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バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
第四章・技術集約点ビオスフィア
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8.暗躍

12/16 誤字修正・微妙な表現を修正


主にイーロゥ先生視点です。

「よろしいのですか?」

「良いも悪いもないさ。グリードは近衛と王城兵を連れて討伐とやらに出陣。私らは居残り組だ。自分の仕事をするだけさね」


 城外街の交易特区に建つ本役場の執務室。飾り気のない、機能的にまとめられた部屋に、救難特区評議員ラミリ―と副官の声が響く。


「ですが、王子の脱出に手を貸したのはほんの二年前です。べつに彼らのために動いたわけではありませんが、後味の悪さは残るのではないですか」


 副官の言葉に、ラミリーが苦笑しつつ答える。


「まあ、そうさね。ウチらが納得できる条件を出してくるなんざ思ってなかったんだ。グリードもバカじゃなかったってことさ」

「ウチら、では無いでしょう。通常区の評議員が納得しただけです。特区の評議員は全員反対でした」

「一緒さ。通常区の評議員は五人、特区は三人。結局、通常区の評議員が向こうにつけば、それがウチらの総意だ。それに、向こうの出した条件だって確かに悪い話じゃないんだ」

「そうですが……」

「第一、グリードがビオス・フィアを下せるなんて、まだ決まっちゃいない」


 そう言って、ラミリーは手にした紙の束で机をたたく。それはビオス・フィアで開発された飛行機械の情報。時速300キロで空を飛ぶ驚異の輸送機械。未だ試作段階にありながら、それは新兵器(・・・)と呼ぶにふさわしい脅威だとラミリーは感じていた。


「グリードは持久戦になると決めてかかって二万なんて中途半端な数で出征した。ビオス・フィアは五千程度の兵しかない以上、それで十分だろうって思惑さ。だがね、数の優劣なんざ、同じ条件じゃなきゃあてに出来ないのさ」

「そんなものでしょうか」

「そんなもんなのさ」


 そう言って、ラミリーは脱出した王子たちを一人一人思い浮かべる。

 嬢ちゃんにはこいつの価値はわからないだろう。王子は未知数だが、軍事が得意には見えなかった。だが……


「ウチのボウズが一緒に行ってるんだ。こいつ(飛行機械)の価値に気が付かない訳が無い」


 自分の弟が、こんな明白なことに気付かないなんてあり得ない。だから、あとはボウズがビオス・フィアを動かせるか否かだと、そう結論を出す。


「ボウズがただついて行っただけなのか。何かを学んだのか。そいつ次第で状況は一変するだろうさ」


 そう言って、ラミリーは討伐軍の優位を笑い飛ばす。あれは自分の弟だと。自分達が有利だと勘違いした者など一蹴すると。そんな確信に満ちた笑いだった。



「自分達に、このビオス・フィアを脱出しろと」

「ああ。正直、状況はすこぶる悪い。そっちにとってもそれが一番だろ」


 リョウ・アーシ邸の執務室。私、バード、メディーナ殿、フレイの四人が呼ばれたその部屋で、リョウ・アーシ殿は、私達に脱出をすすめる。


「すまないが、その一言で出ていくわけにはいかない。もう少し詳しく話してもらいたいのだが?」

「……そうだな。だがな、正直この先、お前らの安全の保障は難しい。話が広がる前に決断するのが一番だと思うがな」


 その言葉に、この時が来たと悟る。パラノーマ王家、いや、王弟グリードが動き始めたのだと。

 リョウ・アーシ殿は語りだす。王都と城外街の和解、その真相と、ビオス・フィアの置かれた現状を。それは、想定よりも(・・・・・)遥かに早い事態の到来だった。



「王城は、王都の自治権を城外街に委譲することを和解条件に盛り込んだ。徴税権もだ。それに城外街が乗っちまったって、そんな話だな」


 城外街が王城から離反し、経済封鎖が実施された結果、王都の経済が混乱する。その経済封鎖はすぐに解除されたが、城外街からの税収が無くなったこと、撤退した兵士、役人の補充と、財政は極限に悪化したこと。

