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バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
第三章・王都脱出
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7.旅路(メディーナ)

2017.12.24 三点リーダーを修正。


メディーナさん視点です。

 時をビオス・フィアまでの旅の始めの頃に遡る。メディーナは2度目となる夕食を食べつつ、その味に驚いていた。


(やっぱり、昨日とは違う美味しさよね、これ)


 干し野菜と干し肉から出た出汁に塩を調整しただけのスープ。素朴な味わいのそれは、一品料理というよりはベースと言った方が良いような、まだまだ工夫の余地があるものだった。だが、そう思いつつも、メディーナはこうも思う。


(だけど、手を加えるのが怖いくらいの味が出てるのよね) 


 そうして、味を分析しながら食事を進める。そして、次回から調理を見せてもらう約束を取り付け、その日の食事を終える。



 次はこう来るのね。


 次の日の朝、昨日の残りを朝食として出された時、またも驚かされる。昨日の夕食は手を加える余地があるとは思ったのよ。でも、こんな形で手を加えるとは思ってもみなかったわ。


 そんなことを思いつつ、目の前の、パンを丸々スープの具にしてしまった、もはやスープとは違う品となった朝食を食べ進める。

 シンプルな味付けを補うためであろう、ご丁寧に焦げ目まで付けたチーズが上に掛かっている。


 これ、完全に一品料理として成り立つ料理よね。


 そこで、ふと思った事をイーロゥさんに聞いてみる。


「イーロゥさん、この料理、街では一般的なのかな?」

「どうだろうか? 道場で、このようにして食べる道場生はそこそこいたと思うのだが」


 ……私、一応道場に一年半いたけど、こんな料理見たことないよ?


「そうかな? 私、見たこと無いんだけどな」


 言った後でふと思う。そういえば、パン粥っていうの? 細かく千切ったパンをスープに入れて食べてる人は結構いたような気がする。

 けど、あれとこの料理、全然別物だよ? パン粥ってどちらかというと、食欲がない時とかに食べると美味しい料理だと思うし。


 そんなことを思いつつ、食事を終える。



 次の日の夕食時、馬の世話はバード君に任せて、イーロゥさんの料理風景を見せてもらう。確かに、干し野菜を入れて煮てるだけよね……って…………


 なにか、イーロゥさん、向こうで魚の干物と格闘してるんだけど……


「いや、鍋にいれようかと思ってな。小骨を取っていた所だ」


 いや、発想が驚きだよ。私、あの位の大きさの魚の干物は焼くものだとばかり思ってたよ。

 ……結構、まめに骨を取ってる。うん。大変そうだね。ちょっと手伝おう。


 そうやって出来た鍋も、なかなかの味だったよ。



 次の日の朝は、今度はちゃんとしたパン粥だった。昨日の残りに細かく千切ったパンと卵を入れた一品。


 ……卵? 馬車に積んであったっけ?


「追手が来ないことが確定したからな。急がなければ割れることも無いと思い、昨日買っておいた」


 なるほど。

 ……もしかして、イーロゥさん、結構食にこだわる方?



 次の夕食。とうとう塩以外の調味料が登場する。

 うん。普通に唐辛子だね。粉にしたのを少しだけ入れてる。


 メインの具材は干し肉(豚)に野菜。おや、野菜の配分が違う?

 おお、干しトマトを大量に。見事にトマトスープだよ。


 今日の夕食は、久しぶりに、ちゃんとした(いままでのスープも美味しかったんだけどね)スープを味わった気分になったよ。



 明けた朝食。


 水気を飛ばした昨日のスープにチーズを加えて、軽くこがして切れ込みを入れたパンに挟んだものが出てきた。カリッとしたパンの食感に中の具の味が合わさってなかなかの味。

 スープの水気は魔法で飛ばしたとのこと。パンを焼いたのも魔法。


 驚くべきなのは、水気を飛ばした方の魔法だろう。事故の原因となった、水を空気に変える魔法をつかったそうだ。


 とは言ったものの、もう驚かないよ。イーロゥさんは効率良く、美味しい物を作るためなら、発想力を如何なく発揮する人だ。そのことはこの数日で思い知ったよ。



 夕食。今度は小麦粉で生地を練り始める。

 で、それをひらぺったい、団子位の大きさの形にしていき、鍋に投入する。


 ちょっとしたことだけど、結構違う料理になっていたね。



 その後も、実にさまざまな、私の知らない料理が作られていく。イーロゥさんは煮込んでるだけなんて言うけど、結構勉強になった。

 そうそう。味に関しては、多分だけど、干し肉や干し野菜で作ってるのも大きいみたい。私の知ってる野菜でも結構味が変わってたりしてる。生よりも良い出汁がでてるのも多い。で、イーロゥさんはそれを大量に使って煮込むのも美味しくなってる一因かな、と思う。

 あと、煮込むときに、小さな干し魚が入った水を使ったり。軽く色が付いたその水は、結構魚の味が染み出てて、それで煮込むだけで結構美味しくなったりした。


 ……そっか。魚なんて、王都じゃそんなに見ない食材だったけど、街では普通に売られていたっけ。ラミリーさんの言ってた、街の方が豊かって言葉の意味を今になって実感したよ。


 当然、それだけじゃないとは思うけど。多分、入れる具の選び方も絶妙なんだろう。傍目には適当にいれてるようにしか見えないんだけどね……。



 そんなある日、バード君が馬車の中で手伝えることはないか、イーロゥさんに尋ねる。そういえば、最近、イーロゥさんはバード君のことを呼び捨てにしてる。なにかあったのかな? 

