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バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
第四章・技術集約点ビオスフィア
31/44

9.戦う理由

2017.12.25 三点リーダーを修正。


バード君視点です。

 ああ、イーロゥ先生らしいな。


 今、目の前で、フレイの視線を受け止めているイーロゥ先生を見て、心の底からそう思う。多分、先生はみんなが納得する形に持っていきたかったんだ。ビオス・フィアの人達が自分達のために戦って。僕たちの作った飛行機を交易のために使って。

 僕を戦争の道具にするのも。僕たちの研究を戦争のために利用するのも。イーロゥ先生自身が嫌だったんだ。だから、周りの人も嫌がるなんて考えて。誰にも言わずに一人で計画を進めて。

 思ったよりも早く事態が動いたから裏目に出て。戻れなくなって、今も間違い続けてる(・・・・・・・・・)。フレイに言われても気付かない。


「待って。これは僕のことでもあるんだ。僕がどうするかは僕自身で考える。僕抜きで話を進めないでくれないかな」


 イーロゥ先生に声をかける。なにか言おうとしているリョウ・アーシさんを横目に、それよりも早く。イーロゥ先生だけに手を汚させないために。僕の自由を勝手に勝ち取らせないために。



「そうね。王子抜きで話すのはおかしいわね。でも、もう王子には関係ない話でもあるわ」


 イーロゥ先生が返事をする前に、フレイに話かけられる。さっきまでの声よりも少し落ち着いた声で。


「正直、私は今の話には素直にうなずけない。けど、私はビオス・フィアの人間よ。私は今のビオス・フィアが好き。自治権を失ったら飛行機の開発だってどうなるかわからない。どこまで協力するかは別にして、とりあえず反対する気は無いわ。だけど、王子はビオス・フィアの人間じゃない」


 フレイの言葉に心の中でためいきをつく。イーロゥ先生、予想を外したはずなのに、それでも僕を戦わせないような状況を作ってる。あれだけ怒ってたのに、同じように僕に自由を押し付けようとするフレイを見て、フレイの性格を考えて僕を外したんじゃないかって、そう思えてくる。


「もう、王子が居なくてもどうにか出来る。そんな風に状況を整えられた。なのに、どうして話に参加するのかしら」


 真っすぐにこっちを見て、フレイが問いかけてくる。

 その目はイーロゥ先生に向けていたような、冷たい、非難を込めたような目じゃなくて。ただ真っすぐに、僕の真意をはかるような。そんな強い視線だった。

 その視線に負けないよう、真っすぐにフレイを見て。前を見て。自分の考えを口にする。


「これは僕自身のことだから。僕に出来ることがあるのなら僕がやる。人に押し付けたりはしない」

「そんな理由で戦争に参加するつもり?」

「ああ」

「自分のことだから。自分の自由のためだから。そんな理由で戦争に加担するなんて、理由が釣り合っていない。それでも?」


 わかってる。フレイの言いたいことも。それでも。どうしても。引くわけにはいかないから。だから、疑問を投げかける形で、フレイの言葉を否定する。


「なんで?」

「なんでって……」


 横目で少しだけメディーナさんを見て。今までのことを思い出して。ありがとうと心の中で呟いて。


 そうして、僕は戦う理由を、覚悟を言葉にする。



「僕が王子なんてことは、向こうが勝手に言ってるだけなんだ。血筋だとかなんとか言って。そんなどうでもいいことで、王城から一歩も外に出れず、誰も僕を相手にすることを許されず、僕はずっと王城の中で過ごすしかなかった」


 ごめんなさいと心の中で謝る。僕がこんなことを言ってもメディーナさんは喜ばない。そんなことはわかってる。


「メディーナさんが僕の側付きになるまで、ずっと一人だった。そして、メディーナさんが来てくれてから、沢山苦労をかけてきたんだ」


 母さんが亡くなった日を思い出す。メディーナさんがいなくなるって聞いて、自分でできることは自分でやるって。自分でできるようになるって決めた、あの頃を。


「前もそうだった。王位継承権がどうとか言って、メディーナさんやラミリーさん、イーロゥ先生に助けてもらった。その結果、メディーナさんは誘拐犯扱いされて。イーロゥ先生も僕が外出するたびに一緒についてきてもらわなきゃいけない。こんなのは間違ってる」