 増税は避けられず、それでも行政の質が落ちたことで、王都からの人口流出が止められなかったことを説明される。


「だがな、皮肉にもこの流れが、徐々に城外街を追い詰めていくことになったようでな」


 城外街は王都からの避難民を受け入れたが、逆は認めなかった。そのことに家族を残して王都を脱出した避難民から不満の声があがり始める。

 その言葉に潜む不自然さに眉をひそめる。未だ二年、抑えられない程の不満が発生するには早すぎる。つまり……


「脱出した避難民の中に扇動者が混じっていたのか」

「まあそうだろうな。そうやって城外街の住民の不満を高めて、自治権委譲って餌をぶら下げた訳だ」


 城外街評議員の意見は割れたらしい。住民を抱える五区の評議員は和解に賛成、三特区の評議員は反対したが、最終的には多数決となり、和解が成立したと。


「交渉としても悪くねえ。王城は自治権を渡すことで、王都の治安問題を解決できて、城外街の税収を得ることができる。財政も今よりは好転するだろうな。城外街だって不満の解消、市場の獲得と良いことずくめだ。だが、離反前の状態に戻せなくなったとも言えるわけだ。普通なら、余計な出征なんかする時期じゃねえな。だがな、このビオス・フィアだけは別だ」


 その言葉に全てを悟る。出征の目的、王族誘拐の実行犯などはただの口実だと。


「俺たちビオス・フィアは武力で自治権を得た街だ。王国の下にいるなんてのは名目だけで実際にはなんの恩恵にもあずかっちゃいない。そのかわり税なんて納めてねえ、そんな土地だ。財政に穴の開いた王国からはさぞ魅力的に見えるんだろうな」


 発展途上にある、地理的条件によって富と独立を得てきた交易都市ビオス・フィア。隣国からの機械部品と独自研究によって技術そのものを富に変える術を見に付けつつある、この都市そのものが目的だと。



「このビオス・フィアってのは新しい街だ。初めは王国に弾き出された無頼者が集う街だったんだ。それが人が集まり、自治権獲得戦争が起き、交易を始めて、研究を始めた。なにせ始めから立派な家がごろごろしてるなんて土地だ。大きくなるのは一瞬だ。六十年前はここに閉じこもってりゃ手を出せないし、そこまでする(・・・・・・)魅力も無い(・・・・・)。そんな都市だったんだ」

「だが、今は」

「ああ。人口二十万、王都・城外街に次ぐ大きさを誇る国内第二の都市だ。ていうかな、規模は既に王都を超えちまってる。城外街が無けりゃ、今やウチが国内最大都市だ」


 だから、王都の税収の穴を埋めるために出征をしたと。

 グリードは私達とは関係なくビオス・フィアを攻める目算だと。


「つまり、私達はビオス・フィアから自治権を剥奪する口実として使われたのだな」

「俺はそう見ている。そして王族誘拐の実行犯を匿っていると認めたら自治権剥奪の口実にされるともな。だから、むしろ引き渡すべきじゃねえ」

「そして、そう考えない者もいると」

「勝てない相手と戦争するくらいなら始めから恭順した方がマシって考えの奴らだな。まあ言い分はわかる。こいつらが暴走しかねないって、そんな状況だ」



 リョウ・アーシ殿の言葉を反芻する。今語られたこと。語るのを避けたこと(・・・・・・・・・)。この時を二年後と想定して進めてきた準備のこと。


 一年前、試製飛行機械が空を飛んでから進めていた計画のことを。


「フレイ殿をここに呼んだのは?」

「これが王子と最後の別れになるかも知れねえんだ。呼ばねえわけにゃいかねえだろ」


 迷いがよぎる。なによりこの計画は、バードと(・・・・)フレイ殿(・・・・)を巻き込まないためのものでもあるのだ。

 今の状況では、もはやその前提は成り立たない。それでも口をだすべきか。


 そのような考えに囚われ始めた私を、冷徹な響きをともなった声が現実に引き戻す。


「私の飛行機がいまの話にどう関係してくるか、是非教えて欲しいわね」



 思わずフレイ殿を見る。言葉を発する。


「何故……」

「私の名前を出して考え込めば嫌でもわかるわ」


 言葉に詰まる私に、言葉が重ねられる。


「そうね。あと、ちょっと疑問だったわ。なぜトロア・ミルバスがあんなにも早く組みあがったか。研究中の強化木材を大量に使った機体を半年。いつの間に強化木材の研究が完了して、いつ生産を開始したかわからなかったから」


