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バード王子の独立記  作者: 市境前12アール
第一章・出会いと日常の回想
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1.実戦指導講師イーロゥ

2017.12.24 三点リーダーを修正。


ここから本編です。

 魔法杖を振るい戦闘魔法を魔弾にのせる。魔弾は的に命中、爆発する。


 今日はバード殿下の教練の日だ。教練自体は2時間程度だが、教練のある日は非番となる。本来であれば、教練の準備を行うのであろう。しかし、殿下の教練は体力作りが中心となるため、そこまで準備を必要としない。


 ゆえに、午前中の空いた時間は自己訓練にあて、教練終了後は実家の道場に顔を見せることにしている。


 魔弾が尽きるまで魔法杖を振るい、一息つく。今頃は殿下も自主訓練に励んでいるだろう。的の近くに散った破片を集めつつ、なにげなく思う。



 私、イーロゥがバード・パラノーマ第四王子の教育役におおせつかわり、王城にて彼と出会ったのは、今から3年前のパラノーマ王国歴145年、私が26歳、バード殿下が8歳の時であった。


 我がパラノーマ王国は、かつての大災害から最も早くに秩序を構築した国の1つと言われている。その原動力となったのが、聖典(魔法概論書)にしるされた知識と、その知識を読み解き、適切に民を導いたパラノーマ家の指導力である。ゆえに、混乱から脱し、秩序を構築した際に、彼らは民衆から推され、この地を治める王家となり、彼らの名をそのまま国号とした。


 聖典とは、大災害以前に存在した文明が残したとされる書物で、我が国の聖典は魔法に関する知識が記されているといわれている。だが、解読可能なのは1/3程度で、大半は現時点では解読できていない。というのも、いつ始まったのかすらわからない大災害によって、人の営みは根こそぎ破壊され、その際に文字も失われたからである。今もパラノーマ王家による研究は続けられているが、60年近くの間、解読は停滞している。


 バード殿下は末の息子として生を受けたため、王位継承権は低く、王位につくことは考えられない。しかし、聖典研究等の王家直轄事業は数多くあり、それらの指揮をとる王族は常に必要とされている。そのため、幼少より高度な教育で知識や人格を鍛えあげ、国の発展に寄与することが期待されている。

 先日、基礎教育に一定の目途がつき、より実践的な学問を修めるための教育役の一人として私が任命されたのである。


「私はイーロゥと申します。本日より殿下の教育役をおおせつかまつりました」

「初めまして。バード・パラノーマです。よろしくお願いします」



 私は講師として、主に実戦魔法と戦闘術を教え、あわせて心身を鍛える役をうけたまわっている。他国でいうと騎士訓練だ。だが、殿下の年齢的に、実戦に耐えうるような指導を行うことはできない。そのため、基礎体力の向上を図り、次のステップへの土台となるような訓練をすることにした。


 最初は、体力の無さが目立っていた。それはそうだろう。いままで学問の基礎や教養を学んでいたと聞いている。市井の子供と比べ、外で遊ぶことも少ないのだろう。体を動かす機会が少なければ、運動が苦手になるのもうなずける。


「よし。あと1周したら休憩しよう、それまで頑張れ!」

「はい!」


 単純な訓練とは言え、教えることは多い。例えば、走るという動作でも、距離や速度、走る姿勢によって得られる効果は違う。目的を持ち、それに適した方法で訓練することは重要なことだ。


 殿下には、まず最初にそういった基礎的なことを覚えてながら、体力をつけることを目的とした訓練を行う。殿下自身、努力を厭わない性質なのだろう。日々着々と訓練に励む。教え子が教師の言うことを真面目に聞き、努力し、能力を伸ばしていくのは、教える側としても楽しいものだ。


 走り方を覚えたところで、体力不足を補うために、毎朝、軽く走ることを殿下に薦める。すこし不満そうな顔をされていたので理由を説明する。必要性はわかっていただけたようだが、まだ少し不満気だ。訓練には前向きに取り組む印象が強いため、少し意外だった。


