デデコさんです
戻ると、アーガインさん達が出迎えてくれた。
口には出さないけど、みんなの目が期待に満ちてるのが分かってすごいプレッシャー。
期待されても期待に沿えるのかすら不明なのに。
シン君がトーキンマッシュを見せると益々期待値が上がったのが分かった。
期待されてもトーキンマッシュは私には調理出来そうにもないけど。
「それでは由樹殿、料理の方、よろしくお願い致します。」
「待ってください!これがまだ食べられるのかすら分からないんですから、期待されても困ります。」
「由樹殿ならば必ずや我々の腹を満たしてくれると信じております!」
アーガインさんが力強い声でそう言うと、みんなもうんうんと頷いてた。
みんながいなくなったキッチンで私は途方にくれていた。
採ってきたのはいいものの、調理方法が本当に分からない。
みんなも「知らない」と言いつつも、少し位は調理知識があるんじゃないかと淡い期待をしてたのに、本当に全く知らないらしく何のアドバイスももらえなかった。
ただ、昔いた料理人が使っていた調味料が『保存ホール』に揃っていた事だけは良かったと思う。
ちなみに保存ホールとは、魔法で作られた特別な空間で、どんなものでもその時のままの状態で保存しておける所らしい。
だったら食材もあるんじゃないかと思ったんだけど、そうもうまくは出来ていないようで、保存ホールはそれほど大きくは作れないんだとか。
だから調味料だけでいっぱいいっぱいだった。
とりあえず調味料を確認。
私の知ってる物は無さそうなのだけは分かる。
まず、ドロリとした紫の液体の匂いを嗅いでみた。
鼻を突くようなツーンとした匂いはお酢そのもの。
怖かったけど少し舐めてみたら、やっぱりお酢っぽい。
次に、小さい壺に入ったピンクの粉の匂いチェック。
無臭だった。
舐めてみたら辛かった。
胡椒っぽい辛さだから、胡椒だと言うことにしておこう。
次は細長い豆の様な容器の粉。
粉の色は薄茶色で、匂いはキノコっぽい。
味は砂糖の数倍は甘くて、後味が蜂蜜に似てた。
次に手にした容器を見て、思わず悲鳴を上げてしまった。
何かの目玉みたいだから。
しかもそれが時折ギョロリと動くから、気持ち悪いことこの上ない。
しかもそれには開封口らしき場所がどこにも見当たらない。
触りたくもないし、まじまじと見ていたくもなくて、どうしようかと考えあぐねていると、後方から声がした。
「それは『目玉出汁』だねー。」
振り返ると、さっきまで気絶してたはずのトーキンマッシュが、起き上がってこちらを見ていた。
「ヒィッ!」
心臓が飛び出そうな位驚いた。
「ヒャッヒャッヒャッヒャッ。驚いてるねー。面白いねー、ムッスメ。」
トーキンマッシュは大きく口を開けて豪快に編な笑い声を上げている。
それにしても見れば見るほど生首にしか見えない。
髪の毛っぽいのもちゃんと生えてるし、開いた口から歯も見える。
これで食べ物だとは到底思えない。
「ヒットンのムッスメ、ナッマエは何だね?」
「ゆ、由樹です。」
「ユッユキかねー、変なナッマエだねー。」
「由樹です、由樹。」
「おぉ、ユッキかね。やっぱり変なナッマエだねー。ヒャッヒャッヒャッヒャッ」
何が可笑しいんだかツボが分からない。
「ワッタシはデッデコだねー。ユッキはワッタシを食べるのかねー?」
「デッデコさん、ですか…」
「違うねー。デッデコだねー。アッンタバッカだねー。コットバも分からないんだねー。ヒットンはミッンナそうなのかねー。」
さっきからやたらと名詞に小さい『っ』が多い。
てことはもしかしてデデコ?
「デデコさん、ですか?」
「そうだねー、さっきからそう言ってるねー。やっと理解したねー、ヒットンのムッスメ。」
嬉しそうに目を細めてる様はやっぱり人間のおばさんそのものだ。
気味が悪いとしか言いようがない。
「目玉出汁も知らないとはねー。ムッスメ、本当にヒットンかねー?ワッタシ達を採りに来るヒットンは知ってて当然なんだがねー。」
「ここに来たばかりで何にも知らないんです…アハハ…」
「ここに来たばかり?変なこと言うねー。ここ以外どこがあるねー?可笑しいムッスメだねー。」
…世界の規模が小さ過ぎじゃない?
あ、マッシュ=キノコだから仕方ないか。
「どれ、ワッタシが教えてやるかねー。ムッスメ、ワッタシ達を食べるんだね?」
「え?教えてくれる?」
「ムッスメ頼りないからねー。ワッタシが役に立てばワッタシだけは食べないでくれるかもしれないしねー。」
そのしたたかさはやっぱりおばさんそのものだ。
と、言うわけで、デデコさんに料理を教わることになりました。