 怒りのこもった冷たい声。私達の夢を何に利用しようとしているのかと。


「強化木材を使うきっかけになった提案もそうね。今思えば、素材、重量と揚力の兼ね合いと、計算や選定に時間がかかるものから優先的に提案されてるわ。飛行機械研究室だけじゃない。研究所全体が私達の研究に協力していたとしか思えない。だけど、輸送機械の開発をここまで急ぐ理由は無いわ」


 裏で何をやっていたのかと。飛行機を何に使うつもりだと。


「『戦闘術、魔法、戦術(・・)、どれをとっても一流』以前、叔父様が私に言った言葉よ。戦争の専門家でもある貴方が、私の飛行機に何を見たのか、是非教えてほしいわね」


 その言葉に疑問の響きは無く。故に思い知らされる。彼女は飛行機の専門家なのだと。戦争目前のこの状況で飛行機の可能性に気付かぬはずは無いと。

 そしてもう一つ。彼女は戦争の素人だと。ビオス・フィアに必要なのは飛行機械の持つ運搬能力(・・・・)だったのだから。


 フレイ殿の視線に、全てを語る決意を固める。始まりとなった日、一年前、試製飛行機械が飛んだ日を思い起こす。



 まさか、本当に飛ばすとは。目の前ではしゃぐバードとフレイ殿を見て、第一に思ったのはそんなことだった。


「うおお、本当に飛ばしやがった!」

「……今日は飛ぶのを確認するんじゃなかったの?」

「本当に飛ぶなんざ思ってねえよ! 常識をぶち壊しやがった、あの二人!!」

「そんなにすごい事なんだね。そっか…… やったね、バード君!!」


 隣で騒ぐリョウ・アーシ殿とメディーナ殿を横目に一人考える。常識をぶち壊した(・・・・・・・・)、目の前の光景は正にそれだった。試製飛行機械の仕様を思い浮かべる。必要な揚力を得るための速度は時速百キロ程度を想定いたはずだ。それを蓄熱した熱量だけで実現したのだ。

 人を乗せれば重量は増す。だが、供給する(・・・・)熱量も(・・・)増すのだ(・・・・)。むしろ出力には余裕が出るだろう。そうなれば、王都まで二三日で到着できる速度の移動手段が誕生することになる。


 そこまで考えて気付く。目の前の機械はあらゆる物を変える可能性がある機械だと。情報伝達、物流、それらは国の形をかえ……


 戦争の形を変えるものだと。


 無邪気にはしゃぐバードを見る。今までバードに対し何の手出しも無い。襲撃者一人いない平和な日々。それこそがこの先の不穏さを証明する。

 王子の居場所はその時点ですでに公然の秘密なのだ。商売相手にグリードに通じていないと証明するために引き合いに出したているのだから。皆、王都の争乱に介入するつもりが無いから知らないふりをているだけだ。

 だが、王弟グリードにとってはバードが邪魔なのは変わらない。故に何もない(・・・・)こと自体(・・・・)が異常なのだ。グリード個人がバードを放置する理由があるのだと。

 考えられる可能性は一つ。グリードに国を動かす算段があり、その口実に使う日までバードを温存(・・・・・・)している(・・・・)、それだけだ。


 今までは、その日が来る前に他の場所に移ることを考えていた。だが、目の前の機械を見て、もう一つの考えが頭に浮かぶ。


「……少し、ビオス・フィアの今後について話をさせてもらいたいのだが」


 傍らのリョウ・アーシ殿に声をかける。交渉を開始する。秘密裡に進めることを決意する。


 バードが滞在することで起きるであろう戦争を利用する、その計画を。



 旗頭。ビオス・フィアを治めるアーシ七家、それらを束ねる者に与えられる称号。前の自治権獲得戦争において、ビオス・フィアの象徴となる自由の旗を定め、掲げ続けた指導者が好んだとされる呼び名。それはそのまま指導者の地位を示す称号となり、七家の合議によって旗頭は選出され、議長となり、ビオス・フィアは統治される。


 リン・アーシ旗頭。今のビオス・フィアを代表する旗頭。その邸宅は、リョウ・アーシ邸とはまた違う独特な雰囲気があった。隣接する白亜の巨大な建築物は、様式は全く違うにもかかわらず、王城とどこか似た雰囲気が感じられる。

