後世の図書館にて ~ 旅人と相棒の会話 1
2017.12.24 []を『』に修正、三点リーダーを修正。
本編ストーリーとは関係のない掛け合いです。
読み飛ばしても問題ありません。
「魔法王国パラノーマの歴史」「始まりの魔法」「近代魔法概論」…… 本棚に整然と並べられた本のタイトルを目で追いつつ、より良い本を探し、時には立ち止まり、時には通りすぎ、これはと思う本は手に取り試し読みをする一人の男の姿があった。
彼は、アルバイトのような簡単な仕事で路銀を稼ぎつつ、世界各地に気の向くままに足を向ける旅人だ。名をジャーニィという。すでにこの地での職を決め、いまは余暇を利用して、最近できた風変りな相棒の頼みを聞いて図書館で本を探しているところだ。
◇
ここビオス・フィアは研究都市として名高い。ビオス・フィア中央研究所では常に最先端の研究がなされ、ここで生み出された技術は常に最先端技術として世界をけん引し、時に世の在り方を変えてきた。
だが、研究都市ビオス・フィアは研究のみの都市ではない。過去においては交易都市国家とよばれ、どの国家にも属さない独自の道を歩み続けた歴史がある。
ゆえに、世界中の文化を取り入れつつ影響を与え、「一都市でありながら世界を見れる」などをうたい文句に、商業都市として、また観光都市としても世界有数の地位を誇っている。
何者にも媚びず、屈せず、属さない。独立不羈の歴史こそがこの街の特色であり、強みであり、魅力である。それらがこの都市に住む人々の心を育て、ひいては都市の性格を創りあげるにいたった。
◇
ビオス・フィア市民図書館は規模の大きいことで有名だ。都市の性質上、研究者向けの機械学や魔法学、それらを組み合わせた魔動機械学の文献が豊富だが、一般向けの書籍も十分に多い。
ジャーニィは、ビオス・フィア史の棚の前で小一時間ほど探したのち、一冊の本を手にし、声をあげる。
「この本でどうだ?」
『うーん、とりあえず読んでみよっか』
周りに誰もいないことを確認した後、誰にともなく語りかけると、腰に差した剣が彼の頭の中に直接語りかけるような感じで返事をする。まだこの感覚には慣れないな、とおもいつつ、はたから見ると独り言としかおもえない「会話」を続ける。
「で、どう読めばいいんだ?」
『うん?』
「いや、図書館で、剣に見えるように本を読むのはダメだろう」
『あー』
「声に出して読むのは遠慮したいのだが」
『あー、いや、普通に黙読してくれればいいよ。あなたの思考から文章を読みとるから』
「え?」
『うん。実は人の思考とか読めるんだ~、私』
「えぇ?」
『ただ、できるだけほか事とか考えないように読んでほしいかな。本と思考がまざると追っかけるのが大変だから。あと、本に集中してくれれば他のことは読めないから安心してくれていいよ』
「……初耳なんだが?」
『そうね~。言わなかったからね~』
「……なぜ?」
『聞かれなかったから、かな?』
さらっと衝撃的なことを言われたが、だとすると、今まで話しかけるときに周りを気にしていたのだが、そもそも……
「声を出して話かける必要はなかった、と」
『周りを気にしてきょろきょろして、見てて面白かったよ!』
「……どっかに捨ててくるか」
『きゃ~。ごめんなさい~。もうしないから~』
途中からからかいまじりの相棒の「声」に一つ溜息をつくと、読書スペースに足を向けた。
「これからは話かける場合は、声に出さなくても伝えたいことを考えればいいか?」
『うーん。それでもいいけど。できれば、声にだしてほしいかな?』
「……なぜ?」
予想外の返事に思わず理由を聞く。その返事も思いがけず長い物だった。
『ひとつ、常に思考を読むのは嫌だから。ひとつ、話す内容と考え事がまじってやりずらいから。他にも、思考を読むほうが疲れるから、とかあるけど。
思考を読むってすごい便利そうだけど、実際あっていいことなんかなんにもないよ。嘘つかれない、とか思うかもしれないけど、そんなことは人を見る目に自信がないだけ。隠しごとをされない、とかも一緒。隠しごとをされるのを不安がるのは弱いだけ。尊敬できるような人になれれば必要ないよ、こんな力。
なのに、思考を読めるってことがばれると周りから人がいなくなる。でも、隠し事をしながら過ごすってのは結構しんどいんだよ。ほんとは隠し事なんかしないで正直に生きたかったんだよ。
今は人付き合いとかないから関係ないかもしれないけど、できれば思考は読みたくない、かな。
思考を読めることの答えが、話かける場合に声に出さなくていいかという変な人はなかなかいないんだよ。そんな人に、周りから見たら独り言にしかみえないことをお願いして、さらに変な人にしてしまうのは申し訳ないかな、とは思うけど、どうかな?』
そうやって長々と、えらい真面目な話を始めたと思ったら、最後は雰囲気を変えないまま俺を変人扱いしてきたと。
まあ、あれだ。たぶん、俺は少し考えなしなことを言ったのだろう。それでも、できるだけ自分の想いを伝えた上で、重く受け取りすぎないよう、冗談で話を終えてくれたのだろうと思う。できるだけ俺の思考を覗き見するつもりはないからこそ、今このような話をしたのだろう。そうは思うのだが……
「思考を読まれるのってそんなに嫌なことか?」
『間違いなく嫌だよ!、変人さんだよ!!』
しゃべりかけてくる剣なんて変な存在に、そこまで言われることだろうか?
◇
読書スペースについた俺は、椅子に腰かけ、手にした本を机に置き、表紙をめくる。そして、相棒が読みやすいよう少しだけゆっくりと、その本を読み始める。
「少年王バード【ビオス・フィア建国王物語】」と題した本を。