「……だけど、それは」

「わかってる。二人とも自分でそう決めて、その通りの道を進んでるだけなんだ。でも、だからこそ、二人に頼ったままじゃダメなんだ。これは僕の問題(・・・・)だから」


 もう、あの頃とは違う。助けてもらうだけじゃない。今は自分でも出来ることがある。だからそれをする。助けてもらうだけじゃだめだから。


「今戦えば自由になれる。それは僕だけのことじゃない。メディーナさんやイーロゥ先生にこれ以上付き合わせないためにも、僕は戦わなくちゃいけない(・・・・・・・・・・)。そう思うんだ」


 メディーナさんは僕にこんなことを望んでたんじゃ無い。こんなことをするためにいろんなことを教えてくれた訳じゃない。わかってる。それでも……


「二人だけじゃない。僕が誰かに縛られないように、いろんな人が僕を助けてくれた。その人たちの想いを無駄にしちゃいけない。自由になりたいだけじゃない。僕は自由にならなきゃいけないんだ。この理由が釣り合ってないなんて誰にも言わせない」


 それでも、この理由だけは譲れない。



「その戦争で何千人と人が死ぬかもしれないわよ?」

「そんなことのために僕を助けてくれた人たちを裏切れないよ。血筋なんてもののために僕を自由にさせないような人たちなんかのために」

「兵士達は別に王子を縛ろうとしているわけじゃないと思うけど?」

「知らないよ、そんなこと。実際に攻めてきてるんだから」


 今までずっと考えてきた。御殿で僕に距離を置いて接してきた人たち。リョウ・アーシさん。みんな立場があって、思惑があって。

 それが悪い訳じゃない。だけど、そんな人たちのことを考えてたら、僕は何もできない。

 だから、僕は自分の道を選ぶ。僕が自由になるために必要なことをする。みんなが助けてくれたのを無駄にしない、みんなが僕にくれた価値を曇らせないためにも。


「名前も知らない誰かのために逃げ続けて、僕のことを助けてくれた人を裏切るなんてしちゃだめだ。それが何千人だろうが何万人だろうが関係ないよ」

「そうね、そんなものかもね」


 僕の言葉に、フレイが納得する。そうして、僕は自分の覚悟を改めて言葉にする。何も言わないでくれるメディーナさんを横目に。わかってくれているんだと信じて。


「だから、これは僕の戦いなんだ。今ここで戦って自由を勝ち取れるなら、絶対に勝ち取って見せる」



 その後、リョウ・アーシさんがフレイを止めようとしたんだけど……


「ちょっとまて……

「黙って」

「だがな、フレイ……

「だがもしかしも無いわ。王子を利用しようとして、上手くいかなかったらすぐ逃げろ、庇いきれないなんてふざけてる」

「いや、ちょっとま……

「何の準備もさせず、ただ逃げろなんて無責任。イーロゥさんの話に乗ったのなら、きちっと庇うべきだわ。王子はビオス・フィアを独立させるためにここにいたのだから。叔父様に、王子を庇うだけの力が無いとは言わせない」

「……」

「さっきも言ったわ。私は自分の意志でこの話に乗る」


 フレイの言葉にリョウ・アーシさんが押し黙って。イーロゥ先生の計画を知ってて黙ってたんだ。こんなことになるなんて思ってなかったとしても、フレイを止めることもできなくなって。「あいつらに何て言えばいいんだ」なんて頭を抱えてた。

 うん、ちょっとフレイの両親がかわいそうな気はするけど。でも、なんか勝手にお見合いとか進めてたみたいだし。フレイが勝手に戦争に行っても文句は言えないよね。


 そうして、イーロゥ先生とリョウ・アーシさんは僕とフレイの覚悟を知って。詳しい話はリン・アーシ旗頭っていう人も交えて話をした方が良いと言うことになって。日を改めて話をすることにして、一旦解散する。



 翌朝、リン・アーシ旗頭の屋敷をたずねる。イーロゥ先生とメディーナさんが軽く会釈をする。……あれ、メディーナさん、リン・アーシさんと知り合いかな?

