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バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
閑章・後世の図書館にて
22/44

後世の図書館にて ~ 旅人と相棒の会話 3

11/13 加筆修正(ビオス・フィア、大災害の説明追加)

2017.12.24 []を『』に修正、三点リーダーを修正。


本編ストーリーとは関係のない掛け合いです(設定等の説明回です)。

読み飛ばしても問題ありません。

『やっとビオス・フィアの名前が出てきたね。名前だけだけど』


本から目を放したタイミングで、相棒から声がかかる。


「まあな。バード王子の物語を語る以上、王国からの脱出行は欠かせないからな。長くなるのも仕方無いだろう」

『これで晴れて自由の身、ってわけじゃ無いんだ?』

「その辺りは物語の中でも軽く触れられていたが。もう少し詳しく話すと、城外街とそれに歩調を合わせた領主が声明を出すのだが、そこではっきりとグリード(王弟)を君側の奸と言い切り、第三王子の親政を要求する。そして、戴冠式以降、ほとんど商人は王都に入らなくなった」

『ふむふむ』

「はっきり言えば、力を背景とした経済封鎖を城外街は実施したことになる。もっとも、あえて完全なものにはしなかったようだが」

『そうなの?』

「ああ。出自が第三王子派であると確認できる場合だけ取引を行っていたようだ。これで、グリード(王弟)がどう思おうと、第三王子派の排除は不可能になる」

『なるほど。グリード(王弟)は黙って見てたの?』

「まさか。声明の直後、商取引から第三王子派を一度締め出した上で、城外街との交渉に臨んだ。だが、城外街の態度は固く、平行線のまま交渉は終了し、王都は外の物資を一切入手不可となる。

 結果として、王都の経済が混乱する。王城は城外街を非難するが、城外街は王都民の受け入れを希望する場合、保護することを表明。実際に王子がビオス・フィアに到着するまでの短期間で数千人の受け入れを行い、大きな混乱も無かった。この時点でグリード(王弟)側も方針の転換を迫られる」

『よくそんな数を受け入れられたね』

「これは元々準備されていたのだろうな。都合良く数万人規模の居住地があったそうだ。元々、城外街は王都の中で生産される物資に依存していないのも大きい」

『なるほど~』

「まあ、この混乱のさなかではバード王子どころではないだろう。一つ間違えばグリード(王弟)が失脚する状況だからな。だが、逆に言えば、混乱が収まれば危機が再燃する。そんな状況だな」

『あくまで一時の平穏なわけね』

「そうなるな」

『なかなか解決とはいかないね?』

「宿命としか言いようが無いだろう。妾腹の王族として生まれ、幼い内に御家騒動が勃発する。力が無いのも、注目されるのも、血筋などというどうにもならないものが理由なのだからな。むしろ、脱出するだけの助けが得られたのが幸運だろう」

『そうだね。思惑にしろ善意にしろ、周りの人には恵まれてるよね』

「ただ、メディーナやイーロゥがいなかったからとしても、誰も救いの手を差し伸べないなんてことは無かったのだとも思う。1年以上もの間、正道を外したばかばかしい派閥争いをしてる状況だ。そんなものに巻き込まれたバード王子には同情が集まるのが当然の結果だ。実際、チェンバレンも城内の混乱を抑えることより王子の安全を優先している」

『そうだよね。完全に黙認してたよね』

「メディーナやイーロゥがいたからこそ脱出できた。そこを否定するつもりはない。だが、城内に留まったとしても、きっと誰かが王子に救いの手を差し伸べたのではないかと、そうも思っている」



『そうそう、チェンバレンさんとメイさん、大丈夫だったの?』

「ああ。ただ、王城で働く気にはなれなかったのだろうな。一旦辞職して、王都の富裕者の執事となったそうだ」

『そっか。まあ、無事ならいいよね』



『城からの撤退で、城外街、すごいものを出してきたよね』

「移動式の橋のことか? あれはただのハッタリだと思うがな」

『でも、歩兵や騎馬はかろうじて使えるんでしょ? それだけでも画期的じゃない?』

「いや。それも無理だろう。まともに固定できるとも思えない。当時の技術だとなおさらだな」

『ハッタリだったら、わざわざ利用価値が低いようなことを言うかな?』

「冷静になって、使い物にならないなんて気付かれるよりは、ちょっとは使えると思わせた方が良いと考えたんじゃないか? まあ、正確なことは今となってはわからないが」

『なんでも知ってるわけじゃないんだね』

「本を読み漁ったことを知ってるだけだからな。人の心理まではわからなくて当然だ」

『本当だったら、戦場で、人の持つ価値を重んじる人たちが、王子と侍女とをつなぐ架け橋を架ける、なんてかっこいい話だったのにね。ハッタリだったんだね』

「その言葉で、物理的に橋を架けることを想像できる人間は少数だと思うのだが……」

『ちっちっち。こういう話は、物理的に橋を架けなきゃかっこいい話にはならないよ』

「そんなものだろうか」



『生活用の魔法杖とか、魔法用の道具とか出てきたね』

「魔弾だとどうしても消耗品になるからな。その際に血が必要になるのは前にも話したが。だが、魔法杖の血は消費しない。だから、魔弾を使わなければ、血の消費無しに、ほぼ永続的に使えることになる。後、サイズを小さくすることで必要な血の量を減らしてもいる。そうすることで、気軽に魔法を使用できるようにした道具だな」

