表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
第四章・技術集約点ビオスフィア
23/44

1.自治領ビオス・フィア 上

第四章開始。

バード君視点です。

 また、壁の中か。旅が終わり、目的地のビオス・フィアに着いた時、僕が初めに思ったことはそんなことだった。


 三週間強の旅を終え、僕を唯一匿ってくれるだろう、ビオス・フィア自治領に到着する。そこは、王都とは違った世界で、王都とは異なる発展を遂げていて……


 僕にとって、第二の故郷となる、そんな『国』だった。


 でも、それは後になったから判ることで。そのときの僕は、旅が終わったことを残念に、寂しく受け止めていた。



 イーロゥ先生が馬車を操り、大きな門の前に馬車を止める。門番の兵士になにかを渡す。多分、ラミリーさんが準備してくれた紹介状だと思う。

 そうして、イーロゥ先生と兵士との間ですこし話をしたあと、少しすると馬にのった兵士が2騎、僕たちの馬車を先導するように歩き出す。


「どこに行くんだろう?」

「さあ? 宿屋とかじゃなさそうだけど」


 メディーナさんと、そんな他愛のない話をする。


 やがて馬車が止まり、イーロゥさんが馬車から降りるように促してくる。馬車から降りると、そこは、そこそこ大きな屋敷の庭だった。


「大きい……!」


 隣でメディーナさんが屋敷をみて驚いてる。そんなに大きいかな?

 そりゃ、村で見た建物とかよりは大きいけど……


「そうかな?」

「……バード君、どうすれば、この屋敷をみて、疑問符が付くのかな?」

「えっと。御殿や教会と比べると、そこまで大きくないかなって思ったんだけど」

「……クローゼ様のお墓のある教会、国で一番大きい教会だからね。御殿となんて、比べる方が間違ってると思うよ」

「そうなの?」


 そんなことを言われると、他に大きな建物を知らないんだけど……


「まあ、雑談はその位にして貰いたい。この屋敷の主に挨拶したいのだが」

「えっと。もしかしてお偉いさんかな?」


 イーロゥ先生の言葉にメディーナさんが問いを返す。


「うむ。この自治領の指導者の一人で通商の責任者でもある、リョウ・アーシ殿への挨拶となる。そこまで緊張しなくても良いが、まああまり失礼のできる人ではないな」


 その言葉に、僕とメディーナさんが固まる。

 ……えっと、前もって話して欲しかったかな。



「おう、来たか。かしこまる必要なんかねえ。とりあえず座れや」


 兵士の人に案内され、立派な部屋に通されると、開口一番、目の前の男の人からそんな言葉が投げかけられる。


 少し細身の、黒を基調とした服に身を固めた人だ。ちょっと見たことがない服だけど、上半身は薄手の白い服、黒いズボン。その上に黒い上着を重ね着している。模様も無くシンプルな服。だけど……


「ちょっと似合ってない、かな?」

「そうだよね」


 メディーナさんとひそひそ声で話す。多分、あの服は細身の人が着ると似合うんだ。だけど、目の前にいる人は……


「そりゃそうだ。俺だってこんな服、好き好んで着てるわけじゃねえからな」


 ! いけない。聞こえちゃってた!


「謝る必要なんかねえよ。逆に似合ってるなんて言われちまった方が侮辱ってもんだ。俺は本来、こんなお上品なもんを着るような柄じゃねえしな」


 僕の失敗を、体格のいい、短髪の、見るからに豪快そうな男の人は笑い飛ばす。


 そう。すごく体格がいい。筋肉もついて、力もありそう。だけど、イーロゥ先生とは何ていうかちょっと違う感じもする。

 イーロゥ先生はああ見えて足も速いし、すごく機敏に動ける。けど、目の前の人は、とにかく力が強くて、どっしりしてる。そんな感じがする。


 まずはイーロゥ先生が長椅子の端に座る。続いて僕、メディーナさんの順。続いて自己紹介。どう挨拶するか一瞬迷う。僕のこと、知ってるんだよね?


