〜お宅訪問【人の家で待つのは結構辛い】〜
「………ってことになるッス。だから貴族を見たらリョウさんは隠れた方が…って聞いてるッスか?」
ムッと少し眉間にしわが寄る。
しまった。
自分は反射的にスマホをしまいアンドレーナさんに顔を向ける。
「すいません。ちょっとメモと考え事をしていて」
「…メモッスか?」
あ、どうしよう。ついメモとか言っちゃったけどこっちじゃ伝わらない言葉か。
「あー…アンドレーナさんが言った事を記録していたって事です。」
「記録って…紙とかペンを持ってないみたいッスけど?」
「えっと…これで。」
ポケットからスマホを出して見せた。
……なんだろう、この隠れてスマホをいじっていたバレて相手に見つかる感覚。
そう、授業中にスマホをいじっていたら先生に見つかったような気分だ。
「??? こんな黒い板でッスか?それに何にも書いてないッスよ?」
アンドレーナさんは首を傾げて、不審に思っているようだ。
実際にスマホのメモをみせるべきか?いやでも電源を切っちゃったからなぁ。
それにこれからは充電できないから電池は大切にしなきゃだし。
ここは話題を変えさせてもらおう。えっと。なんていえば……そうだ。
「あーあーえっと。おほん。そういえば、あの広場から結構歩いていますがどこに向かっているのですか?」
するとアンドレーナさんは首を傾げる仕草から一転。
背筋をピンと張り、きょろきょろ、そわそわと落ち着かない様子に。
「あ、いやその。広場の騒ぎが収まるまでちょっと私の住んでいる家まで居てもらおうかな〜……お、お、思ってたッス」
「え?」
「い、いや広場の近くにいたらまずいって思って、リョウさんをここまで連れてきたッス!…けどこのまま外にいて誰かに見られるのはまずいッスし、休憩するにも酒場に入るにもまだ開いてないッスよ。だ、だからその、ウチなんてどうかな〜……って思ったッス。」
「あぁなるほど、わかりました。じゃぁお邪魔します」
「あはは、そうッスよね、じゃぁちょっと遠いッスけど宿に案内……あれ?今なんて言ったッスか?」
「え?わかりましたって言ったのですが……」
あれ?これって社交辞令ってやつ?自分が困ってるから『ウチくる?』みたいなノリで言ったのか?だったら断った方がよいのだろうか?
「 …… 。」
アンドレーナさんを見るとあんぐりと口を開き、上下左右に目を回し、額には汗を浮かべている。
想像を超える出来事が起きた際に、『あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!』みたいな感じでとても困惑している。
……迷惑になりそうだし断る事にしようかな。でもアンドレーナさんの家行ってみたかったなぁ。
「…すいません。やっぱりご迷惑になりそうなのでアンドレーナさんのお家にお邪魔するのは、また今度と言うことで…」
また今度と言っていれば今回はダメでも次はもしかしたら…
「え!?いや!?いやいや!!全然!全然大丈夫ッス!全然お邪魔でもないッスよ!」
「…本当ですか?」
え、まじで?
「本当ッス!本当ッス!」
そこまで必死にならなくてもいいと思うのだが……。
「えっと…じ、じゃぁお言葉に甘えて」
「では、こちらッス!」
自分はアンドレーナさんに見えないようにガッツポーズをした。
やった!女の子の家とか初めてだ!
わっほい!
