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バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
第四章・技術集約点ビオスフィア
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6.Hot air engine model aether

2017.12.25 三点リーダーを修正。

「平和だね」

「そうね」


 事務局から帰ってきたフレイに挨拶したあと、そんな会話をする。試製飛行機を飛ばしてから一ヵ月。先月までの熱気が嘘のような、静かな毎日をフレイの研究室で過ごしてる。

 理由は意外なことに、僕たちの飛行機が空を飛んだことだった。



「研究所に、飛行機械の開発室を新設する」


 試製飛行機を飛ばしてから三日後、リョウ・アーシさんが僕たちにそう伝えてくる。


「私の研究室とは別に作るのね?」

「ああ。っていうかな、おまえらの研究室にゃ人は入れられねえよ」


 フレイの質問に、リョウ・アーシさんは苦笑しつつ答える。


 僕たちの試製飛行機が空を飛んだことは、瞬く間に研究所内に広まったみたい。それまではどうも、機械が空を飛ぶわけないなんて思われてたらしくて。それが飛んじゃったんだから、すごい大騒ぎだって。


「まあ、俺ですら一発で飛ばすなんざ思ってなかったんだ。周りの連中からすれば寝耳に水もいいとこだろうよ」


 ……リョウ・アーシさんの言葉、ちょっと酷いと思うんだ。でも、他の人なんかは「非常識だ」「理屈にあわない」とか、そんなことまで言ったらしい。「理屈にあわない」って何? むしろ理論通りに飛んだんだけど。

 で、飛行機を研究したい人と言う人も少しだけいるみたい。リョウ・アーシさんとしても、飛ぶと立証された以上、本腰を入れて研究すべきだと考えてるみたいで。その人達を中心に、新しく研究室を新設すると、そんな話。

 ただ、飛行機の知識なんて僕たち以外誰も持っていない。だから、まずは今までの研究結果を本にしてほしいって。あと……


「すまねえが、試製飛行機械を一時的に借り受けたい」


 研究するにしても、飛行機は今のところ僕たちの試製飛行機一台だけ。僕たちの本を元にもう一台作る予定だけど、それまでの間は僕たちの飛行機で研究をしたいって。

 ちょっとムッとしたんだけど、フレイの次の言葉で思いなおす。


「別に良いわよ。あれはただの通過点だから」


 その言葉にちょっと反省する。あれは空を飛べるのかを実証するための飛行機。僕たちの目指すのはもっと先。あれで満足してちゃいけない。次に行かなくちゃ。


「悪いな。まあ、協力してほしいことがあれば気軽に言ってくれ。むしろいい刺激になるだろう」

「そうね。じゃあ、まずは翼の形と揚力を色々試したいわ。それから、プロペラの回転速度と推進力、離陸に必要な速度も明確にしておきたいわね。あと……」

「……今すぐってつもりは無かったんだがな。まあいい、伝えておく。但し、そんだけあるんなら、きっちりと要望の形でまとめておけ」



「王子は動力機械、駆動系ね。私は機体周りで調べてほしいことをまとめるわ」


 次の日、研究室でフレイがそんなことを言う。えっと、調べてほしいことって……?