 だが、どのように走ればよいか聞いてくる。殿下の性格を考えれば、一度走れば前向きに取り組むだろう。そう考え、走る際に注意すべきことを伝えた。



 その日の午後は実家の道場に顔を出す。道場から兵舎に戻ってきたところで、殿下の側付き女中(メイド)のメディーナという方が訪ねてこられた。殿下の教育に対し、教育方針等を確認したいとのことだ。


「バード様の授業についてお尋ねします。基本的に体力をつけることを重点に置いていたと思いますが」

「うむ。バード殿下の年齢だと体が出来ていない。ゆえに実戦を想定した訓練、例えば模擬戦や行軍訓練は成長に悪影響を及ぼす。ゆえに前段階として、基礎体力をつけるための訓練を中心におこなってる」


 殿下は幼少のため、殿下の教育や体調にも気を配っているのであろう。成長に悪影響をおよぼさないように、まずは体力の向上を目的とした訓練を行っていることの説明を始める。


 王族の側付きともなるとただの使用人とは違う。常に主人の傍らに控え、公私共に支える存在だ。本来は、身の回りの世話をするのに男では不都合なことも多いゆえに任命される使用人でしかない。だが、主人にとって最も身近な存在ゆえに、公私にわたる最も重要な相談相手となる。


 そのような立場ゆえ、私の教え方で本当に良いのかを判断する必要があるのだろう。一通り説明を終えると、運動に関する知識がないと前置きした上で、説明した考え方が一般的なものか、さらに問いかけられる。


 暗に、私のやり方が通常の方法と違うことに対し説明を求められているのだろう。最もなことだ。私の教え方は王城の流儀から外れている。


 私は他者が行わないであろう方法で教えているのだ。心情を吐露する必要があるだろう。そう思い、改めて彼女と向き合い、話を始める。


「実は私の家が道場のようなことをしています。そこでの考え方になります」

「子供も多く通っており、このような教え方をしていました。情けないことですが、他に教え方を知りません。なので、殿下にも同じ方法で教えることにしました」


 そうして私はメディーナ殿に、王城の流儀に沿った方法では教える自身がないことを包み隠さず話し始めた。



 私は城壁の外、それも比較的貧しい者が集まる区域で生を受けた。


 王都は城壁に囲まれた内外に街がある。王都は城壁の内側(・・・・・)をさして言う言葉だ。城壁の外に出来た街は王都の外などと揶揄されいる。当初は、城壁の外に街は存在していなかったのだ。


 しかし、王都は人の流れは多く、城壁に囲まれているが故に土地が不足している。それゆえに、自然発生的に城壁の外に人が住み、増えていき、やがて街となった。街では、やがて自治団を発足させ自警団を結成した。そうなると、王都も、城壁の外にできた街を無視できなくなり、自治団に接触し取り決めを交わす。


 取り決めにより、自治団は税を街から徴収し王城に収めること、街の住民を把握することを義務付けられる。代わりに、街の住民は王都の中に自由に出入りすることができ、王都民と同じ扱いとすることとなった。


 この取り決め以降、城壁の中を王都といい、城壁の外を城外街と呼ぶようになる。また、住民も王都民、街人と呼び分けることとなる。


 なお、城外街は税が安い。自治団によって運営されているためだ。自治団の税もあるが、それを足しても王都より安くなっている。


 私の実家は道場を運営している。特殊な点として、道場生からお金をとっていない。むしろ食事を支給している。運営費は自治団が支払っており、道場生は自警団に入ることが多い。


 要するに自治団が出資する自警団員養成所だ。


 道場の家で生まれ、訓練に励み、十台半ばには道場生を指導する立場になった。道場には子供も数多くおり、子供の指導にあたることも多かった。


 だが、私は指導するより腕を振るいたかった。訓練の結果を試したかったのだ。ゆえに王都の兵士に志願した。道場の運営や師範役は姉にお願いした。快く引き受けてくれたのには感謝の念が尽きない。


 王城に配属された結果、仕事はほとんどが城内の見回り等で、腕を振るう機会にはあまり恵まれなかった。だが、王都内で凶悪犯罪が発生した場合などには、応援として駆けつけ、戦闘となることもあった。その経験から、自分が行ってきた訓練やいままで道場生に教えてきたことが間違ってなかったと、今では確信している。


