、それこそ中断するタイミングが難しくなると思うが」


 (あいぼう)の文句に近い問いかけに答え、ストレッチをする。


『……なに、その変な体操っぽいの?』

「体操ってお前……。でもまあ似たようなものか。気分転換に軽く身体を動かしてるだけだ」

『身体を動かすって、たったそれっぽっちで~』

「意外と効果あるんだがな。特に頭を支える筋肉を動かすのは」

『頭を支える?』

「ああ、このあたりの筋肉が固くなると血の巡りが悪くなる。それがさらに筋肉を固くしたり、肩こり、頭痛のもとになったりするからな」

『……肩こりや頭痛に効くの?』

「意外とな。……お前には関係ないんじゃないか?」

『……そういえば。ずっと肩、こってない気がするね』

「そもそも、どこに肩があるんだ……」

『頭痛もないね、そういえば』

「だから、どこが頭なんだよ……」

『……なんか呆れてるみたいだけどね、私だって考えることは出来るんだから、頭痛がしてもおかしく無いとおもうよ。ほら、知恵熱なんて言葉もあるんだし』

「……だからな。身体が無いのに知恵熱も何もないだろう。疲れる脳が無いんだからな」

『もしかして、私が脳無しだっていってる?!』

「言ってない! だいいち字が違うわ! むしろお前、いろいろと考える方だろう!」

『あら、そう~、そうかな~。……まあ、冗談はこのくらいにして、と』

「……まったく」

『続き読も、続き! 休憩終わり! 早く!』

「いや、今日はここまでにしようかと思うんだが」

『え~、そんな~、気になるよ~』

「そう言うけどな、もう良い時間だぞ」

『だからって! このままじゃ夜も寝れないよ!』

「……お前、夜、寝てたのか?」

『寝てないね! そんな事確認してどうする……って、まさか! 私が寝てる間に、あんなことやそんなことを?!』

「いやだから、お前には身体が……

『きゃ~、変態よ! 武器マニアよ~!! 刀剣愛好家がここにいるわ~!!』

「いや、刀剣愛好家って、そういうのじゃないだろう……」

『……私のこの輝かしい魅力がわからないなんて!』

「……たしかにお前、たまに光ってるがな」


 そんな戯れな話をしつつ、本を返却する。(あいぼう)との会話しながら、家路を歩く。



『そういえばフレイちゃんに見合い話が来てたなんてあったけど、ちょっと早くない? まだ十代だよね? 結婚に焦る年齢じゃないと思うんだけど』

「……まあ、政略結婚の類だな。リョウ・アーシに子供が無く、養子を取る様子も無い。そうなると、フレイの夫がアーシの姓を継ぐ可能性があることになる。アーシの姓はビオス・フィアの統治者の姓だからな。駄目もとで縁談を持ち出す価値はあるだろう」

『……なるほど。ちょっと嫌な話だね』

「飛行機を飛ばしたあとは、研究者としての実績がついた訳だからな。アーシの姓が無くても研究所の要職にはつけるだろう。そう考える人間の分、縁談の申し込みも増えたと、そんな感じだろうか」

『なんだかね~。フレイちゃんの親、何でそんな縁談を進めようとしたんだか』

「まあな。……でもな、そこまで本人の意志を無視しようとしたわけでもないらしいがな」

『……はい?』

「『研究ごっこにうつつを抜かす変わり者』、『人より機械が好きな変人』、当時の彼女が言われていた陰口だ。まあ、実際的外れでもないしな」

『……ちょっと酷くないかな?』

「リョウ・アーシに跡取りがいればそんなことも言われなかったんだろうがな。アーシ姓を継ぐ可能性がある以上、注目されてしまうだろう。で、フレイの性格に注目が行くと」

『……』

「基本的に感情を表に出さず、口調はどちらかというと冷たい感じ。どうひいき目に見ても、社交的とは言い難いからな。研究所で親しい人間でもいれば良かったんだが、研究テーマ自体が遊びと見られていた状態だからな。まあ、時間と共に解決する類だったのだろうが」