 そんなつまらないことを考えてると、料理の下準備なんてことをイーロゥさんが言い始める。


 ちょっと!? それだと具とかを選ぶの、私になるよね!?

 私、あの味を出す自身、全く無いんだけど!?


 そんなことを考えている間に、話は進み、魔法の話に移る。教わった方法でバード君があっさり魔法を発動させる。

 すごいね、簡単そうに見えるよ、なんて思ってしまう。で、つい口に出すと、なんと私でもできるとイーロゥさんが言い出す。


 なんだろう。すごい興味がある。だって、あんな簡単にお湯が沸くんだよ? 簡単に水気を飛ばせるんだよ? 料理だけじゃない。掃除だって、洗濯だって、なんにだって使えそうだよ、すごい便利そうだよ。


 そうして、次の日から、馬車の中でやることが決定した。


 しまった。料理の下準備のこと忘れてた。大丈夫かな……



 そうして、次の日、あっさりとバード君が加熱魔法を習得する。

 もう逃げ道もなくなったよ……



 イーロゥさんが入れてた野菜を思い出す。確か、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、このあたりを主役に、彩を考えてピーマンとか……。

 ダメだ。至って普通だ。どうやってあの人はこの材料であの味を出していたのだろう。謎すぎるよ。


 考えてても仕方が無い。度胸を決めて、具材を考えて鍋に入れる。水を張って、蓋を固定して、バード君に加熱してもらう。

 あとは夕方、水を足してもう一回煮込めば完成する。ほんとはちゃんとした量の水で作りたいんだけど、馬車の中でお湯を沸かすのは危ないから、ぎりぎりの量で作ってる。


 もう一回、味を調整する前提なんだから、きっと大丈夫だよね?



 夕食時、イーロゥさんが鍋に火をかけ、味を見た後、小さな干し魚の出し汁とお酒を入れて、塩で味を調整している。

 出来上がりを少し味見させてもらったけど、今までと遜色ない味になってた。うん。良く分かったよ。干し魚の出し汁、すごいって。



 心配事?がなくなったので、魔法をバード君から教えてもらう。ふっふっふ。日常用の魔法杖なるものをイーロゥさんからもらったのよね。30センチくらいの小さいやつ。

 ……お金、ちゃんと払おうとしたんだよ。でも、どうしてもイーロゥさんが受け取ってくれなかったから。「特に危険なことも起きていない以上、私は食い扶持を増やしているだけだ。迷惑料とでも思ってほしい」って。あの人らしい律儀な言葉で。


 実のところ、大活躍だと思うんだけど。危険なことが起きていないのはむしろイーロゥさんの立てた計画のおかげだと思うし。これだけの長旅で、私もバード君もほとんどストレスを感じていない。

 食生活だけの話じゃない。火の番を一人で受け持ってもらってもいる。旅の知識も十分に持っている。旅に必要なことは全てあの人に頼っている状態だ。もう少し誇ってもいいと思うんだけどな。

 多分、あの律儀さが、足枷だったんだろうな。ふとそんなことを思う。だって、イーロゥさん、相当いろんなことが出来る人だよ? なのに変に他人に流されたり、自分で決められなかったり。どこか一歩身を引く、そんな所がある。


 多分、ラミリーさんみたいな、判断を間違えない人が近くにいて、その人の判断の方が正しい、なんてことをどこかで考えたのだと思う。だから、そういう人がいない今、イーロゥさんが自分で判断をするようになって、十全に能力を発揮し始めたのかな、と。


 ついてきて貰って良かったと、今では心の底から思う。やっぱり、私って人を見る目がまだまだで。もっと色んな人を見て、考えて、見る目を鍛えなきゃね。


 いけないいけない。今は魔法の方。バード君の話だと、杖を握って、イーロゥさんの書いてくれた魔法式[WTtHIDaOXYgelos supply drive]を頭に思い浮かべればいいらしい。


 ……さらっと言うけど、すごく難しいよ、これ。


 そしたらバード君、紙と筆記用の木炭を出してくる。良く持ってたね、えっ、馬車に準備されてた? イーロゥさん、どこまで準備万端なの?


 で、何度も書いて覚えるのが一番良いと。バード君、そんな事もしてたんだ。気付かなかったよ。


 ……揺れる馬車の中で繰り返し書き取りをするのは大変だったよ。



 どうにか魔法が発動できるようになった。直接文字を頭に思い浮かべなくても、書く様子を想像するだけでも発動するのが大きかったね。

 一度発動できるようになれば、次からは簡単に文字を頭に思い描けるようになって。そうなると、より正確に魔法が発動して。そしたらさらに簡単に式が思い浮かぶようになって。


 うん。発動さえなんとかできれば、難しいことじゃなかったよ。


 今は練習をかねて、私がお湯を沸かしている。


 ……どちらかというと、水を空気に変える魔法? あれの方が気になってるけど。あの魔法、洗濯を飛躍的に楽にしてくれるはずなんだよね。旅の途中で洗濯物を干す必要が無くなれば画期的だと思うんだけど。


 そう思って、洗濯後、イーロゥさんに魔法をかけて貰った。結果はまあ、失敗だったね。衣服の一部分だけ乾くという悲しい結果に終わった。


 それでも、お湯で洗濯したり、アイロンを直接熱したりと、魔法は大活躍。特にアイロン。木炭が要らない上に温度が調節できる。……手早くやらないと冷めちゃうけど。


 だけど、なんでこんなものまで馬車に積んであったんだろう。謎は深まったよ……



 そうして、旅は続き、やがて目的地にたどりついて。

 眼前にはビオス・フィアの巨大な建造物がそびえ立っていた。


第三章はここまでとなります。



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