 ふと思う。あの巨大な建築物は政治の中枢の建物が持つ威厳が備わっているのだと。まさに、ビオス・フィアの指導者の邸宅に隣接するにふさわしい、そんな建造物だった。


 目の前には、初老の域に差し掛かった、静かな空気をまとう男。私は今、リョウ・アーシ殿を通して、その男の邸宅に招かれていた。


 彼の邸宅の応接室で、私はバードが滞在することで起こりうる未来を話す。


「つまり、近い将来、王国と事を構える事になると、そういう事でしょうか?」


 私の説明に、彼、リン・アーシ旗頭はそう言葉を返す。


「その可能性が高いと考えている。そして、その場合、王国は長期戦を想定してくるはずだ」

「でしょうね。この都市を短期で落とすなど不可能です。ですが、包囲するのは容易いでしょう。ビオス・フィアと王国との戦力差など、比較するまでもないのですから。そして……」

「封鎖は容易く、効果は絶大だろうな」

「間違い無く。ビオス・フィアは王都と違い、封鎖されても自給できます。ですが、豊かさは失われるのです。その影響は計り知れないでしょう」


 現状を認識する。難攻不落のビオス・フィア。だがそれは遺跡に頼った防衛力。そして、戦争そのものが、交易都市としてのビオス・フィアを追い詰める。


「もって二年。それを過ぎれば、内部から崩壊すると、私は見ます」


 故に王国は兵を出す。戦う必要など無い。封鎖すればそれだけで勝てるのだから。今まで自治権を認めていたのは開戦理由が無いが故。今は王子の保護という大義名分が成り立つ。

 バードの意志など関係無い。事実などどうでも良いのだ。勝てばその大義名分を成り立たせる、そんな話なのだ。


「だが、もしもその戦争に勝つことが出来れば、名実共に独立することも可能だろう」


 だが、それはこちらも同じ(・・・・・・)なのだ。勝ってしまえば、相手の言い分を言いがかりと断じ、要求を通せるのだから。



「そもそも、誰も落とすことが出来ない、この難攻不落の都市が、何故自治領に甘んじているのか。名目とはいえ、王国の下についているのか。先の自治権獲得戦争で勝利し、事実上は誰の支配も受けていないのに」

「わかりきっているでしょう。守ることしかできないからですよ。攻めることが不可能な以上、こちらの要求など通すことなどできません」

「ああ。敵対した所で恐れる必要のない相手に譲歩する訳がない。こちらの言い分など無視すれば良いだけだからな」


 そう。防御力に頼った、持久戦での勝利では意味が無い。先の自治権獲得戦争は実のところ勝利ではない。引き分け(・・・・)でしかないのだ。


「そして、我々には交易しか道が無いのです。人口は増え、遺跡の機能は徐々に失われていく。都市の生産力の余裕は無くなっていく一方です。やがて閉じこもることすら出来なくなるでしょう。そうなるのを防ぐための研究ですが」

「いまだ隣国の技術に頼った状態だと」


 そして、今や防御力に頼った引き分けすら望めないように見える。


「ええ。……あなたがたの助力には感謝しています。特に、あの飛行機械には可能性を感じています。おっと、話がそれましたか」

「いや、その飛行機械こそが戦争の在り方を変えるのだ」


 だが、飛行機械はそれを覆すことが出来る。


「ですが、あれはただの輸送機械では?」

「空を飛べるだけで、ただの輸送機械ではなくなるのだ。空から敵陣を偵察することが出来れば、相手の動きが手に取るようにわかる。結果、手薄な場所だけを攻めることができる。勝ち戦だけをすることも可能になるのだから」


 空を飛ぶことで情報で優位に立ち。


「そして、包囲に関係なく輸送ができれば、交易も続けられる。負けは無くなるのだ」


 包囲を無効化することも可能。


「そして、もし飛行機械から直接攻撃することが出来れば。それこそが、ビオス・フィアに欠けていた攻撃能力だ。独立交渉に必要なものは全て揃う」


 何より、空から一方的に攻撃する優位。これらが、守ることしか出来ないビオス・フィアの現状を全てを覆す。



「後は戦争の大義名分だ。戦争に勝って交易相手を失っては意味がない。だが……」

「……王子を理由に向こうから仕掛けてくれば申し分ない、と言うわけですか」


 故に今の状況は好都合なのだ。一方的に飛行機械を運用でき、開戦の汚名は向こうが勝手に負ってくれる。


「ああ。君側の奸が道理から外れた言いがかりを付けてきたから撃退した。このようなことがあった以上、王国の下につくことなど出来ないと押し通せば、ビオス・フィアは晴れて独立国家となる」