「バードです。少し前までパラノーマ王国の第四王子でした」

「バード君の付き女中のメディーナです」

「イーロゥと言います。王都城外街のラミリーの弟で、バード殿の教師役です」

「俺はリョウ・アーシだ。ラミリーとはまあ、商売上の付き合いだな。つっても直接あったことなんざほとんどねえんだが。ああ、王子のことはあらかじめ聞いてる。どうこうしようってつもりはねえよ」


 そんな言葉から、リョウ・アーシさんとラミリーさんの関係、リョウ・アーシさんの事、僕たちをどうして匿ってくれるか、そんなことを話し出す。



 まずは、リョウ・アーシさんとラミリーさんの関係。

 商売相手なんだけど、ちょっと普通の商人のような関係じゃないみたい。


「そりゃな。俺は商人なんて柄じゃねえ。まあ、商人をまとめる立場に立っちゃいるがな? 向こうだってそうだろう?」

「では、どのような関係で?」


 リョウ・アーシさんの言葉にメディーナさんが問い返す。


「そうだな。技術そのものを取引してるってのが近いか。ラミリーとは軍関係が多いな。馬車に使われる部品とか」

「なるほど。ラミリーさんの道場は見方を変えれば練兵場ですから。そういう取引もあると」

「ありゃあそんな程度じゃねえだろう。兵士鍛錬、職業訓練、なんでもござれだ。上手い事考えたもんだって思うぜ。最も、上に立つのも生半可じゃねえだろうがな」

「そうですね。凄い人だと思います」


 やり取りしてるのは隣国、サバン共和国の技術で作られた部品。だけど、部品だけだと取り付けることすら難しいらしい。で、その部品を扱える人を送ったり、招き入れて指導したりしてるらしい。

 単純にお金を取るだけじゃなくて、城外街でその部品を扱える人が増えれば商売の規模も増える、そういうことも狙ってるみたい。


「要するに、うちらは職人とかの派遣や育成もやってる。ラミリーとはその関係での付き合いだ」



 次にリョウ・アーシさんの事。最も、前の話で何となく想像がついた。


「俺はまあ、どっちかってえと職人の頭だな」


 そう。この人が商人っていわれてもちょっと困る。イメージできない。


 話を聞くと、商人を取り仕切っている人は別にいるみたい。だけど、商人とのやり取りはどちらかというとビオス・フィア領内の話になるらしい。

 さっき話していた隣国で作られた部品とかのやり取りは、取引相手にもある程度技術が無いと成り立たないらしくて、相手の偉い人とも話をしないといけない。そういう形での商売をまとめる立場らしい。


「まあ、柄じゃねえのは一緒だが。わかってる奴がいないと話ができねえからな」


 あと、交渉する人は別に用意して、リョウ・アーシさんはもっぱら技術のことを話すみたい。うん。すごい納得した。


 共和国から部品を輸入してて、修理とかは自分達でしてるみたい。今は自分達で作れないけど、作れるようになるために研究してる。もう一歩のところまで来てる、そんなことを熱く語ってた。



 最後、僕たちをどうして匿ってくれるか、この話はあっさり言われた。


「別段、どうってことねえだろ」


 ……僕たち、グリードから疎まれてるんだけど。


「グリードってのは随分敵が多いみたいじゃねえか。表立って叛を翻したのは城外街に三つの領主。こいつらは、通商を重視しているってことで一致している。俺の得意先でも(・・・・・)あるのさ(・・・・)。こいつらと今までの関係を続ければ、結局はうちらも目をつけられる」

「俺は目をつけられても通商は続けるべきって考えてる。で、王子を匿ってれば奴に反対してるって分かりやすくなる。まあ、そんなことも考えちゃいるな」


 えっと、つまり……


「敵対してるとはっきりさせた方が商売がしやすい?」

「惜しい。グリードに通じてると誤解された時に、その誤解を解く手段になるってところだ」


 ? えっと? ! そうか!


「大々的にグリードと敵対してると言うつもりは無い。だけど、グリードに通じてると疑われると商売できない相手がいる。その人にだけ僕のことを引き合いに出せば、疑いが晴らせる。そんな感じ?」

「ああ。それで正解だ」


 うん。納得できる。ちょっとすっきりした。

 納得できないような顔をしたメディーナさんの横で、僕は一人頷いてた。



「こちらが王子たちの部屋になります」


 一通り話を終え、案内役の人に部屋まで案内してもらう。

 ……えっと、この部屋、御殿の僕の部屋より広くない?

 応接間、寝室が二つ、少し小さめの部屋が一つに、台所、トイレ、お風呂……


 お風呂!?、えっ、お湯っていうか水、どうするの?

 なんか壁についてた棒を持ち上げたら水が出てきたんだけど!? すごい!


「これ、御殿に欲しかったよ……」


 隣でメディーナさんが呟くように言う。

 そうだよね。トイレのタンクに水を毎日補充するの、大変そうだったし。

 でも、あのとき、「これのおかげでトイレが凄く清潔で助かる」とか言ってたような気がするけど……


「なるほど。遺跡というのは便利なものだな」


 先生、一言で終わらせちゃったよ……


 仕組みを説明してもらう。ビオス・フィアの高所に貯水タンクがあって、そこに水が貯めてある。あとは、ここまで管が通ってて、そこの棒を持ち上げると、そこから水が流れてくると。

 水が高い所から低い所に流れるのと同じだって。


「貯水タンクに水を貯めるのは遺跡の機能ですね。最近輸出し始めたポンプという機械がありますが、仕組みは基本的に同じです」


 また新しい言葉が出てきた。ポンプ?