 そんな事をふと思いつつ、リン・アーシさんと挨拶をかわす。


 そして、イーロゥ先生が計画の事を詳しく話し始める。



「つまり、まずは宣戦を交わし、飛行機械で単身王都に襲撃をかけ、王城に損害を与える(・・・・・・・・・)。その後、グリード抜きで王国と停戦交渉を開始。討伐をグリードの独断専行と認めさせて、グリード率いる討伐軍からの離反者を誘い、数が減った所で最終決戦を挑む。それでよろしいでしょうか?」


 イーロゥ先生とリン・アーシさんの話に唖然とする。戦争の話をしているはずなのに、戦いのことをほとんど話さない。で、王城を壊すとか、ちょっとわけがわからない。フレイは思った通りなんて感じで、隣で頷いている。思わず小声でたずねる。


「どういうこと?」

「損害を与えて攻撃力を見せつければ良い。その理屈なら、相手が人で無くても構わないわ」


 小声で話を続ける。イーロゥ先生の立てた計画にとにかく驚く。相手は損害がほとんど無い前提で出兵している。単純に税収面の利益になるなんて理由で。だから、その前提を崩せば良いという話みたい。

 飛行機に武器を積むのは難しい。だけど、建物を壊すのなら、極端な話、ただの石でも良い、そんな話。


「まあ、石だと石造りの建物は難しそうね。鉄球とかの方が良いかしら」


 とにかく、速度に乗せて、重い物をぶつけてやれば、大抵の建物に穴をあけることぐらいは出来る、そうフレイは予想してるみたい。そうだね、僕もそう思う。

 そして、王城に大穴をあけることができれば、心理的な衝撃は計り知れないし、自分のところは大丈夫なんて誰も思わない。

 そんな状況に持ち込めば、飛行機での襲撃をしないかわりに、各領主に軍を撤退させるなんて交渉も可能になる。そして、その合意内容をビオス・フィアからも高らかに叫ぶ。それで、多分片が付くってイーロゥ先生は考えてるみたい。


 ダメだったら、他の街道近くにこっそり兵士を運んで兵糧を奪うとか、そんな話ばかり。兵士と戦う話は全然していない。


 ビオス・フィアにグリードが来てしまえば、軍を引き返すのに一月近く。飛行機は一日。この時間差を利用して、グリードが居ない間に、国に損害を与えて交渉する。

 全ての責任をグリードになすりつけて「独立を認めてくれれば、あとは仲良く交易するよ」と持ちかける。そんな話。

 

「ここは武力で落とせない都市だ。なら、戦争を続けることができなくなるまで何らかの(・・・・)損害を与えれば勝ちになる。兵士など無視しても構わない」


 ほんとに? 戦争って兵隊達が戦わずに勝てるものなの?


「但し。グリードだけは王都に返すわけにはいかない。合意をひっくり返されかねない。故に、最後には戦闘をする必要がある。もっとも、その頃にはグリードに従う兵も相当少なくなっているはずだ。問題無く勝てると思うがな」

「そうですね。確かに今の話であれば、勝ち目は十分にあるでしょう」

「では」

「ええ。ビオス・フィアは貴方の案で動きます。バード殿とフレイ殿も良いですか?」

「「はい」」


 僕たちはそろって返事をする。他に細かいことを少しだけ決める。王都襲撃の際は僕、フレイの他にイーロゥ先生も同乗すること。あと、開戦の口上は僕が上げること。良く分からないけど、あくまで僕が主体で、ビオス・フィアは僕を支えてくれるって形をとるみたい。その方が、相手の非を糾弾しやすいからって言ってた。


