ハーフエルフの冒険者
--- とある冒険者の視点 ---
冒険者とはモンスター討伐、薬の材料の採取、要人の警護などの依頼をこなし飯を食う者のことだ。
冒険者の世界は単純だ。力を持つ者が上に上がれる。
力を鍛え、知恵を絞り、仲間と協力し、強大な敵を倒す。
だから冒険者は『チーム』を組む。
同じ故郷の者同士であったり、同じ志を持つ者が組んだりする。
……しかし私のような醜い者にはそのような相手はいなかった。
弱くても顔が良ければ馴染めたりするのだが、私のような者ではチームにいても空気を悪くするだけであった。
強くなっても私の財産……金目当ての男しか寄ってこない。
だから強くなった。どんな奴よりも誰かに頼る事がないように強くなった。
どこの誰よりもどんな敵よりも強く、強く。
どうせ死んだって悲しむ者はいない。だから無茶な事をした。毎日のようにモンスターを狩って、狩って、狩り続けた。
でも死ななかった、死ねなかった。そしてモンスターを狩り続ける私に異名がついた。
【半月の片刃の刀】と。
そんな私がここを通ったのはモンスターの討伐依頼為であった。
ここら辺のモンスター依頼で危険度の高い依頼の【ブラットベアー】の討伐をこなす為
熊の居そうな森に向かおうとしていた。
ぎゃあ……あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ………
静かな草原のせいか、私の聴覚の良さのせいか目に見えない位置から誰かの叫び声が聞こえる。
私は高い木を見つけ素早く飛び木の天辺に登る。
双眼鏡を覗き声のした方へ向ける。
見えた先にはブラックホーンラビットに襲われている男がいた。
あのうさぎは冒険者の中でその名のお通り初心者殺しである。
小さい身体で弱そうであるが、魔力のツノで突かれれば、ツノの効力で恐怖状態になり数で押されて殺されるのだ。
しかし、私には関係のない事だ。たとえ救ったとしても、いつものごとく気持ちわるがられるか、また救われた事を理由に近づきカモにされるだけだ。
ブラックホーンラビットは狩りを楽しむかのようにワザと急所を外している。
全身の至る所さされる。
……弱いく癖にこんな街から離れている所に来るのが悪いのだ。
――――
『いやだ!,;:.;:,す,.,.i;,l;て!』
『まって!お あ,.i;,lん!置い,.,.i;,.,.i;,lで!』
『,.,.i; よ。私を,.,.i;,l,.,;,ないで!』
――――
だ…………か……たすけて……
気づけばうさぎの群れに向かって飛び、降下していた。
男を囲んでいたうさぎをサーベルで斬りつける。
一瞬に数十のうさぎを骸にかえる。
(たわいもない。)
少し残念。
しかし、他と違う魔力を感じ、その方向をみる。
(デカイ。)
おそらくこの群れのボスだろう。少しは手ごたえのありそうな獲物に期待する。
「くひぃ!?」
? 変なうさぎの鳴き声がしたな。
「あ、あの…」
男が話しかけてくるが、今あのボスうさぎから目を離したらこっちがやられる。
「……どいてて。」
そう一言言ってボスうさぎに向きサーベルを構える。
うさぎは地面が陥没するほどの脚力でこちらに突進してきた。
なんだ、突進しかできないのか。
そこまで警戒しなくても良かったか。
そう落胆しサーベルを4回振るう。
8等分にしたうさぎが ドサリ と転がった。
死屍累々。一匹も動いているうさぎはいなかった。
どさっ
男の居た方向から音がしたのでそちらを向く。
この時、初めて男の顔を見た。
肌の色艶は美しく、見ずには居られないといった顔で、頬は大きく膨らんでおり、眉毛が一際濃い顔の様子はどこかの王宮貴族のような気品さがある。
身体が大きく手足が可愛らしい。妖精と出会ったのではないかと思うほどであった。
?…それほど激しく動いていないのに胸が高鳴っている。
……ってこのまま放置していれば死んでしまう。
胸のポケットからポーションを出す。
しかし…いいのだろうか、この入れ物は基本使い回しで私も使っているから間接的に……
……あの………その………くちづけしてしまうのではないか。
いやいやいや、これは医療行為だ。
私は勢いよくポーションを流し込む。
「うぼぇ!まっず!」
そう言って男はポーションを吐き出してしまった。
私の顔に向かって。
……私は何を焦っていたのだろう。
少し冷静になれ、ポーションを飲んで身体の傷は治ってる。少し顔色が悪いのは気になるが大丈夫だろう。
ここにいては血のせいで他のモンスターが寄ってくるかもしれない。
そうなれば彼を守りきることができないかもしれない。
ならばここから移動し安全な場所に移動した方がいいだろう。
そうと決まれば行動に移さなければ、
「あ……す、すいませ……」
「死にたくなかったら移動するよ。」
「は…い。」
――――
こいつは一体何者だろう?
言葉が不自由であったり、ポーションを知らなかったり、おかしな紙切れを渡してきたり、……本当にこいつは妖精なのかもしれない。
ポーションは普通の人間では高い物だから知らないのもしょうがないかもしれないか。
通貨を見せても本当にわからないような顔をしていた。
それに……こいつ……男のくせに服に穴が空いているのを気にもしない。
さすがに目のやり場に困ってしまう。
マントを着たこいつはとても可愛らしい姿であって直視出来なかったので早足で歩いた。
――――
私が今住んでいる【ラオレオネ】の砦近くまでついたのでここら辺なら安全だろう。
こいつは変な奴で謝ってばかりだったが、いやな感じがしなかったな。
いつもなら私の近くにいる者共はいやな雰囲気を感じる。まぁ当たり前か、こんな顔なのだからな。
踵を返して本来の目的であるモンスター討伐の依頼に向かう。
すると後ろから、
「あ、あの!お、お名前を、おおお伺いし、してもよろしいでしょうかかか?」
「………。」
名前を聞かれたのはギルド依頼である。
私は振り向き少し考えたように上を見上げると
「【半月の片刃の刀】…。」
私の異名を名乗りまた来た道を歩き始めた。
真の名など教えぬ方がいいだろう。
もう人間など……いや……自分以外の者など信頼などしない方がいいだろう。
裏切られた時のナイフで貫かれる以上の苦しさはもう味わいたくないから