「……ちょっと、王子?」

「ごめん。けど、調べてほしいことって言われても……」


 ちょっとためらいながらも、正直に答える。


「……あのね、王子。まさか、動力系、駆動系は完全だ、なんて思ってないわよね?」

「違うよ! 試製飛行機で調べたいことだって沢山あるよ。けど、急に調べてほしいことって言われても……」

「……そうね。まずは、その『試製飛行機で調べたいこと』をちょっと話してみて」

「……そうだね。まずは、動力機械に与える温度差と駆動力かな。どのくらいからプロペラが回り始めるか、かとかは調べたいと思ってる。それから……」


 フレイにこれから自分が調べようと思ったことを少しずつ話し始める。フレイはそれを聞いて、たまに質問して、木板に書きとめ、ちょっと整理したものを僕に見せる。

 そこには、僕がやろうとしたことが、わかりやすく整理されて書かれてた。


「今の王子の話だと大体こんな感じね。どう?」


 僕の要望を簡単に作ったフレイにちょっとびっくりして。ただ頷くことしかできなかった。


「そう。でも自分でもちゃんと見直して。多分、他にも色々出てくると思うわ」


 そんな言葉を残して、フレイは自分の要望をまとめ始める。ちょっとだけあっけに取られて、我にかえって。自分の要望を、今度はちゃんと自分で考え始める。



 後日、リョウ・アーシさんにこの時のことを話したら、ひたすら大笑いしてた。フレイが小さな飛行機でプロペラをどうやって回すか悩んでる時、同じようなことがあったみたい。

 ゴムをねじって回すんだけど、紐の太さとか、何重に束ねたほうが良いかとか。

 初めは全部自分で調べようとしたのを、リョウ・アーシさんが「そんなんは調べさせればいい」と止めて。その時、リョウ・アーシさんがフレイから話を聞いて、同じように要望をまとめ上げたって。


「そりゃな、王子。だれしもが通る道ってやつだ。要望を出すってのものな、人を動かすってことの一つだ。生まれつき人を動かすのに長けた奴なんていやしねえ。傲慢に訳の分からないことを言い出すよりはよっぽどましだと思うぜ」


 そんなことを言って励ましてくれる。そっか。ずっと自分でやらなきゃって思ってたから。人にお願いをするのに慣れて無かったんだ。


「しっかし、あのフレイが、王族に、人の動かし方を教える日が来るとはな。まったく世の中ってのはわからんもんだ。そうか、あのフレイがな」


 そう言って、リョウ・アーシさんは、ずっと笑い続けてた。



 そうして要望をまとめて、研究結果もまとめて。今は結果を待っているところ。もちろん次の研究もしてるんだけど、実際に組み立てれるのはもう一つ試製飛行機が出来てから。もう一台の熱空機関がビオス・フィアに届くのが来月位になるから、それまではちょっとのんびりしてる。

 まあ、フレイが事務局から戻ってきたんだから、なにか要望した内容の結果が出たのかもしれない。そう思ってると、五十センチくらいある大きな箱を二つ手に持って、珍しく悪戯っぽく笑うフレイが僕の隣に座る。手にした箱を机に置いて、ふたを空ける。


 そこには、先月僕たちが飛ばした試製飛行機の模型が二体、置かれてた。

 片方は布張りの、完成した試製飛行機の模型。もう片方は骨組みだけの、中身が見えるようになってる模型。


「ちょっと凄くてね、この模型。実際の構造そのままに作ってあって……」


 フレイが完成した方の模型を手に取って、熱く語りだす。翼の湾曲のこと。胴体の形状のこと。研究している時の会話と変わらない言葉で、模型の細部を指さしながら、熱く。

 僕は模型の方に目を向け、できるだけ普段通りに言葉を返す。ちょっとフレイの言葉が切れたところで、お茶を淹れるからと断って、席を立つ。


 ティーピッチャーに水を入れて、お湯を沸かして、茶葉を入れて。ちょうどいい所で茶葉を捨てて。カップに注いで。

 ちょっとだけ躊躇して、迷って。さっきまでと同じように、フレイの隣に座る。


 机の上には布張りの小さな飛行機模型。試製飛行機と同じように、同じ形に張られた布。記憶にある飛行機と寸分たがわぬ、大きさだけが違う模型。改めて手に取って、間近で見て、その精巧さに驚く。

 もう片方、骨組みだけの模型を手にする。熱空機関、動力伝達部、プロペラ。全てそのままで、大きさだけが違う。プロペラを回すと、伝達部を伝わって、熱空機関が動く。今なら、この模型を作るのがどれだけ大変かわかる。思わず声を上げる。