「では、細かい話は後日詰めることにしましょう。お二方も、これからお願いしますね」


 そうして僕たちの戦争への参加が決まる。


 ふと、手元の資料に目を落とす。討伐軍の中核となるのは近衛を含む王城兵と二年前に撤退した旧王城兵。王弟グリードを指揮官とし、近衛兵隊長、各大隊長は王都兵を、旧城外街自警団長は旧王都兵をそれぞれ指揮する。王都兵がいない間、旧城外街自警団が王都防衛の任に当たる。

 王都防衛の指揮官として記されていたのは、以前僕を助けてくれた恩人の名前。その名前を複雑な気分で見る。


 救難特区評議員ラミリーと、そこには記されていた。



「さあ、無駄話はここまでだ。とっとと仕事しな。なにせ相手は空飛ぶ機械だ。きちっと準備しなきゃ何もできずに負けちまうことになっちまうさね」

「ですが……」


 ラミリーの言葉に副官がためらいを見せる。


「なんだい。……ああ、準備が無駄になるなんてことにはならないさ。間違いなく、相手はここを襲ってくる。こんな好機を逃すなんて甘い奴らじゃない」

「そうでは無く……」

「ふん。知らぬ仲じゃない、一度は助けた相手に牙を向けるって方かい」

「ええ。この資料では……

「間違いなく王子が乗ってるだろうね。さらにもう一つ、ウチのボウズもきっと乗ってくる。だからって、こっちのやることには変わらないさ」


 そう言葉を発するラミリーに迷いは無い。


「いいかい? こっちが牙をむくんじゃ無い。相手が牙をむいてくるんだ。きっちりと出迎えてやるのが当然の礼儀ってやつだろう」

「……」

「今の私の後ろには城外街まで含めて五十万の王都民がいる。そいつらに危害を加える輩から王都を守るのが私の任務だ。まあ、グリードに乗せられた感はあるがね。だからって、この役目に納得できない訳じゃない。むしろ望むところさ。私の後ろには街民がいる。王都民がいる。そいつらには指一本ふれさせはしない」

「……相手は王城を破壊したいのでは?」

「だから何だい。人じゃなくて物だから手加減しろとでも言うのかい? 一緒さ、人だろうと物だろうと。()から王都を守る、それが私の今の役目だ。相手がどこの誰だろうとそれは変わらない」

「……」

「街の発展、街の治安、その価値を認めて今までやってきたんだ。そこに変わりは無いさ。城外街から王都に変わっただけだ」


 そこまで言って、ラミリーは軽く苦笑する。


「まあ、嬢ちゃんには少し悪い気がしなくもないが。向こうから来る以上、こっちは全力で叩き潰す。わかったらとっとと準備しな」



「姉上は間違い無くこちらの手を読んでくるだろう。何より、相手は城壁に橋を(・・・・・)架けるような(・・・・・・)非常識を平然とやってのける人だ。飛行機械を落とすくらいはしてきてもおかしくない」


 リョウ・アーシさんの屋敷に戻って。僕たちの部屋にフレイを招いて。イーロゥ先生がラミリーさんのことをフレイに説明する。


「以前、王子を助けてくれた人よね? 連絡すれば助けてくれないかしら?」

「あり得ないだろうな。あの人は、街の住民のために力を注いてきた人だ。相手が誰であろうと関係無い。襲い掛かってくる相手には全力で迎え撃つ、そんな人だ」

「そう。……今更嫌なんて言うつもりもないけど、大丈夫かしら?」


 呟くように問うフレイの声に、イーロゥ先生が答える。


「この命に代えても、飛行機を落とさせるようなことはさせない。たとえ、相手が姉上であろうとな」


 その言葉の響きに少し驚く。迷いのない覚悟の籠った声。その中にほんの少しだけ、この時のために腕を磨いてきたのだと、そんな弾むような心が外に出てきた、そんな気がした。


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