 何よりも、攻めて来る相手のみを撃退すればいいのだ。交易都市として、無駄に敵を作らずに独立戦争が開戦できる機会など、そうはない。


「……そこまで上手くことが進みますか?」

「さてな。私は交渉は専門外だからな」

「……そうですね。こちらでも検討してみましょう」


 今日、この時より、ビオス・フィアは戦争を前提とした動きを始める。



 リン・アーシ旗頭との密談を重ねる。王城と城外街の抗争の解決に三年、その直後に開戦と推測を立て、計画する。


 飛行機械研究室の設立し、フレイ殿とバードの研究を支援、加速させる。飛行機械に適した素材を検討させ、研究を進ませる。三年後までに飛行機械を十機ほど完成させることを目標に。経済封鎖を無効化させることを目的として。

 並行して、操舵士、機関士の養成も考慮に入れる。そのための滑走路を国境付近に複数建造するよう計画を立てる。開戦後はそのまま輸送拠点として機能させることも視野に入れる。

 飛行機械に搭載する武器の開発、魔法兵の養成、戦争準備。全てを秘匿し、バード達に悟られぬようにしながら。私はビオス・フィアを戦争への道へと進ませる。



「まあ、結局は間に合わなかったがな」


 私が一通り話し終えた後、リョウ・アーシがそう締めくくる。


「そうね。……少し意外だったわ」

「ああ。飛行機械の使い方か?」

「ええ。本当に飛行と輸送に使うつもりだったのね」

「攻撃も視野に入ってたんだが……」

「そうね。でも、今の話だと、多分最初に私の考えてたのと違うわね」


 ああ。フレイ殿は本当に聡い。口調とは裏腹に冷たいままの視線に、自分の思い違いを痛感する。飛行機械のことではないのだ。彼女の夢を利用しようとしたことではないのだ。


「飛行機用の武器の開発なんて嘘。その方が安心できるから言っただけ。飛行機の数を揃える必要性も嘘。次の飛行機、輸送能力を持つ飛行機があれば事足りる」


 それでも。これこそが唯一の機会だと確信する。だからこそ、私も退くことなど出来ない。冷たい視線を真っ向から受け止める。


「つまり、まだ状況は詰んでいない。貴方も諦めてはいない。そういうことね」



「今、飛行機を操縦できるのは私だけ。だから私がここに呼ばれた理由を聞いた」

「ああ。失言だったが。話が早くすんだのも事実だ」


 リン・アーシ殿、リョウ・アーシ殿に伏せていた事実。飛行機械からの攻撃能力。そんなものをいくら積んだ所で万の兵は撃退できない。故に数も必要無い。一機あれば事は足る。

 その一機は既に組み立てを始めている。開戦前には完成する。あとは動かす人間さえいれば良い。


「最悪、機関士席には貴方が座るつもりね」

「フレイ殿次第だな。聞く前に諦める事もないだろう」


 機関士席にはデュアルキャストが使え、飛行機械の知識がある人間が座れば良い。バードに座らせる理由は無い。私でも飛行機械の動力を駆動することは可能なのだから。


 フレイ殿とバードの研究こそが最重要だったのだ。ただ一機の輸送可能な飛行機械。武装など無くても勝てる、故に後回しにし、研究支援を優先した。すでに最低限の条件は果たしている。まだ詰んでなどいない。


 フレイ殿を(・・・・・)戦場に(・・・)引きずり(・・・・)出せば(・・・)、この状況は覆せるのだから。


「つまり、貴方は王子の意志に関係なく、王子に自由を押しつける(・・・・・)つもり、そう思っていいのね」


 自由のために戦争をさせ、戦場に行くはずの無い人間を駆り出す。それが本当にバードのためなのか、そう冷たく問う視線を真っ向から受け止める。


「ああ。そう思ってもらって構わない」


 読みを外し。反感を買い。望んだ状況とは程遠く。それでも最低限の条件は達成した。私にできることは全てやった。


 ふと、姉上のことを思い出す。あの人ならどう動いただろうと。あの人なら、きっと誰にも反感を買わずに同じような状況に持っていったのだろうなと思う。

 それでも。きっと同じ状況に持って行くだろう、その事だけは確信をもつことができた。今はそれで良いのだろう。あの人と同じ結果を出すことができたのだ。


 冷たい、張り詰めた空気が支配する中、そんなことを思いつつ、次の非難の言葉を待ち続けた。


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