〜夕暮れ時の市場と空腹事情〜
夕方の市場。
オレンジ色に染まった屋台は片付け始めている。
この光景を見ていると寂しいような、一日が終わってよかったと少し嬉しいような微妙な気持ちになる。
センチメンタルな気分だ。
……ちょっと買い物で出費してしまったからかもしれないが。
――――
夕方の市場にきて最初に目に止まったのが牛の居るお店だ。
大人しく座っている牛が視界に入った時は思わず二度見してしまった。置物かと思ったが尻尾を揺らして『モ〜』と鳴いているのでおそらく本物だ。
な、なんだ?この店?と様子を見ていると、客が何かを注文しようとしているのが見える。すると、牛が立ち上がり店の人が瓶に牛の乳を器用に入れる。
すげえな。さすが異世界。牛乳をこんな風に売るのか。
搾りたての牛乳って飲んだ事がないんだよなぁ……搾りたてって美味いって聞くよなぁ……
キュウ。
……くっそーお腹に可愛く鳴かれちゃ買うしかないかー。
よし!牛乳を買おう!と思いお店の前に立つと、店の主人が自分に向かってこう言った。
「あれ?初めて見るお客さんだね。でもちょうどよかった!搾りたての美味しいヴァンポのミルクだよ!」
ゔぁんぽ?
「あれ?お客さんヴァンポ初めて見た?」
コクコクと頷く。
「ヴァンポは家畜用の召喚獣だよ。大人しくて、よく食べて、いっぱい働いてくれるいい子だよ。はっははは。」
そういってヴァンポと呼ばれた牛を撫でている。
すごい大人しそうな牛である。自分もちょっと撫でたい。
でも召喚獣ってなんかもっと強そうなイメージだったんだけど……。
デーモンとか、青や赤の目のドラゴンとか。5枚揃った時点で勝利となる封印されている召喚神様とか。
顔に出ていたのか、主人がにっこり笑って説明してくれた。
「この子は戦うことはあんまりできないけど一緒に畑を耕してくれたり、乳を搾ってバターを作ったりしてくれるんだ。最近はこういう風にミルクを瓶で売ったりしてるんだ。」
へー。
「あの……ちょうど良かったって、ど、どういうことですか?」
『そうだった!そうだった!』といって2つの空き瓶を見せてくる。
「この子の出るミルクがあと瓶2つで今日出る分が終わりそうなんだ。だが、なかなか売れなくてね。今日はさっきの客で店仕舞いしようとしたところにお客さんが来たんだ。どうだい?今もし買ってくれたらうちのバター安くするよ。」
小さめの瓶に入っているバターを見せてくる。小声で『焼いたパンにつけると美味しいよー』と胃に語りかけてくる。
キュウ〜。
……買うからお腹は黙ってなさい。
バターがあるのかー。料理に使える!塩だけだときついからな!
これは買うしかない!
というわけでバターを20ルトで購入。
ミルクは500mlくらい入りそうな瓶が2つで60ルト。コルクの蓋がされている。
しかし、ここで問題が発生する。大きくないにしろ割れやすい瓶を2つ持つのでいっぱいいっぱいである。
それを見かねた店主がとなりの店を指差して
「お客さん、カゴは持ってないのかい?だったら隣の店で買うといいよ。」
現代のようにビニール袋はサービスしてくれなかったので近くの雑貨を売っている露店で童話赤ずきんちゃんに出てくるようなバスケットを70ルトで購入。
バスケットを持ってミルクの所に。
ミルクとバターを受け取ると、『まいど〜』と言って店主は店仕舞いを始めた。
次にパンだ。ここのパンは丸いフランスパンのようなものだ。
パンを4つ40ルトで購入。紙袋に入っている小麦粉があったので10ルトで購入。
次に肉の塊が吊るされているお店に、
そこにはでかい出刃包丁を持った白いエプロンの横長おばちゃんが肉を切っている。白いエプロンに赤い飛沫がついている。
そんな迫力にビビりつつ。
「あ、あの。お肉ください。」
そう言うとこちらをちらりと見て肉の塊を紙で包むと
ドンッと肉を置いて言った
「銅貨5枚」
「は、はい」
50ルトを置いて肉を受け取ると小走りで次のお店に行った。
こ、こわかった。
最後が八百屋……現代の野菜に似ているような物を購入することに、
人参×2、芋×5、とうもろこし×2、ほうれん草、小瓶に入った植物油、全部で60ルトに。
現代の野菜に似ているけど呼ばれ方が違うから違和感があるなぁと思いながら野菜を買った。
――――
そして買い物終了後。至る所の屋台は片付け始めている。
バスケットの中からはみ出すぐらいの買い物が終わってアンドレーナさんの家に向かっている。
バター、牛乳、パン、小麦粉、肉、野菜とか買い物カゴで310ルトも使ってしまった。
バター20ルト。ミルク(500ml)が2つ60ルト。バスケット70ルト。
パン4つ40ルト。瓶に入っている小麦粉10ルト。
肉の塊50ルト。人参×2、芋×5、とうもろこし×2、ほうれん草、小瓶に入った植物油で60ルト。
豪遊!……ではないと思うのだが、結構な出費である。
前回の買い物と比べて量が倍以上多いからその分高いのか?
ここの相場とかよくわからんからなぁ。
ちょっと多めにお金を取られているのか?
……いや、腹が減っていると余計に買ってしまうのかもしれない。
まぁ今日の買い物はこれで終わり。
でも次からはできるだけ出費を抑えないと。
さて、作るとしても何を作ろうかな……と考えながら歩いていると
「……そこの坊ちゃん、そこの坊ちゃん。」
ふと、声をかけられた。




