〜夜の街〜
夜間に営業しているスナックやバー、キャバクラなど、酒類の提供を主とする飲食店や、場所によってはエッチなお店なども集まる夜の街を言い表しますよね。
夜の街と聞くとなんと言うか……ドキドキするのは自分だけだろうか。
――――
職務質問が終わり、街の中に入ると周囲が暗くなっていた。
建物の灯りと月の明るさで転ぶ心配はなさそうだ。
酒場なのだろうか、ワイワイと大勢がうるさく騒ぎ立てる音が聞こえてくる。
ちょっと興味があるが絡まれたりしたら怖いので早足で宿に向かう。
「えっと……こっちかな?」
紙に書かれた地図を明るい建物の近くで見ながら宿の方向に向かっていると
甘い香りのする建物の前に息を呑んで立ち止まる。
ここはまさか……
えろいお店じゃないか!
耳を澄ませばなんか色っぽい声がする…
耳に手を当てて建物に近づいてみる。
ちょっとだけ!さきちょだけだから!
自分はこの行動した事に激しく後悔する事になった。
「あら、ぼくどうしたの?ここで働きたいのかしら♥」
背中がゾクゾクするようなオネエ声に後ろから聞こえ、振り向く。
そこには化け物がいた。
その人は大きかった。背丈という意味でも、横にも大きかった。
そしてヒラヒラとした女物の服、奇抜なメイク。
なんというか…恐ろしかった。夜中に青い鬼を間近で見た気分だ。
あまりの衝撃と怖さで足が震えて動けなくなる。
「あ……あ…あ。」
持っていた紙を手から離してしまう。
その紙をその人が拾いこちらに微笑む。
「あら♥ここに行きたいの?お兄さんが連れてって・あ・げ・る♥」
「い、いえ!ま、間に合っております!で、では!」
脱兎の勢いで駆け抜けその場から去った。
どうする?ここら辺よく見たらさっきの人みたいな人がいっぱいいる!?
え?まさか宿って【愛を語らう】的なホテルなの!?それはやばい。
ここにいたらまずい。どうする?さっきの砦に戻るか?
…いやもう迷惑をかけたくない。
そして走り続け、紙に書いてあった【ギルド】にたどり着いた。
しかし、残念!ギルドは閉まっていた。
でも、朝には開くらしいからそれまで待っていよう。
ギルドのドアの前に座って休む事にした。
今日一日は本当に長く感じた。
変なうさぎに追っ掛けられて、
綺麗な人に助けられて、
職務質問されここでも助けられて、
異世界にきて初めてのお店が【オカマバー】……泣けてくる。
……でもあの怖い人も親切で声をかけてくれたのかなぁ。
そう思うと自分のコミュ症を治さないとだ。
明日はギルドで仕事探しか……。
自分にできる仕事ってあるのかなぁ。
走って出た汗が冷えてきたので、マントを被り、身を丸くする。
本当に今日は疲れた。
ハーフムーン……サーベルさんになんて言ってお礼を言えばいいのだろうか。
誰も頼る事が出来ない世界でどうしたらいいのか。
帰って家でゴロゴロしたい。ゲームしたい。お菓子食べたい。
……家に帰れるのかなぁ。
少し目頭が熱くなる。
でも家に帰る前に恩返しがしたいなぁ…。
温かくやわらかい泥の中にずぶずぶと入っていくような感覚に襲われて眠りに落ちた。