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〜赤いポーション〜

動きやすそうな軽装、胸には弾帯のような場所があり、ベルトに挿した細長い剣に小さな袋、細身のロングブーツと、特徴を押さえた衣装。中世のヨーロッパにも通じるような綺麗な格好である。


すげえ…コスプレのクオリティ高ぇ!


自分がボケ〜と惚けていると金髪の天使(・・)が踵の高い靴を履いた格好のいい足でコツンコツンと軽快に歩く。


「くひぃ!?」

目が合い心臓が跳ね上がる。なんと言えばいいのだろうか。

……くそ!女の人と会話なんて母ちゃんくらいだよ!

なんて言えば良いかなんて……ってお礼言わなきゃだろ!

スーッと息を吸い込んで、意を決し、

「あ、あの…」

「……どいてて。」

「へ?」


初めて発した声は美しい鈴のようであったが、彼女は自分の横を通り過ぎ、持っていた反りの入った片刃の刀剣を構えた。


身体中が痛むが、後ろを振り返る。

そこには他のうさぎより一回り身体とツノの大きいうさぎが毛を逆立てて赤い瞳でこちらを見ていた。


「ひぃ……」

明らかに他のうさぎより強い……怖い。

怯えている自分とは裏腹に彼女は炭酸の抜けたソーダ水のように静かにうさぎを見ていた。

そしてうさぎは地面が陥没するほどの脚力でこちらに突進してきた。

一瞬だった。

8等分にされたうさぎが ドサリ と目の前に転がった。


死屍累々。一匹も動いているうさぎはいなかった。

白と赤と言えば縁起の良いのだが、このうさぎの残虐な死骸が、柔らかい作りかけの粘土細工のように生々しい。


しかし、やっと救われたのだとほっとする。


ぐらっ


あれ?身体に力が入らない。

糸が切れた操り人形のように地面に倒れてしまう。

そうだ自分…出血がひどかったんだ。


遠のく意識の中で彼女が近寄ってくれたのを見て

最後に可愛い娘に見送られるなんて自分は幸せ者だと考えたが


口に何か細い物が突っ込まれ液体が流れるのを感じ、その液体に意識を向けてみると



「うぼぇ!まっず!」



そう言って赤い液体を吐き出してしまった。


彼女の顔に向かって。




彼女は血や液体の色もあって真っ赤になっている。

自分はおそらく真っ青になっているだろう。


「あ……す、すいませ……」

「死にたくなかったら移動するよ。」

「は…い。」







――――



重たい空気と共に静かな草原を歩いていく。

彼女の後ろを付いて歩いているので顔色を伺う事ができないが怒っているだろう。


どうすれば信用を回復できるのだろうか?

焼き土下座で誠意を見せるべきだろうか。

腕を組んで考える。

ん…?

そういえば、腕が痛くない。腕を見ると服に穴は空いているが、刺された傷が無くなっていた。


立ち止まり、身体全体を触ってみる。服の至る所に穴は空いているが、身体にあって傷が消えている。

どうしてだろう?


「……なにやってるの、はやく行くよ。」

「はい!すいません!」


さっきから『はい』と『すいません』くらいしかまともに言ってないな……。

よ、よし聞いてみるか。


「あの……すいません。」

彼女は立ち止まりこちら睨みつける。

「…なに?」

やばい、めっちゃ怒ってらっしゃる…。

「さ、先程、じ、自分はし、死にかけていたと思うので()が、自分は夢でも見ていたので()ょうか?」

……自分のコミュ力のなさに死にたくなる。


「……。」

やべーよ。『なに言ってんだこいつ』みたいに見られてる、やばいちょっと涙目だよ。


彼女は胸の弾帯を漁り、赤い液体の入った試験管をみせる。

「……このポーションを使った。」

そう言ってまた歩きはじめる。



え……?ポーション?なに?……え?


ついに現代科学はポーションを作れるようになったのか!

科学の力ってすげー!


んなわけないだろ!

頭振ってまた彼女の後ろを歩いていく。

でも、助けてもらった訳だし、お金払うべきだよね?

ポーションって50ギルくらいかな?

いや、日本円でいいのかな?ドルとかユーロに変えて渡したほうがいいかな?

ポケットを探り財布を取り出す。


2862円


しょぼ!

コンビニ行くだけだったからあんまり持ってなかった…



とりあえず、二千円をお渡ししよう。足りなかったら、コンビニのATMでお金をおろそう。



「なにをしている?」

「うおぁ!あ…いえ…その…ポーションの代金をお支払いしたいと考えまして、こちら少ないかとは思いますが……ど、どうぞお受け取り下さい。」

急に振り向いたのでびっくりしてしまったが、両手で2千円を差し出し、要件は何とか言えたので良かった。


「…?なにこれ?」

立ち止まり、まじまじと千札を見ている。

「え?あの、2千円なのですが…」

「???どこの通貨?」

彼女は二千円を受け取り、ズボンの漁ると茶色のコインと銀色のコインをポイッと投げる。


「これがここら一帯で使える通貨。あと……」

腰の袋から茶色の布のようなものを取り出す。

てか、あの小さい袋から出せる大きさじゃない気がするのだが…


「これを着て。」

「?」

受け取り広げてみるとフードのついたマントであった。


「……その格好だと色々大変だから。」

そう言って早足で歩き始めた。

「あ…。そ、その通りです。すいません。」

こんな穴あきのジャージで歩いていたら警察に職質される。

マントを羽織り、彼女についていく。



「………。」

「………。」



どうしよう…会話が途絶えてしまった。

何話せばいいのだろう……










――――



しばらく進むと石でできた砦のような所についた。



け、結局話しかけられなかった……


「ここまで来たら安全。…では。」

そう言って踵を返して歩いて来た道に向かっていく。

「うぇ!?」

ちょ、まうぇ。こんな所に一人にしないで!

「まだギルドからの依頼を完遂していない。だからここまで。」

「あ…すいません。お忙しいところ助けていただき、あ、ありがとうござ……」

も、もうあんなに遠くに。

ま、まともにお礼できてない!どうしよう。そうだ!


「あ、あの!お、お名前を、おおお伺いし、してもよろしいでしょうかかか?」


「………。」

彼女は振り向き少し考えたように上を見上げると


「【半月の(ハーフムーン)片刃の刀(サーベル)】…。」


そう言ってどこかへ行ってしまった。


ハーフムーン?サーベル??

ハーフベルさん?

なんかすごい名前だなぁ。よし。名前を覚えたから菓子折りでも持っていこう。

お菓子だけでいいのか?

変なうさぎから助けてもらったお礼とか、もらった薬とか、マントとか、そうだこの銅貨とか銀貨も貰った分どうやって返せばいいのだろう。

同じ物を買って一緒に返せばいいかな?


というかお礼の言葉とか全然言えなかた!

ああああああぁぁあぁぁぁ自分のコミュ力のなさに恥ずかしいやら悲しいやら、情けないやらで悶絶する。

次会ったときはお礼を言おう。


ギルドって言ってたけど、オンラインゲームの約束でもあるのかなぁ。



ジャージ穴あいちゃったな…母ちゃんに何て言おうか。

あんなツノのついたうさぎの話なんて、ほらばなしにしか聞いてくれそうにないな。


そんな事を考えながら自分は……







これからどうしようと砦の周りをウロウロしていた。











読んでいただきありがとうございます。

沢山の方々に読んでいただいてとても嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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