『……そうよね。確かに、言われてみれば近づきにくい性格かな?』

「まあ、親としてはやきもきしている所に、バード王子が研究室に来る。そうすると、王子の事情で人を遠ざけることになる。まあ、王子に不満も出てくるだろう。で、嫌なら断っても良い、直ぐに結婚なんて言うつもりも無いが、見合いだけでもしてほしいと、そんな感じだろうな」

『……家柄云々とか言ってなかった?』

「そりゃ、借金のある家とかは論外だろう。玉石混合である以上、石ははじこうとするさ。……まあ、それで親子間の仲が微妙になったのは可哀そうかもしれないな」

『……世の中難しいね』

「まったくだな」



『そういえば、バード君が倒れた時、イーロゥ先生が慌てて駆け付けたけど、予測できなかったの?』

「……うん?」

『だって、デュアルキャストを覚えた時だけなんだよね、バード君が倒れたの? デュアルキャストを覚えた時も倒れるかもしれないって、あの人ならわかりそうな気がするのよね』

「……ああ。あれはバード王子特有の現象だ」

『はい?』

「正確には、『パラノーマ王家の血を引いていて、適性のある人間』だな。さすがに、そんなことは他の人間にはわからないだろう」

『……えっと、なんで?』

「魔素を意識的に操るようになった時にな、今まで無意識で行っていた魔素の操作を発動してしまうんだ。まあ、大抵は身体強化が発動するんだが」

『身体強化?』

「火事場の馬鹿力とか言われているやつだな。身の危険が迫っているときに、酸素の供給やカロリーの燃焼を魔素でも行うことで、普段以上の力を発揮するようにするんだが」

『おお! あれって魔法だったんだ!』

「王家の人間はな、もう一つ、他の人間には無い魔法が使えてな。それを制限をかけずに発動してしまった結果、倒れてしまったわけだ。まあ、王家の人間がデュアルキャストを覚えると倒れる、そんな感じだな」

『……難儀な血筋だね』

「そうでも無い。むしろ、その魔法で彼の祖先は王になったようなものだからな」

『……どんな魔法?』

解析(アナライズ)。エーテルを世界への干渉として使用せず、エーテルを通して情報を取る、そんな魔法だ」

『……具体的に何ができるの?』

「物質の構造、エーテル間の干渉度合い、そこから得た物質の構造から性質を調べる、そんな魔法だな」

『調べるだけ?』

「ああ」

『地味な魔法だね』

「まあな。だが、この魔法があるから、聖典の解読が出来たと言っても過言では無いのだがな」

『……なるほど』

「魔法は、その魔法が発動する様子を見たことが無ければ発動しない。では、新しい魔法はどうやって開発するのか。その答えがこの解析魔法になる」

『……』

「普通の人間にとって、魔法は無意識で操作するものだ。これはデュアルキャストで意識的に魔素を操れるようになっても一緒でな。物質の構造、性質がわからない以上、どう干渉すれば良いかわからない。自然、干渉自体は無意識の領分になる。だが、解析魔法で物質の構造を理解すれば、どう干渉すれば良いかがわかるようになる」

『……おお!』

「要するに、魔法の開発は王家の人間でしかできないことになる。……もっとも、あの時代に解析魔法が使えるのはバード一人だがな」

『あれ? 空気を生む魔法は?』

「……あれは、爆発魔法から起爆を抜けば出来るからな。厳密には新しい魔法ではない。イーロゥがいきなり使えるようになったのもその辺りが理由だな。まあ、普通は数日で使えるようにはならないはずだが」

