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食材探しへ…

「どうぞこちらでくつろぎください。」


通された部屋は、ここに来るまでに見てきたどの部屋よりも豪華で綺麗な部屋。


「あの、聞くのを忘れてたんですけど、ここはメインの世界のどの辺りなんですか?」


部屋まで案内してくれた『ニルス・バドル』さんが、部屋にあった地図を指して説明してくれた。


メインの世界は5つの大陸で成り立っていて、『赤の王国』、『青の王国』、『白の王国』、『緑の王国』、『黒の王国』と呼ばれているらしい。


赤の王国は火山が多く、大陸全体が一年中暑いらしい。


青の王国は水資源が豊富で、四季が存在しているそうだ。


白の王国は一年中雪が降りしきる極寒地帯で、地下に都市を作り生活しているのだそうだ。


緑の王国は資源の豊富な国で、メインでは一番豊かな国らしい。


黒の王国は年中暗雲に覆われた薄暗い国で、魔法の研究が盛んなのだそうだ。


私が召喚されたのは青の王国。


しかも、かなり端の方にある田舎の『チャージポイント』という、関所と宿場町を足したような場所らしい。


常駐している兵士は30名。


指揮官がアーガインさんなのだとか。


「由樹殿は我々にとっては勿論、この世界にとって大変重要なお方。何か不備がありましたら遠慮なくお申し付け下さい。」


そういうとニルスさんは深々と頭を下げ部屋を出ていった。




部屋に通されてから、私は鞄の中身をとりあえずの出してみた。


食べるものがないこの状況。


少しでも食料は確保しといた方がいい。


悲しいかな、私は鞄をあんまり整理しない。


でも、今はそんな自分を誉めてあげたい。


鞄の中から飴が5個にガムが1パック、栄養バーが1袋にクラッカーの小袋、さきいかの小袋まで出てきた。


そして、携帯用マヨネーズに、お弁当に入ってた醤油の小瓶、コンビニでもらったケチャップまで入ってた。


スマホを見てみたけど完全圏外。


あー、イベント終わっちゃう…


最近友達に勧められて始めた恋愛ゲームアプリ。


そのイベントが私の楽しみだった。


せっかくお気に入りキャラがもうすぐで手に入りそうだったのになー。


そんなことを考えてたら、部屋のドアを誰かがノックした。


「由樹殿、失礼します。」


入ってきたのはバリーさんだった。


「由樹殿、この服に着替えてください。」


渡されたのはカーキ色のかなり動きやすそうな服。


ただし、全くかわいくない。


マントの付いた上着に、サルエルパンツみたいなズボン。


「これにですか?今の服じゃ駄目なんでしょうか?」


「その服では外を歩くのに支障があるかと」


「外?」


「はい!由樹殿にはこれから食材を探しに行っていただくことになりましたので」


「はい?」


「あれほどまでに美味な料理をご存知なのですから、見知らぬ土地に来たとは言えど、必ずや素晴らしい料理を作ってくださるに違いないと満場一致の意見です。」


「ちょ、ちょっと待ってください」


「これは決定事項ですので、何卒ご了承ください。」


決定事項って、もはや強制だよね。


憂鬱な気分のまま、渡された服に着替えた。





「由樹殿はおいくつなのですか?」


森歩きの護衛役として私についてきた『シン・フェアロー』君が、さっきからずっと質問を続けてる。


シン君は私よりも20cmくらい小さい。


見た目はまるで小学生なんだけど、それで19才だと言うから驚きだ。


森はあまり強いモンスターは出ないそうなんだけど、シン君じゃ頼りなく思うのは気のせい?