「凄い……」

「ね、ちょっと凄いわよね」

「そうそう、ここで往復運動を回転運動にして、……」


 プロペラの動きに合わせて動く駆動部分に、今までのことを思い出して。気が付けば、フレイと二人、模型を指さしながら、延々と。模型のこと、飛行機のこと、今までのこと。

 淹れたお茶はとっくに冷めて。そんなことを気にせず、何時間も、フレイと二人で話し込んでいた。



 ある日、ふと思いついたことをフレイに話す。


「そういえば、ふと思ったんだけど」

「何?」

「プロペラって、空気を後ろに押し出してるんだよね?」

「そうよ。プロペラで風を作って飛行機を前に進ませてるわ」


 なにを今更、みたいな感じでフレイが聞き返してくる。


「直接、魔法で風を作ってもいいんじゃないかなって」

「あるの?! そんな魔法!」


 僕の思いつきに、フレイがびっくりした声を上げる。

 ……そんな驚くようなこと言ったかな?


「直接風を操る魔法は無いと思うけど。風っていうのは空気の流れだから。空気を生めば風ができる、そう思うんだ」

「……そうね。で、空気を生むことはできる訳?」


 普段の落ち着きを取り戻したフレイが、静かに聞いてくる。


「ちょっと違うけど。水を空気に変える魔法はあるよ。水を筒状の物に入れてこの魔法を使えば、後ろ向きの風ができると思う」

「そうなるとちょっと、重さとの兼ね合いね。けど……」

「けど?」

「今まで熱空機関で頑張ってきたのが無駄になる話だわ」


 その言葉に、思わず僕も苦笑を返す。



 イーロゥ先生に相談したけど、やっぱり風を操る魔法は無いみたい。空気を水に変える魔法を推進力にできるかはわからなかった。フレイと相談して飛行機械研究室に要望として出すことにした。

 デュアルキャストの訓練は継続中。魔素の感覚は大体わかるようになった。意識して魔素を使うのはまだ無理。もう少しでできそうな感覚はあるんだけど。

 あと、冷却魔法と、焦熱魔法って魔法も教えてもらう。発熱魔法は金属を発熱させる魔法なんだけど、高温にするだけだったら焦熱魔法の方が良いみたい。新しい魔法だけど、覚えるのはそんなに難しくなかった。


 ……飛行機をデュアルキャスト前提にするのは難しいかなと改めて思う。イーロゥ先生が言うには魔法街でも使える人はラミリーさんぐらいって話だし。次の飛行機を飛ばしたら、デュアルキャスト無しで飛ばせる飛行機も考えなきゃいけないかな、なんて思いながら。



 少しずつ、飛行機械研究室に依頼した内容が届く。

 人が沢山動いてるんだろう。今まで僕たちが何ヵ月もかかって調べてた内容が、数日で調べられて、結果が報告される。

 それと並んで、向こうの人達の提案もこちらに届けられる。


 機体が布張りでは強度に問題があるが、金属製にするのは重量的に難しい。強度のある木材を他の研究室で研究中だから、それを使ったらどうかとか。今は左右一枚づつの翼で飛んでるけど、翼を増やすことで揚力を確保することはできないかとか。僕たちでは思いつかなかった方法も結構あって。


 気が付いたら、僕たちも、以前みたいな熱気のある日常に戻ってた。



 追加の熱空機関が届いたらさらに加速して。翼の形状、舵の仕組みが色々試されて。その結果を次の飛行機に反映されて。次の飛行機の形が出来上がってくる。


 有人飛行可能な飛行機。

 乗員は二名。操舵士、機関士。

 操舵士は、舵を操作し、飛行機の操縦をする。

 機関士は熱空機関の出力を操作する。

 機体後部には熱空機関。

 翼は左右にそれぞれ二枚ずつ。


 設計図には、大空を自由に飛び、雲を掴むことができる機械が描かれていた。


 気が付けば九月。僕がビオス・フィアに来て二度目の秋が訪れようとしていた。



 少しずつ飛行機が形になりはじめる。圧縮され、接着剤で硬化された新型木材。ニ翼のプロペラを回し、尾翼と両翼の補助翼を操作する機構。多くの人が動き、ビオス・フィアの持つ技術が惜しげもなくつぎ込まれる。