『……血はしょうがないんだ』

「ああ。だが、生活用の魔法杖は本人の血を使うことを前提としてる。また、頑丈な作りとし、何より、魔弾の装弾機構が無い分壊れにくい。一度作ればほぼ永続的に使えるものだな」

『そっか。倫理的にも少し配慮しているんだ』

「これは城外街で開発された物だからな。城外街には救貧院のような安定して血を供給するような施設は無い。その上で魔法を前向きに使用しようと考案されたものだ」

『そうだね。ラミリーさんなら、それはうちの流儀じゃない、とか言いそうだし』

「城外街の気風が大きいのも事実だろうな」

『魔法用の道具は?』

「あれは単に魔法杖が使いやすい形をした道具だな。アイロンが出てきたが、魔法杖を差し込む場所があって、魔法杖が持ち手になれば便利だろう? そんな形をした道具というだけだ」



『生活用の魔法が城外街の専売特許とかって言ってたけど、王都は?』

「王都の魔法研究は王城の管轄だが、王城の魔法研究は戦闘用に傾いていたからな。戦闘力こそが生きるために必要な時代の名残りだな。大災害直後は獣が相当凶悪だったらしい。8メートルを超える跳躍力をもち、150キロもの速さで走る肉食獣もいたという話だしな」

『でも、火を恐れるんでしょ?』

「火を燃やすためには薪がいる。薪を供給するのは森や林で、野生動物のテリトリーだ。」

『……なるほど』

「そこから少しずつ動物を駆逐し、森や林を管理下において、棲み分ける。安全を保障するために城壁を築く。各都市の城壁は動物から身を守るために築かれたものだ。だが、人間と獣の棲み分けが進むと、城壁を必要としない都市が誕生しはじめる。城外街もそうだな」

『ふむふむ』

「棲み分けが進めば、篝火で十分な安全が確保できるようになる。城外街も規模が小さい内は、城壁の上で燃やす篝火でも安全を確保できた。まだ街とは呼べないような時代だな。だが、規模が大きくなるにつれて、薪で篝火を燃やして安全を確保する必要が出る。そこに、薪の供給量の問題が発生する」

『ほうほう』

「王城から漏れ出た魔法技術を独自に改良して篝火の材料としたのが、城外街の研究所の始まりだ。薪の供給問題から研究を始めた以上、血の供給を必要としないことが当初からの至上命題となる。が、これは意外とあっさりクリアされる」

『そうなんだ』

「魔弾という考え方は、聖典に無い考え方だ。大災害後の人間が考えた箇所だな。それに代わる発動法も特に難しくないと、そういうことだろう」

『へえ~』

「こうして、王城と城外街の研究所は発足当初から決定的に異なる道を歩んでいったわけだな。血の供給が必要無いのであれば、普段の生活にも積極的に使っていく気になるだろう?」

『そうだね。始めに魔法杖を買ったら後は消耗品が無いんだったら、使わなきゃ勿体ないよね『』

「結果、城外街ではもはや魔法無しでは住めない程、魔法が普及する。特に冷却は魔法以外では実現出来ないだけに死活問題だ」

『城外街以外の場所と同じようにすれば良いんじゃないの?』

「冷却できれば簡単に保存できるのに、わざわざ保存食を買わないだろう。買う人が少なくなれば生産も少なくなる。結果、徐々に魔法が必修になっていったわけだ」



「一方の王都の魔法研究だが。研究が滞ったのは、聖典解読に捕らわれた結果だな」

『……なんで? 解読できたのって1/3程度なんでしょ?』

「残りの2/3はな、今の人間では発動できない魔法だったんだ」

『……それはちょっと。かわいそうだね』

「聖典の記載はエーテルによる反応干渉(自然魔法)変換干渉(錬金)結合干渉(素材魔法)の三つだったのだが。今の人間が扱えるのは反応干渉(自然魔法)だけだ」

『……今の(・・)?』

「大災害前は違ったのだろうな。聖典には、個人で変換干渉(錬金)結合干渉(素材魔法)を行う方法もしっかり記載されているし、理論は正しい。発動できないだけでな。まあ、大災害前と後で動物の生態系も相当変わったんだ。人間も変わってしまったのだろうというのが定説だな」