 そんな折にバード殿下の教育役に抜擢され、今に至る。



 私のやり方でも、殿下が体を壊すようなことにはならないと考えていることも、加えて説明する。自分の非才さゆえに異なる流儀を押し付けてしまい、殿下の周辺に心配をかけたことを改めて理解する。これは恥ずべき事だろう。


 だが、自分の指導方法が間違っているとは思わない。だからこそ、包み隠さず話す。指導方法に問題があれば教育役を解任されるだろう。自分には王城の流儀にそって教える力量がない以上、仕方がないことだ。


 久方ぶりの弟子となった殿下は、将来有望な得難い資質を持っておられる方だけに残念だが。私の我儘で殿下の将来をつぶすわけにはいかない。


 その後もメディーナ殿と話し合い、一定の理解を得られたのだろう。朝のランニングについて尋ねられた。殿下には意図を伝えたが、その周りに伝えてなかったことに今更ながら気付く。道場ではないのだから、当然しておくべき根回しだったのだろう。以後注意することとする。


 体力不足を補うために勧めたことで、軽く走れば良いことを説明する。メディーナ殿は殿下の体のことを心配しておられるのだ、実例があった方が安心するだろうと思い、長時間ゆっくり走るやり方もあるということを説明する。


 その際、贅肉を落とす効果もあることを説明すると、強く興味を引いたようだ。いままで殿下第一に考えてたようだが、やはり女性なのだなと思う。残念ながら、私ではメディーナ殿の興味を満たすのは難しい。実家の位置を教え、詳しくは姉に聞いてもらうよう伝える。


 その後、冷めたお茶を召し上がった後、席を立たれた。


 メディーナ殿が退席された後、出したお茶を片づけをしつつ、先ほどの会話を思い起こす。


 彼女は話の中、口調こそ冷たい感じがする、貴種に仕える者の言葉だったが、その内容は、常に殿下のことを第一に考えていたように感じられた。


(殿下は得難い方を側付きとしておられるのだな)


 そんなことを、ふと、思った。



 そんなある日、殿下が、ふとこんなことを聞いてきた。


「鳥は、なぜ空を飛べるのでしょうか?」

「鳥は自分の体よりも大きな翼を羽ばたかせることができるから、空を飛ぶことができる」

「なぜ、体よりも大きな翼をもっているの? あそこで飛んでいる鳥ははばたいていないけどどうして?」


 私としては、至極普通に答えたつもりだった。が、私の答えでは殿下を納得させることは出来なかったようで、次から次へと矢継ぎ早に聞かれてしまった。出来るだけ答えたつもりだが、どう答えていいかわからないことは先延ばしにするしかなかった。


「次に会ったときに説明できるよう調べておく」

「じゃあ、一緒に調べよう」


 この日から、殿下の休日に「鳥はなぜ飛べるのか?」をテーマとした書庫通いが当たり前になっていった。一介の教育係が王族同伴とはいえ王城の書庫に出入りできてしまってよいのか?と思ったが、どうやってか殿下は許可をとってしまったらしい。区画こそ限定されたが、殿下と2人で書庫に入り浸っても、咎められることはなかった。私の記憶違いでなければ、王城書庫は厳しく管理されていたはずなのだが。


 後日、他の教育係に振れば良かったのでは、と気付いたが、後の祭りであった。



 どうやって書庫の入室許可をとったか、折を見て殿下に伺ってみたところ、メディーナ殿が許可を取ったことを聞いた。私はどうやって調べるかまで気が回らないだろうと予測した上での行動のようだ。


 側付き女中とは、王城書庫の入室許可を取ることまでできるものなのか? 立場上はただの女中のはずだが。


 結局、どのようにして入室許可を取ったのか、今もわかっていない。



 破片を集め終わり、訓練場の片隅にある廃棄場所に置く。あとは的を片付ければ、大体教練の時間といったところだ。今日の教練の計画を頭の中で反芻しつつ、的の片付けをするために、訓練場に戻るべく歩を進めた。


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