茶褐色の肌に幼い顔立ち。


だけど手足は妙にガッシリしてる。


見てると、私が通りやすいようになのか、軽々と倒木を持ち上げては遠くに投げ捨てている。


アーガインさん達とは違ってすごくお喋りで、何にでもキラキラした目で興味を示してくる。


「シン君、その由樹殿ってやめてくれないかな?」


「何でです?」


「言われたことないから、何か違和感があって。」


「そうですか?俺なら嬉しいけどなー。何か偉くなったような気がしませんか?」


「私、偉くも何ともないから。」


「そんなー、謙遜しちゃって!でも、嫌なら呼び方変えますよ。あ、でも、指揮官達の前では由樹殿と呼びますけどね。怒られちゃいますから、俺。」


真っ白い歯を見せてニカッと笑った。


「ありがとう。じゃあ、由樹でいいよ。」


「呼び捨てですか?うーん…じゃあ俺のこともシンって呼んでください。」


「うん、分かった。あとね、敬語もやめてくれないかな?何か堅苦しくて苦手なんだ。」


「敬語も駄目?うん、分かった!俺もさ、敬語得意じゃないんだ。」


順応性も早いようだ。


明るい性格でよかったなーと思ってたら、シン君が大きな声を出した。


「由樹!良いもの発見だ!」


跳び跳ねるように駆け出してたどり着いた先には、全く見たこともない植物らしきものが。


鮮やかなオレンジ色のカボチャ位の大きさの、でも形がカボチャとは違ってトゲトゲした実みたいな物で、それが突き刺さってるように木の根元にあった。


「食べられるの?」


シン君に訊ねると、シン君は不思議そうに私を見た。


「食べれるかなんてわかんないけど?」


「え?じゃあこの実は?」


「これ、すっごい珍しいんだぜ!暗闇の実!この実の粉を浴びるとさ、一時的に目の前が真っ暗闇になるんだ。すっごいだろ?」


食べ物じゃないなら意味ないような…。


シン君は腰に下げてる袋にその実を嬉しそうに突っ込んだ。


「さ、行くか」


そしてまた歩き出した。


「ところでさ、由樹は食べ物か食べ物じゃないか分かってんだよな?」


「…知ってたら苦労しないんだけど」


「えー!知らないで森に来てんのか、俺達?じゃあ、どうすんだよ!」


「とりあえず食べられそうな物を手当たり次第持って帰るしかない、かな?」


「そんなんで大丈夫かよー?」


「毒とか入ってる物があったらアウト的な?」


「あ、俺、毒なら詳しいぜ!槍の先に付ける毒は俺が調合してるからさー。んじゃ、毒のない物で、由樹が気になった物を持って帰ればいいんだな?」


「そう言うことになるかな」


「了解だぜ!」





しばらく森の中をさまよっていたら、キノコみたいなのが沢山群生してる場所を見付けた。


「キノコ、だよね?」


「キノコ?何だそれ?あれはマッシュだぜ。」


そっか、こっちの世界ではキノコは全部マッシュなんだ。


でもやっぱり私が見たことのあるキノコは1つもない。


瓢箪みたいな形をしてたり、常にモゾモゾと動いていたり、カサカサと音を立てていたり、色がおかしかったり変わったり。


「ここに毒のあるマッシュはある?」


「うーん、あれとあれだな。」


シン君が指差したマッシュは、私的にはかなりまともな色の物ばかりだった。


「茶色のマッシュは基本的に猛毒だぜ。あと、小さくてプルプルしたのは神経毒持ってるのが多いんだ。」


「へー、そうなんだー。じゃあ、これは大丈夫かな?」


近くにあった赤に黒い斑模様の入った、帽子みたいな形のマッシュを指差したら、シン君が私の手を払いのけた。


「あぶねーぞ!」


見るとマッシュの形が変わり、蛇みたいになって、私の指があった辺りで先端が二つに別れた。


それが虎鋏みたいになり、ガチャンと音を立てて閉じた。


「そいつは『スネーキンマッシュ』だぜ。噛みつかれたら指がなくなっちまうよ。気を付けろよ。」


「…気を付ける」


怖い、怖すぎたよこの世界。


「噛みついたりするのは事前に教えてもらえれば助かるんだけど…」


「あー、悪い!次からはちゃんと教える。」


シン君、頼むよー。


危険なマッシュは全部避けて、触れても無くならない物を手当たり次第袋に詰めた。


触ると煙みたいになって消えてなくなる物や、水状になって手からすり抜けていって、地面に落ちるとまた元の形に戻る物、砂みたいにサラサラになっていく物があって、何度驚いた事か。


それでもマッシュを採りまくり、シン君の腰の袋がはち切れんばかりに膨らんだので砦に戻ろうと思ったら、頭上から何やら話し声が聞こえてきた。


甲高い女の人みたいな声。


でも見上げても誰もいない。


「あれま、ヒットンがこっちーを見たねー。ヤダねー、怖いねー。アッタシを狙っているんだねー。」


「ねえ、シン君?木の上に誰かいるみたいなんだけど。」


「え?木の上?…うーん…お!トーキンマッシュじゃないか?由樹、ツイてるな!あれは食べられるらしいぞ!チョッと待ってろ!今採って来るから。」


そう言うとあっという間に木に登っていった。


10m以上はありそうな木。


落ちたら怪我じゃ済まないと思う。


「あれま、ヒットンが来たね!ヤダねー、触るなよねー!痛、痛いね!やめろねー!!!!」


絶叫に近い声が消えたら、シン君が木から下りてきた。


手には小さいけど、マネキンの首みたいなのが握られてる。


「由樹、受け取れ!」


そしてそれを上から落としてきた。


何とかキャッチしたものの、受け止めた物を見て思わずキャーっと叫んでいた。


私の顔の半分以下だけど、小さなおばさんの生首みたいだったから。


「眠らせたから落として起こすなよ!」


そう言われたから何とか落とさないようにしたけど、正直気持ち悪いし、こんなの食べたくもない!


トーキンマッシュはシン君に持ってもらうことにして、私達はようやく砦に戻った。


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