『……おお! クローゼ様のお墓の前で風船作ったときだね。そういえば使ってたね』

「ちなみに、後日彼は『まあ、多分魔法式のこのあたりを抜けば良いだろうと思ってな。何度か試してみたら上手くいった』と語ったらしい」

『……あの人、理論派なのか感覚派なのかわからないね』

「そもそも、感覚で魔法を一つ再現できる方がおかしいのだがな」



『あと、機械技術概論の内容、凄くいろんなことが書いてありそうなんだけど。飛行機、熱空機関に蒸気機関、内燃機関も書いてあったんだよね? どんな本なの』

「原典、一次写本、公開写本とあってな。一次写本で百巻くらいだな」

『全百巻?!?! 嘘だ! どうしてそんなに沢山、大災害から生き残るのよ! 数がおかしいよ! 原典はどの位あるのよ!』

「十六頁の本の形をしていると言われているな」

『意味わからないよ! ……って、本の()? 本じゃないの?』

「調べたいことを思い描いてページをめくると、調べたい内容が浮かびあがる、そんな特殊な本らしいな」

『……なるほどね、私の親戚さんかな?』

「うん? お前の親戚、本になったのか?」

『意味が違うよ! ……ほら、私、思考が読めるでしょ? それと同じ理屈で調べたい内容を読み取って、情報を表示する道具かなって』

「なるほどな、そういう意味か。まあ、そんな所だろうな。で、共和国はそれをひたすら紙に書き写したわけだ。もっとも、ある時点から情報が浮かび上がらなくなったそうだがな」

『おう、壊れちゃったんだ~。どんなことが書かれてたんだろう?』

「ちょっと待て。ここにもあるはずだ」

『おお!』


 …………


「これだな」

『ふむふむ。……これ、『記憶の遺跡(ノレッジ・シュリーブ)』に記憶された辞典の科学カテゴリと同じっぽいね』

記憶の遺跡(ノレッジ・シュリーブ)?」

『そんな古代遺跡があってね。まあ、ビオス・フィアが生き残るための遺跡なら、記憶の遺跡(ノレッジ・シュリーブ)は知識を残すための遺跡かな』

「……初耳だな」

『おお、ジャーニィにも知らないことがあったんだ!』

「そりゃあるだろ。……そこの内容を全部記憶してるのか?」

『まさか! 今、ちょっと照会しただけだよ』

「……そんなことができるのか?」

『接続すればね! 調べ事には便利だよ! ……古いことしかわからないけど』

「まあそうだろうな」

『えっとね、記憶の遺跡(ノレッジ・シュリーブ)の辞典から引っ張ってるって考えると、全体の量は約三十億文字ね。本にすると大体二万冊くらい?。そこから百冊、うん、一パーセント未満だね。多いと見るか、少ないと見るかは微妙なところかな?』

「そうだな。ごく一部にしかすぎないことはわかったが、それでも本百冊分の知識と考えれば、多いとも思えるな」

『そして私は二万冊分の知識を持っているのだ! どう、すごいでしょ?』

「それはお前が凄いのか……?」



『そうそう、トロア・ポイントって出てきたけど、何? 物が落ちない場所、なんて言ってたけど。静止軌道みたいなの?』

「むしろお前、静止軌道なんて言葉、よく知ってるな……」

『ちょっと剣になりたてのころにね、調べたのよね。……で、同じようなものなの?』

「いや、ちょっと違うな。ラグランジュ点の中に、そう呼ばれる場所があるのだが……」

『ラグランジュ点? ……ふむふむ、おお! 先史文明の創作物で、スペースコロニーを建造していた所だね!』

「……なんだ、そのスペースコロニーというのは」

『宇宙に住むための人工の都市?みたいなものだよ。……なんでフレイちゃん、こんなこと知ってたんだろ。これもあれかな、機械技術概論の知識かな?』

「そうだろうな。そう考えると、フレイは一体どれだけ機械技術概論を読んでたんだろうな」

『きっと空に関すること全部だね! 彼女にとっては宇宙も空の一部なんだよ!』

「否定しきれないところがなんだかな……」



 住み込みの宿に着く。平日は日銭を稼ぎ。次の休日、図書館で続きを読み始める。


『最終章だね。もう焦らしちゃだめだよ!』

「……まあ、今日中には読み終わるだろう」


 そんなかけあいをしつつ、ページをめくる。文章に、物語に、意識を向ける。


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