――――
日が落ちてきて夕暮れ間近の頃。
質素な木造の家々が並ぶ区間に入り、アンドレーナさんが立ち止まる。
「えっと……ここが私ん家ッス」
「……おー。」
うん、ボロっちい。歩いてきた時に見た家と比べると素人が板を張り合わせて、雨風を塞いでいるような家だ。
「歩いてお疲れでしょうッス。ささ!入って座ってくださいッス!」
きっと入ったら女の子らしい部屋が……
「広がってなかった。」
暖炉に少しガタつく長机に丸椅子が5つ。奥の2つのドアが見える。他に飾りのようなものは一切ない殺風景で女の子の住んでいそうな雰囲気はない。
「あ、申し訳ないッス。狭いッスよね」
「いえいえ」
丸椅子に座り、もう一度周りを見る。
確かに師匠の家に比べると狭い。
暖炉の傍には深い煮鍋と浅いフライパンのようなものがあり、長机には木の食器が数個重なっている。
……どれも汚れているが。
アンドレーナさんは机の上の食器をサッと端にやり、奥の水瓶から水をコップに注いでこちらに向かってくる。
「どうぞ、お水ッス」
「あ、どうも。……ふぅ」
今日も良い天気だったなぁ。と思いながら飲む水がうまい。こっちに来てから水が美味しく感じる。
外国に行ったら水にあたると言うので初めは注意しなければと思っていたが、今では出されたら一気に飲んでしまう。
……だから今、体に悪い黒い炭酸の飲み物のことは忘れるんだ。
ここでは水が最高な飲み物なんだよ!
いやでもこんな美少女に出された水だったらそんな飲み物より価値あるやんけ。
一杯5000円とか言われてもおかしないで!
でもコーラ飲みたい。
そんな脳内会話が盛り上がってると、
「申し訳ないッス。お茶の一杯も出せないで……」
「いえいえ。喉が渇いていたので水がすごく美味しいです」
やっぱり水がいいよね。健康的だよね。
「そう言ってくれると嬉しいッス。以前市場で良い茶葉があったから買えばよかったッスよ」
アハハと笑いながら机を布で拭いていた。
「そういえばここから市場って結構近いですよね。」
なんとなくの脳内地図ではあるがこの場所と前にお使いで行った市場は近いように感じた。
「そうッスね。市場は近いッスけどいつも買うお店はここからじゃ少し遠いところにあるッスね」
「へぇ。お得意先があるんですか」
「んーまぁそんな感じッス」
右左の人差し指をくるくると回しながらアンドレーナさんは答えた。
耳がピクピクっと動く。
すると人差し指の動きが止まる。
ビクンと体が震え、顔が青ざめていく。
「え、えっと……その……ちょっとギルドマスターが私にご用みたいッス……」
『シャシャ。』
「?」
なにか上の方から聞こえてくる。
……っていつの間にかアンドレーナさん外に出てるし。
自分もアンドレーナさんに続いて外に出る。
――――
『シャシャシャ。ギルドバンゴウ〜01566。ギルドマスターのトコロにコイ。イマスグコイ』
アンドレーナさんの家の屋根に赤のオウムが止まっていた。
最後に『シャシャシャ』と言うと飛んでいった。
どこかで聞いたような……。
アンドレーナさんは『あっちゃー』といった感じでおでこに手を当てていた。
「……申し訳ないッス。ちょっとギルドに行ってくるッス。すぐ戻るッスから!家で休んでてほしいッス!」
「あ、はい」
そしてアンドレーナはまさに目にも留まらぬ速さで走っていった。
傾いてきた陽が自分の影を細長く斜めに地に映す。
自分はアンドレーナさんの家に入り丸椅子に座った。
―― 30分経過 ――
「………………。」
電源を切ったスマホをいじって時間を潰す。
「まだかなぁ。」
―― 1時間経過 ――
「………………。」
素人瞑想して魔力を感じようとする。
が、失敗。
ぐぅ〜。
お腹減った。
……帰るべきかな?……いやでもなぁ。すぐ戻るって言ってたから入れ違いになってしまうかもなぁ。
……あぁ近くから良い香りがする。
……夕飯どきか。
……!
そうだ!近くに市場があるんだし、パパッと買って戻ってくればアンドレーナさんと入れ違いになることになっても「市場で食材をかってきたんですよ。あ、いっしょにどうですか?」みたいな感じで何気なくアンドレーナさんとお食事ができる。
……。
善は急げだ!店が閉まる前に急ごう!
そういって自分は市場に走り出した。
―― いっぽうギルドでは ――
「なぁなぁ。今日広場でギルド職員が変態プレイしてるって通報があったんだけど?」
「本当違うッス!事故だったんッス!」
「うしゃしゃ…仕事ほっぽりだして男遊びたぁー……いい度胸だ。気に入った
明日の日の出が見えるまで始末書書かせてやんよ。」
「 」