 そんなことを考えてたら、メディーナさんが案内役の人に質問してた。


「すいません。ポンプってどんな機械ですか?」

「基本的には水を簡単に汲み上げるための機械になります。井戸の水を汲み上げることを想定していますが、それ以外にもいろいろ使い道はあるのではないでしょうか」


 そんな会話をしていると、案内役の人が、この家の井戸にもあるようなことを伝えてくれる。で、案内してくれると。


 案内された先で、そのポンプって機械を見る。水が出る口(蛇口っていうらしい)と、横に長い棒がついた機械で、その棒を上下すると蛇口から水がでてくるみたい。

 メディーナさんが試しに水を出してみて、やっぱり驚いてた。


「御殿って進んでると思ってたんだけど、実は遅れてたんだ……」


 そんなことを呟いてた。



 井戸に案内された時に案内役の人に聞いたんだけど、あの蛇口、この屋敷でも一部にしかついていないみたい。他の人はさっきのポンプで水を汲みあげて水瓶に入れてるって言ってた。

 その話を聞いて、なぜかメディーナさんがホッとしてた。



 で、部屋に戻って、メディーナさん、イーロゥ先生と話をする。


「メディーナ殿は思う所があると思うが。私はここで世話になるのが良いと思う」

「……そうよね。ここにはここの思惑があるのが当然だし、この待遇は破格だと思う。けど、ちょっと、やるせないかな?」

「そうかな? あの話だと、王国が僕を諦めたときにわかると思うんだ。必要なくなるわけだから。だから、その間だけでもここに居れば、いつまで隠れてなきゃいけないかとかがわかると思う。それだけでもここに居た方が良いと思うんだけど」


 ちょっと自分の考えを述べてみる。と、メディーナさんとイーロゥ先生がそろってこっちを見る。


「……何?」

「いや。たしかにバードのいう通りだと思う。まあ、本当にその時が察知できるかは別として、他の土地に行くよりも確実に王都の情勢はつかめるだろう。それだけでもここに留まる理由としては十分だと思うが」

「そうね。思惑がどうとか、ちょっとつまらない考えだったよね」


 そう言って、僕の考えに同意してくれる。

 そうして、当分の間はこの屋敷で過ごすことが決定した。



 リョウ・アーシさんに、お世話になることを改めて伝える。


 嫌じゃなければと前置きして、リョウ・アーシさんに一つ頼み事をされる。研究所? 隣国の技術や部品を研究しているところがあるんだけど、そこで魔法を教えてほしいみたい。


 イーロゥ先生がそのくらいなら構わないと返事をする。どうもラミリーさんにあらかじめ言い含められてたみたい。僕たちを匿う報酬の一つだって。あとでイーロゥさんからそんな話を聞いた。


 あと、食事とかの細かいことを聞かれて、メディーナさんが受け答えする。


 イーロゥ先生は、訓練をする場所があるかとかを聞いてた。中庭が丁度いいような話をしていた。うん。久しくしてなかった朝のジョギングもできそうだ。


 で、僕が聞く番。運動ができる場所があるのなら、聞きたいことは一つ。


「調べ事とか出来るような書庫ってありますか?」

「ああ、それはこの屋敷じゃ難しいな。図書館にいったらどうだ」

「図書館?」

「ここの図書館は相当な規模だ。大抵のもんは揃ってる。そうだな、俺が一筆したためれば本を借りることもできるだろう。あとは、行って、自分の目で確かめることだな」

「そうだね。今度行ってみます」


 そこまで確認して、話を終える。

 図書館ってとこ、良い本があると良いな。



 そうそう。お風呂。浴槽の横にお湯を沸かすための窯があったんだけど。薪用の窯が。案内役の人が薪を持ってきてくれたんだけど、みんな魔法で沸かすつもりだったみたいで、誰も薪を使おうと思わなかった。

 せっかく持ってきて貰ったのに、そのまま持ち帰ってもらうことになった。


 ……悪い事しちゃったかな。


 寝室は、僕とイーロゥ先生で一部屋、メディーナさんで一部屋の形に別れて。その日は終わった。


 うん。思ってたより色々なことがあった。毎日こうだと退屈しなくていいな、とか思いつつ、眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