『……そっか。そんなこともあるんだね』



『そういえばビオス・フィア(ここ)のこと、ちらっと説明してたけど、なんかとんでもなくないかな? 軍隊が攻めてきて何もできなかったとか、壁や天井が壊せないとか。ここってそんなすごいところだったの?』

「大災害前から残る遺跡の共通点としては、先に説明した魔法がふんだんに使われてるのが特徴だな。結合干渉、別名素材魔法を駆使すると、物質間のつながりを強化できる。いわば、物質に固さと弾力を両方とも与えることができるわけだ。壁や天井が壊せなかったのはこの魔法の効果が残っていたからだろう。もちろん限度はあるがな」

『ふむふむ、面白そうな魔法だね』

「だが、大災害は、全ての大地を襲う未曾有の災害だ。今判明しているだけでも、百年もの期間、常に陸地のどこかが揺れ、建造物を破壊し続けた。大地の揺れは津波を起こし、全てを洗い流す。人々は常に逃げ回ることしかできない、そんな自然災害だったんだ。素材が頑丈なだけではこの保存状況はとても説明できない」

『……ビオス・フィアは運が良かったの? たまたま被害が軽い場所だったとか』

「そんなはずはない。被害が軽い場所なんてものがあったのなら、他にも遺跡がのこっているはずだ。ここには大災害を想定して対策が施されていたと考えるべきだろう。しかも、小規模ながら生態系を内包していたふしすらある」

『……つまり、遺跡を立てた人達は、大災害を予知していたと?』

「そう考えなければ辻褄が合わないのは確かだ。残された遺産の中でもビオス・フィアの保存度は群を抜いている。最低でも、大地震と大津波に耐え抜けるように作られたと考えていいだろう。そんな都市を当時の軍が攻め落とせるわけが無い。

 大災害前の人間が大災害を乗り切るために作った都市、それがここビオス・フィアなのだろう。そして、この都市で大災害を乗り越えた人々もいたと。大災害の収束期には既に無人になっていたそうだがな」

『……きっとね』

「うん?」

『きっとその人たちは、自分たちだけ助かることに耐えられなかったんだよ。その人たちは、今の人には使えない魔法も使えたんだよね?』

「……多分、そうなのだろうな。この都市を建造したときに使えたのは間違いないだろう」

『野生動物はものすごく強くなってて。人間は魔法を使えなくなってて。知識も失われて。そんな中、自分達だけ知らんぷりして豊かに過ごすのは、罪悪感があるんじゃないかな? 救う力があるのなら、なおさらだよ』

「……仮に中に住む人間がそう思ったところで、安全や豊かさを捨てる理由にはならないと思うが」

『夢が無い! 夢が無いよ~!』

「悪かったな。……だが、そうだな」

『うん?』

「このビオス・フィアは確かに大きい街だが、閉じこもるには狭いのだろうな。今、外の世界がどうなっているのか、そういった事を気にして旅立つ人間はきっといつの世にもいるのだろう」

『……そうだね』

「そのような人間から、外がどうなっているか、逐一伝わっていたのだろうな。そして、外の人のために自ら出ていった人間もいたのだろうと、そうも思う」

『そうそう。きっとそうなんだよ!』

「もっとも、それで無人になるとは考えられないのだが……」

『わからないよ~。そういった人たちの話が、苦しむ人々を助ける俺、超カッコいいとか、逆境に苦しむかわいい娘を助けてチョメチョメ、とか、そういった欲望に火をつけて……』

「……なぜ、突然そんな方向に話を持ってくんだ、お前は……」

『そうそう、今こそ世界を我が手に、とかもアリだよね~。他には……』

「……やはりどこかに捨ててくるか」

『ふっふっふ。いつまでもその言葉が通用すると思わないでね。えい!』

「……何をしたんだ?」

『ちょっと使ってみたよ、結合干渉。服ごとジャーニィと私をくっつけてみました。貴方と私は一心同体~』

「……何故、使える?」

『うん? 私の体、魔法でできてるようなものだよ。あれだけ話してもらえば、どうやったら使えるか、なんとなくわかるよ。……ちょっと大変だね、この魔法』

「そうなのか?」

『魔力の消費量が凄いよ。もっとも、一度干渉してしまえば消費しないけど』

「それは単に、無理矢理使ったからだと思うが。本来、別の物をくっつける魔法ではないのだから」

『ふむふむ。……えい!』

「……今度は何をした?」

『ジャーニィの服を硬化してみました。確かに、随分消費量は減ったね。これで貴方は私の虜に!』

「……ふざけるのはそこまでにして、もどしてもらえないだろうか?」

『ぶー、反応が面白くない! やり直しを要求するよ!』

「……そんなことを言われてもな」

『はい、戻したよ。次はもっと面白いことを言うように!』

「……だから、そんなことを言われてもな」



 そんなことを話しつつ、軽く休息を取る。

 今日はまだまだ時間がある。休息を終え、そのまま読み進めるべく、再度、本に視線を向ける。


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