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〜あやしい占い師〜



「……そこの坊ちゃん、そこの坊ちゃん。」

「?」

自分に声をかけられたのかと思い、辺りを見渡す。

「……こっちですよ、こっち。」

昼の市場ざわめきであれば埋もれてしまうような、か細いような声でまたも話しかけられた。

しかし決して遠くない所から声が聞こえる。

たまたま左の方を見ると自分に向かって手招きをしている人が。

目元や頭を黒系統のベールで覆い、同じ黒系統のだぼだぼしているローブを羽織っている。

肩幅くらいの小さな机に膝をつき、小さな椅子に座っている。

その机の上には水晶を置いてあり、そのベールからチラリと顔が見えたと思ったら、へんてこなお面をつけていた。


ま、全く気がつかなかった。

こんなあやしいローブをきているし、普段なら気がつくと思うんだけどなぁ。

あれ?でもどこかで見たような仮面だ。どこだっけ?

いまの流行りのファッションなのか?


「私はここで占いをさせていただいている者でございます。」

声からして男の声なのだが……、その男の声から年齢や風貌や体格を推し量るのはむずかしかった。具体的な手がかりを欠いた声なのだ。会話が終わった途端にどんな声だったか思い出せなくなってしまいそうだ。

「う、占いで、ですか?」

この手の占いは初めてだな。いつもは朝早くからやってるテレビの占いぐらいなんだよな。

……でも怪しすぎるだろ…この格好。いかにも騙しますって感じだよ?

「はい。魔力を見させていただいて、どんな魔力なのか、どのような道を辿るのか。その時にどんな困難があるのか、どうすればいいのか……そのような事を(わたくし)めが助言をさせていただいています。」

「ヘぇ〜魔力をですか。」

魔力って見れるものなんだ。魔力の事は気になるからやってみたいけど…


…いやいや。でもこの格好の人に関わるのはまずいと思うんですよ。

自分のニートセンサーが『やばい』って言ってるもん。

詐欺師でしょ?詐欺師なんでしょ?

占い師にふんして詐欺をするなんて良くある手だって聞いた事があるもん。しかもこんなうんくさいマスクさんだぜ?

「まぁ、当たるも八卦当たらぬも八卦でございます、いかがでしょう?お代は占った後にご納得いただければ、頂くというのはどうでしょう?」

そう言ってマスクさんは食い下がった。

む。疑ってたのが顔に出ていたのかな?なんか断るのは悪い気がするんだよなぁ。

それにどんな占いか気になるし。

「じゃ、じゃぁ少しだけ。」

「では、占わせていただきます。」

そう言って、マスクの目の部分が自分をジロジロと見始めた。

あ、この人よく見たらオッドアイ……?


……!?


「……。」

ポロポロと涙を流している。

「あの、ど、どうしました?」

「……すいません。大切な人に似ていたものですから。思い出してしまい。」


な、なんだろうか。なんというか。涙を流しているところ悪いのだが……

うんくさい。とてもうんくさいよ。

だってもうこれテレビで見た事あるもん!

『大切な人に〜』とか、『もうこの世にいない旦那に〜』とか言ってそれで『私の遺産を〜』とちらっとお金を匂わせて騙す手口だよ!

お昼の番組でよくやっているのをいつも見ているんですからね!


…ってその心配はないか。自分は男の人だし。相手も男だし。ハニートラップはないか。

……大丈夫だよね?


占い師さんが『ゴホン、ゴホン』と咳払いをし、「失礼しました」と一言言ってから話始めた。

「……あなたの魔力は生まれたばかりのような澄みきった魔力ですね。それもとても大きくて濃い。」

「そ、そうなんですか。」

「ふむ。申し訳ありませんがお手を拝借しても?」

「あ、はい。いいですよ」

そう言って右手を差し出す。

占い師さんが右手で優しく握ってくる。

……い、意外と手が大きくて硬いんですね。


そして左の手のひらを見せてくる。

すると、白い光がホワ〜と溢れ出る。

そこには一輪の白い花があった。


「白で、多数の花びら、中心に………」

となにやらぶつくさ言っているが、


自分はただポカンと突如出てきた花を見る事しかできなかった。


い、異世界の力ってすげー!


これを見せられたら小さい壺くらいは買ってしまう。

「ふむふむ。なるほど。では3つほど言わせていただきます。」

少し間を置いて笑みを浮かべる。

「3つ…ですか?」

「はい。では1つ目の貴方あなたの魔力ついて」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

「貴方の魔力はとても穏やかで純粋。この花のように白く美しいものでしょう。」


……あーこういう手口なのか。なるほどね。

マニュアル通りなのかもしれないがそんな綺麗事を言われても嫌味にしか聞こえん。

……帰りたくなった。


「故に攻撃するという事に何よりの抵抗を持ち、誰かを傷つけるという事はできないでしょう。」

ふーん。へー。

「そのせいでしょうか。貴方の魔力は愛されるでしょう。貴方が意図せずとも」

え?愛される?

「では2つ目どのような道を辿るのか。」

お、おう。ちょっとぐらいは聞いてやらんでもない……だから教えてください。

「これは様々な道がありますが、貴方は何もせずとも幸せな道が現れるでしょう。」

まじか。ニートに戻れるんだったら戻りたいが……。

……あ、引籠る家なかったわ。

「しかし、貴方が決意……いや決断した時、運命は貴方に襲いかかるでしょう。」

もう家無し、金無し、友人無しの三拍子がいるってのにこれ以上何が来るんだ?


「そして3つ目助言を……」

ゴクリと自分の喉から息を呑む音が聞こえる。


「と思いましたがこれは貴方が困って私の助言を求めた時にお聞かせいたします。」

続きは有料ってか。

……ちょっとぐらいお金を出してもいいかもしれない。


占い師が白い花を差し出し、自分はお礼を言いながら花を受け取る。

なんだっけ?この花。見たことがあると思うんだけどなぁ。

「それでは、またお会い致しましょう。

あなたがこの世界で悔いを残されないことをお祈りします」

「え?」

自分が見上げた時にはもう占い師さんはいなくなっていた。

こ、こういう演出なのかな?

それにお金払わなくていいのかな?

まぁ、また今度助言をくれるって言うし次会ったらそれについて聞こう。

ぼったくられるようだったら逃げよう。


こんなことがあって少し帰り道が遅くなった。

バスケットを肘に下げて、白い花の茎を持ちクルクルと回す。


あ、思い出した。この花の名前。




ガーベラだ。




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