〜さよなら師匠、また会う日まで〜
--- 砦、何かの停留所前 ---
「し、師匠。本当に行っちゃうんですか?」
「さっき言ったろ、急いで行きてぇって。」
師匠は最小限度の旅支度をして、右手に荷物を持ち。左手の杖で地面を叩いていた。
「で、でもぉ。」
「うだうだ言ってねぇで、お前はお前のやる事ちゃんとやれよ!」
「…そんなぁ。」
そんな自分なりに師匠を足止めしようとするも虚しく。
「ルメディ殿!ウイロー車の準備ができました!お乗りください!」
「グェ!」
衛兵さんが緑のでかいアヒルを連れてきた。
…あ、前に砦に入ろうとした時に色々質問してきた………
……えっと、隊長って呼ばれてる人だ。
あのまま質問攻めにあったら自分がこの世界の人間じゃないってボロが出る。
ボロが出てて問題になるかどうかわからないけど色々面倒くさいことになりそうだから一緒に付いて来てくれたアンドレーナさんの後ろに隠れた。
「おう!わかった!じゃぁ、お前!頼むぞ!」
「はいッス!頼まれましたッス!」
師匠はアンドレーナさんにそう一言告げると
「じゃぁな!俺が帰ってくるまでには魔力の使い方ぐらいできるようになっておけよ!」
「グェーー!」
ウイローと呼ばれる緑のでかいアヒルに乗って砦から出て行った。
ちょ!めっちゃ速!
短い足を凄いバタつかせてる!はえぇ!
「しーーーーーしょーーーーーー。」
自分の情けない声が砦に少しだけ響くがすぐに消えていく。
お!ちょっと遠くに行った師匠が顔だけこっち向いた!
「カムバーーーーーーーーーーク!」
手を精一杯師匠に向かって伸ばし、少し頑張って声を出した。
戻ってきて!師匠!
師匠は片手を上げて握り拳に親指を立てて去って行った。
違う、そうじゃない。
「し、師匠、行ってまった……」
バタバタと遠ざかる足音と伸ばして手が今の自分を更に虚しくしていく。
突然の別れ!
伝わらぬ思い!
荷物を運んだ時の疲労感!
さっき叫んだ時の喉の痛み!
様々なことが交錯する中、どうして俺と師匠が引き離されたのか!?
それはついさっきの出来事だ……
―― 数時間前 ――
冒険者ギルド、奥の部屋にて
奥の部屋に着いてや否や師匠は口を開いた。
「すまん。ちっと急ぎでギルド本部に行くことにした。」
「?」
ギルド本部って?
「すぐに行ってすぐに帰ってくる予定だからお前はここに居ろ。」
パッて思い出したのは『餃子は置いてきた。修行はしたがハッキリ言ってこの戦いにはついてこれそうもない』……って事なの?
「本当はポーション作れるまで面倒みようかと思ったんだが。」
「…えっと?」
「まぁ、何回か作り方は見せたし、あとは魔力の使い方覚えて作ってみろ。」
「え?」
「それでダメならもう一回教えてやる。」
「あ、はい。」
「じぁ、荷造り手伝え。」
「…え?え?」
――――
まあ、そんなこんなで。
あれよあれよと言う間に荷造りを手伝わされ、砦まで持ち運び。
現在に至るという事である。
「さよなら、天さん………」
「え?テンさんって誰ッスか?」
「あ、いえ。ちょっと言ってみたかっただけです。」
「そうッスか。じゃ!こちらも行くっすよ!」
「???……どこに?」
「あれ?ディディ氏に聞いてないッスか?」
「は、はい。全く。と、というかなんで師匠はそのギルド本部に行かないといけなくなったんですか!?悪いことでもしたんですか!?ゴホ!ゴホッ!
…………あとすいません、ちょっとお水飲ませてください。」
「まぁまぁ、歩きながら色々説明するッス。水は近くの通りに井戸があるッスからそこで飲めばいいッスよ。」
「…すいません、お願いします。」
――――
「ぷはぁ!うまい!」
喉が乾いてる時の水はうまい!
でもこんな時に甘い炭酸水が飲めたらなぁと思ってしまう自分はダメな気がする。
「よかったッス!じゃぁ、ゆっくり歩きながら説明させてもらうッスね。」
「はい、お願いします。」
「えっと、まず何故薬師ルメディ・キャディ氏、通称ディディ氏がギルド本部に行くことになったのか………すいません、実はこれは私もわかんないッス。
私もディディ氏が本部に行くことが決まったから手続きをするためにディディ氏の御宅から砦でまでついて行ったんでッスよ。
わかったのはギルドマスターが教えてくれない案件ってことッス。ギルドマスターに渡された紙には関係者しか読めない文字で書かれたものだったので私にはわかんないッス。
何かギルド本部からの依頼が来たのか。悪いことでもして呼ばれたのかはちょっと判断できないッス。」
し、師匠はきっと依頼で呼ばれたんだろう。うん。ギルド本部に行って逮捕されるなんてこと………
ふと今までの師匠のことを思い出す。
そうだよ!師匠は職歴ゼロの自分になんだかんだとポーション作りを教えてくれようとした優しい人………
〜〜〜
『すぐに手を出すような、偏屈暴力ジジイだぞ!?』
『商人が恐れる『ポーション相場落とし』を見せてやろう!』
〜〜〜
…暴行…相場操縦的行為…
依頼であって!そうであって!
「でも、ギルドマスターもこの事をもしかしたら予想されていたかもしれないッスね。」
「え?どうしてですか?」
「たくさんのポーションを作らせていたからッスよ。ギルドマスターの部屋の中に沢山のポーションを持ってきていたから、ギルドマスターが依頼してポーションを貯蓄する為なのかなぁって思っただけッス。
ディディ氏がいるなら随時作ってもらった方がコスト的にそっちの方がいいんスよ。貯蓄にかかるお金も結構かかるんッスよ。」
「なるほど。あ、ギルド本部について教えて下さい。アンドレーナさん。」
「はいッス!ギルド本部とは、王都にある冒険者ギルドの中心核!そこでは各国にあるギルドの様々な情報が集まり!腕利きの冒険者も集まっているッス!そして各国に危険が迫れば王都から腕利きの冒険者を派遣し、助けるッス!私の憧れの場所ッス!」
「な、なるほど。」
熱意がこっちにも伝わるぐらい分かりました。
「それでこれからどこに行くんですか?」
「ギルド近くの広場にッス。」
「何でですか?」
「あぁ!そうッス!実はディディ氏と手続きしている時に頼まれたッスよ!」
「何をですか?」
何だろう?アンドレーナさん嬉しそうだけど。
「魔力の使い方ッス!私が教えるッスよ!」
うふふと、にこやかに笑う彼女が少し眩しかった。
次回
新章突入