 そして、十月も半ばの頃。大型機械実験室でまずは胴体が組み立てられる。



 リョウ・アーシさんに案内されて、胴体の組み立てが終わった飛行機を見る。先が細くなった円筒形の胴体。機関士席にすわって、魔法杖や変速機(ギア)を操作するための踏板(ペダル)の位置を確認する。

 ふと、今ならデュアルキャストが上手く出来るんじゃないか、そんなことを思う。その思いは確信に変わって。リョウ・アーシさんに熱空機関を起動していいか確かめて。右手と左手で、それぞれ熱空機関に直結された魔法杖を握る。


 [WTtcHIDacOXYgelsp supply]右手の魔法杖から焦熱魔法を。[cNITtli supply]左手の魔法杖から冷却魔法を。


 魔法杖から熱空機関に魔素が流れる。杖の先端に集まった魔素は、魔法杖を伝い、熱空機関の表面に魔法式を描く。発動した式は世界に干渉する。

 魔素の動きがわかる。魔素の働きを理解する。魔法式の意味が頭に流れ込む。

 今ならわかる。焦熱魔法は水を空気に変えて燃やす魔法。(WT)燃える空気(HID)燃やす空気(OXY)で出来てて、燃える空気と燃やす空気は燃えると水になる。冷却魔法は空気の大部分(NIT)を液体に変える。液体に変わった空気は空気に戻ろうと、周りの熱を奪う。

 魔法は世界の法則に干渉する。普段は無意識に。だけど、デュアルキャストは意識的に(・・・・)魔素を操る。だから、意識が世界の法則に触れる。物質の構造が、繋がりが、頭に入ってくる。

 焦熱魔法と爆発魔法は同じ原理。制御が違う。燃えるには燃やす空気が必要で。雷撃魔法と加熱魔法も原理は同じ。燃える空気と燃やす空気は、熱を生む燃え方と雷撃を生む燃え方がある。とめどなく情報が頭の中に入ってくる。多量の情報に意識が奪われる。



