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〜お爺さんと昼ご飯〜

確か英語で魔法使いの事は【ウィッチ(witch)】は女性の魔法使い、

男性の魔法使いは【ウィザード(wizard)】と言うらしいが、

こちらの世界では、【ウィッチ】が男女どちらの魔法使いも指す言葉のようだ。

それにケガや病気を治す薬、薬草の知識を持つ者、空を見て天候を予知する者、空気の流れや動物を使って自然災害を読み取る者達の事もウィッチ…魔術師やら魔法使いとかで扱われるそうだ。

現代では、それらは医学・薬学、気象学として誰も魔法だとは考えないが科学が未発達の世界では一般では理解できない知識や技術は魔法だったのかもしれないな〜。

「ちぃ!俺の仕事に、こんな弱そうな男よこすたぁギルドは何考えやがんだ!」

「す、すいません。」

この世界のうんちくを、自分は正座をしながら聞いていた。






――――


「あぎゃあ!」

と自分が叫び、爺さんの罵声の後。

爺さんが痛みで頭を抱えている自分を家の中に入れてタンコブを何度も触りながら手当てをしてくれる。


「なんでうちの前に居たのか」と聞かれ、

「ギルドの仕事できた」と言ったら、

やれ「ウィッチはうんたらかんたら」だとか、

「おまえには無理だ」、「バカモンが!」「ギルドは〜」なんかと説教されました。

それで、また謝っている限りでございます。


「というか、おめぇちゃんと仕事の内容わかって来てんのか?」

「は、はい。ポーションの精製ですよね…」

「違うわ!バカタレ!」ガンッ

タンコブに追加ダメージ!

「いったー!?」

「ポーションの精製の材料の採集のための手伝い兼護衛じゃ!ボケェ!」

えー!?ウソ!?

安全な仕事……って自分!

『あんまり人と関わらないで作業できる環境』しか言ってなかった!


「ちぃ!わかったら帰りやがれ!」

と言われ、襟元を掴まれ追い出されドアを閉めてしまう。


ちょ!?これはまずい!

「す、すいません!じ、自分!お、お金がほ、欲しいというか…ポーションを作って恩返しがしたくて……だ、から。こ、ここで働いかせてください!」

また喋り方が。しどろもどろになってしまった。

「……。」


返事はなかった。






――――

太陽が真上に来てジリジリと暑い。フードがなかったら即死だったかもしれん。

自分は結局ドアの近くに座ってどうしようか、と何もできずにいた。



ぐぅ〜。



腹減った。地面に座っていて尻が痛い。

ご飯……どうしよう。宿も結局行けなかったし、仕事も無い。

どうしようかな……ああ、情けなくて泣けてくる。

別の仕事を探す?でもこれぐらいしか無いとか言ってたし…



バンッ



「おわっ!?」

ドアが勢いよく開く。

「おめぇ……まだ居たんか…」

爺さんがこちらを睨む。

やばい…半日家の前に座りおこんでいれば迷惑だろう。

「す、すいません。すぐに退きまs…」

後ろを振り向き走ろうとする。


ガシッと肩を掴まれる。


「……ちょうどいい。昼飯作り過ぎちまったから食ってけや。」

「うぇ?」




――――




小さな鍋にたっぷりと盛られた野菜の温かいスープはホワホワと湯気の出ている。

2つずつのパンがあり、水の入った木のコップがある。お爺さんが皿にスープを盛り付けテーブルの上に並ぶ。

煮込んだ野菜の匂い、パンの香りがなんとも胃袋を揺する。なんだか食欲が燃えるように湧いてくる。

「それじゃ、食べるとするかの。おめぇも冷めないうちに食いやがれ。」

そう言ってお爺さんが食べ始める。あ、じゃぁ…手を合わせて

「いただきます。」


パンは焼き立てなのだろう。バターをのせるとゆっくりと溶け出し、パンとバターとそこに熱が加わって、絶妙なハーモニーが醸し出される。

口に含んだパンは外側はパリッと音がなり、中は柔らかく、バターはシャーベットのようにさらりと溶ける。

スープは野菜と少しの肉が入っており、(ひと)さじのスープを口に滑り込ませると塩の味が口の中に広がる。野菜の旨みが肉の獣臭さをすっかり消しつつ柔らかな優しい味を生み出している。

空腹のスパイスが合わさってのうまさは、また格別だった。

「うまいっ!」

テーテッテテーと後ろから効果音が鳴りそうだ。

しかし、不審者のような自分になぜご飯を食べさせてくれるのかと頭をよぎったが、

今は、食べるほうが忙しくて、後のことは考えるひまがない。

うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ!



……



「ごちそうさまでした!」

美味しかった……そんな言葉が口から出てしまうくらい満たされている。

昨日はなんにも食べなかったからいつもより余計に美味しくかった。


「………。」

お爺さんは時折こちらをチラリとパンをスープにつけながらゆっくり食べている。


このお爺さんちょっと目が悪いようだ。

杖を持って周囲を確認したり、時々物に足をぶつけたりしている。

今も手探りでコップを探している。

手伝いは……しない方がいいかな。お爺さんの性格から手伝ったりすると逆に怒られそう……


カタッ


「…おっと」

お爺さんの木のコップが傾き溢れそうになるのを咄嗟に受け止める。

自分でなきゃ見逃しちゃうね。


「…余計なお世話だ!」

やっぱり怒られた。


というよりこんなに目が悪くてポーションとかできるのか?

私生活だけでも結構きつそうなんだけど。

あ、食べ終わったみたいだし、ちょっと聞いてみよう。


「お爺さん、ご飯美味しかったです。ありがとうございました。」

「へん!当たり前だ!それよりおめぇ、どこの国の(もん)だ?」

「え?えっと…日本って所です。よく他の国来たってわかりましたね。」

「はん!ここら辺じゃあ飯を食う前に、神に祈るのが【ディユディ教】、食い終わった時に感謝の言葉を言うのが【ベスティア教】だからな。食う前にも食った後にも言う奴は初めて見たわい。」

「へぇ…お爺さんは信仰している神様はいないのですか?」

「……んなもん、いねぇってわかってるからな。」

「ふうん…。自分もちょっと聞きたいんですけど、お爺さんは目が悪いみたいですけどポーションの精製は大丈夫なんですか?それとも他にポーションを作ってくれる人とかいるんですか?」

「ああん!?おめぇこの俺様をばかにしてんのか!?」

あ、やばい。地雷踏んだ?

「あ、いや……すい…」

「いーだろう!ついてきやがれ!」


お爺さんは立ち上がり、杖に籠を持って襟元を掴みヅルヅルと自分を引きずりながら歩き出した。




母猫に首根っこをくわえられて運ばれる子猫ってこんな気分なのかなぁ。

とか、いやライオンに運ばれている気分ってこんなんじゃない?

そんなことを考えながらまた自分は砦の外に向かった。




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