 暗い世界で、意識が漂う。思考が魔法に奪われて。魔法を制御するだけの装置となって。心は真理の海を一人ただよう。



 それでも。少しずつだけど。心が思考を取り戻して。少しずつ。光を感じて。背中には機関席の感触。体の重さが柔らかい椅子にかかるのを感じて。


「…………子、王子、……、王子!!」


 音を感じて。フレイの声を感じて。


 意識がぼんやりとした現実に戻る。機関席に一人座る僕がいて。胴体のすぐ横から。心配そうな顔で、大きな声で。

 ああ、ダメだな、なんてことをぼんやりしたまま、ふと思う。


「ごめん。ちょっとぼっとしてた。大丈夫だから」


 すこしはっきりしてきた頭で。嘘をつく。正直どのくらい時間が経ったのかもわからない。体中の力が抜けて、重いしだるい。だけど……


「……嘘よね。とてもそうは見えないわ」

「大丈夫だから。僕もすぐ降りるから」


 フレイの心配そうな顔。声。いつもと違う、僕がそうさせてしまった、フレイの表情。


「……わかったわ。でも、無理ならそこで休んでて」

「大丈夫。すぐに降りるよ」


 嘘を重ねる。手に握る。力を籠める。大丈夫、これなら立てる。ふらつくな、よろめくな。フレイにあんな表情はさせちゃ駄目だ。心のどこかでそんなことを思う。


 体の悲鳴を無視して立ち上がる。操縦席の縁に手をかけ、またぎ、踏み台に足をおく。地面に降りる。

 向き直る。フレイの表情は変わらない。リョウ・アーシさんとなにか話して。誰かが外に駆けて行って。

 フレイに向かって歩く。まずは実験がどうなったのか聞いて。次は、えっと……

 思考が途切れる。いいや。話してれば、次の言葉だってきっと出てくる。


「どうだった? 焦熱と冷却、うまく行った?」

「……そうね、ちゃんと魔法は発動してたわ」


 フレイの表情は心配そうなまま。むしろ酷くなって。どうしていいかわからない、そんな空気が感じられて。

 ……おかしいな。いつも通りに動いてるはずなのに。

 そんなことを考えてると、リョウ・アーシさんから声をかけられる。


「いいから休め。そんな血の気の失せた顔じゃ無理してねえなんて信じられるか」


 ……そっか。それじゃあ、いつも通り動いてもダメか。次から注意しなきゃ。

 そんなことを思いつつ、それでもいつも通りに、壁際の椅子まで歩きはじめる。



 その後、少ししてイーロゥ先生が駆けつけてくる。


 どうも、体中の魔素を全て使うと、今の僕みたいになるみたい。普通は使おうと思っても使えないみたいだけど、初めて魔法を使う人なんかはたまにこうなるみたいなこと、休養すれば治ることを、イーロゥ先生がリョウ・アーシさんに説明してた。

 やがて大型機械実験室に馬車がきて。イーロゥ先生と一緒に乗り込んで。走り出して。馬車の中で体から力を抜いて、心から力を抜いて。揺られるままに帰路についた。



 自室のベッドで身体を休めて。メディーナさんに叱られて。作ってもらったパン粥を食べて。目を閉じて。気が付いたら、夕暮れ時まで眠ってて。

 目が覚めて、周りを見渡して。普段は飾られていない花が飾られてるのを見て。ああ、倒れたんだなと、昼の研究所のことを思い出す。


 胸の痛さと、ほんの少しの温かさとを覚えながら。



 その日はそのまま寝室で夕食をとって。昼と同じ、昼とは違って牛乳、卵、芋、野菜、そういったのが入ったパン粥をベットの上で。

 こっそり自分の魔素に意識を向ける。うん。ちゃんと意識できる。今までのぼんやりした感覚が嘘みたいにはっきりと。これなら大丈夫。一つの決心をして、眠りにつく。



 朝のジョギングでフレイに会って。お互い昨日のことは触れず。


「今日、もう一回熱空機関を起動させようと思う」


 それだけをフレイに伝える。


「そう」


 フレイの短い返事。本当はやってほしくないんだろうな、と。それくらいはわかる。だけど、失敗したままの方が駄目だから。それじゃ飛行機を飛ばせないから。だから、もう失敗しない。昨日の失敗はちゃんと取り戻す。まずはそれから。他のことはその後で考えればいい。



 大型機械実験室。飛行機の機関士席にもう一度座る。今度は大丈夫、失敗しない。右手から焦熱魔法、左手から冷却魔法を発動させる。

 機関士席のすぐ後ろ、熱空機関が起動するのを感じる。まだどこにもつながっていない動力伝達部が回転する。振動する。

 体に意識を向ける。魔素に注意を向ける。大丈夫。昨日みたいなことにはならない。意識の片隅で魔法の制御を感じながら確信する。もう制御が暴走することは無いと。


 横を見る。フレイはいつも通りの表情で、少しだけ緊張した面持ちでこちらを見てて。彼女に一つ頷く。頷きが返ってくる。

 その合間に見せた表情に安堵する。機関士席を降りたら、心配かけたことを謝って、お見舞いのお礼をしよう、そんなことを考える。だけど、これで飛行機の動力は整った。飛ぶための条件は全てクリアした。あとは飛ばすだけ。


 大空を飛び、雲を掴むまで、あと一歩。絶対に掴んで見せる、そう心に誓って。


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