〜晩餐、杖〜
さてはて、洗い物したり、ご飯を作ったりしたら、すっかり日は暮れて夕食の時間に。
籠いっぱいに薬草を持ってきた師匠が帰ってきた。
――――
「がっはははは!お前あの匂いのまま行ったのか!?」
今日の事を師匠に話したら凄い笑われた。
ちくしょう。
「しかも、あいつの店に行くとは…くっくくっ。」
さっきから笑いっぱなしである。
「あの匂いのまま寝ているからなかなか肝の据わった奴かと思ったが、そうかそうか。そのマントはスキルの付きの装備だったのか。」
「はいはい〜。ディディ師匠〜。スキルの付きの装備ってなんですか〜?」
ゲームなんかではスキルは特殊能力みたいなものだと思うけど、装備って言ってるのはなんだろう?
そんな自分の中で渦巻く疑問を…師匠が…師匠ならきっと知ってるはず……
…チラッチラッ。
「あぁ〜と装備ってのは…」
さすが師匠!物知り!
「普通の装備とは違う、魔法の力を持つ装備ってのがあるんだ。……えっとな…ほら魔法使いが杖や帽子を身につけてるだろ?あれは格好良いからとかじゃなくてだな。
魔法の効力を上げるためだったりする装備で、それには【魔法力上昇】のスキルがあるんだ。
他にも本来の役割とは別に魔法がかけられているものがあるんだが、えっと…ギルドにある見交わしの鏡とか…あぁそうだ、これもそうだぜ。」
そう言って机にかけてあった杖を自慢げにみせる。
「へぇ。どんなスキルがあるんですか?」
「…へっへ。そいつは秘密だ。」
「えー。」
「がははは。それんしても意外にうめぇじゃねえか。オメェの作った飯はよぅ。」
「…え?本当ですか?うーん。」
おっとそうだった。
今夜のメニューは、
一口サイズに切った肉の串焼き(塩味)
野菜の塩スープ
肉とキノコ入りの茶碗蒸し(塩味)
である。
………料理はできる(キリッ
そんなことを言った手前ちょっとマジで自信がなくなってきた。
ただちょっと待ってほしい。
味付けが塩だけなのだ。
もしかしたら料理漫画であれば塩だけで凄い料理が作れるかもしれないが自分はあくまで家庭内で少しかじった程度の腕前なのだ。
醤油もない、味噌もない。コンソメも鰹節も………砂糖もないのは本当にびっくりした。
自分は知っている材料で知っている味付けをしなければ、ちゃんとした料理が作れないのだと実感してしまった。
肉を串で塩で味付けした原始的な食べ方。
師匠に習って塩がベースのスープに。
あ、茶碗蒸しは少し頑張ったかもしれない。
朝の朝食の時に少しパンを食べ辛そうにしていた師匠に美味しく食べられるような柔らかい物をと思って作ったのだ。
熱で割れないような陶器に溶いた卵とお湯で溶かした塩を入れて、肉とシイタケみたいなキノコを切って炒めて入れる。
浅い鍋に器の半分ほどの水を入れ、蓋をして蒸す。
分量を間違えたのかあまり固まってくれなかった。
まぁでも食べられるレベル。
でも、いつも食べていた物と比べると悲しくなる。
「もっと美味しくできたらよかったんですけど。」
「がっはは。十分だよ。これならギルドにある食堂でも働けんだろ。」
「え〜?本当ですか?」
正直なところ美味しそうに食べてくれている師匠を見て半分は嬉しかった。
もう半分はもっと美味しくできたらなと。
ん?あれ?
「あの師匠。茶碗蒸しのキノコ食べないんですか?」
「………。」
「………。」
少しの沈黙。
あれ?茶碗蒸し。気に入らなかったのかな?
頑張って作ったものだけどうまくできなかったからなぁ。
美味しくなかったか……。そんなことを思っていると。
「…おれぁなぁ。」
師匠は苦々しい調子で
「…おれぁ、キノコが大っ嫌いなんだよ。」
と告白した。
「…………ぷ。くくくっ。あはははは。」
あの強面の師匠が…キノコが嫌い!?
こんなことで笑ってしまった。でも意外で笑ってしまった。
こんなに自分の笑いのツボは浅かったのか?
でも笑ってしまう。
「……はっは。教えを請う身でありながら俺を笑い者にするたぁ……いい度胸じゃねえか?」
「あ、いやすいません。いやでも…くくくっ。」
「へっ。まぁいいや。今日は特別だ。飯を食い終えたら、俺様の高速ポーション作りを見せてやろうじゃねぇか!」
なんだか師匠も笑っているように見えた。
――――
「よーし。明日ギルドに出すポーション作り上げてやるから見てろよな!」
「いぇっさー!」
「商人が恐れる『ポーション相場落とし』を見せてやろう!」
ではでは〜今週のポーション精製の手順だ〜!
おっと〜師匠が大量の薬草を手に取り、洗う!洗う!
そんでデカイ乳鉢一杯の薬草擂り潰した!
擂り潰した薬草を水で溶いてこれまたデカイ鍋にぶち込む!30分ほど沸騰させたー!
これはどうしたことか〜?とろみが出てきた〜!ここまではいつも通りだ〜!
お?師匠が杖を構えたぞ?
な!?なんと鍋から緑の液体が浮かびだした!?
こ、これは回転している!?まさか!回転で常温に冷やしている!?
冷やしているのか〜?!
ここでいつもの薬草ドリップ!セコンドの自分が用意したが〜?
おっと〜どうしたんだ〜?師匠が首を振っている!?
なんだ?なんだ〜?床を指さしている?
な、なんと!?回転は冷やしただけでなく固形物まで取り除いたのか!?
なんという技術!いやこれが魔法なのか!?後で掃除が大変そうだ〜!
師匠が試験管を空中に並べている!?
液体が次々試験管に入っていく!
すごい速さだ!すごい!すごいぞ!
ここで試合終了!
山積みの【緑のポーション】のできあがりです!
では脳内実況はセコンド兼弟子の浦田遼がお送りいたしました。
「へっへへ。どうだ!?」
「すごいです!これが師匠の杖のスキルですか!?」
「あぁ。【空間掌握】っていうスキルだ。【空間把握】の上位スキルだぜ。」
すげえだろと見せつける。
「おー!」
パチパチと手を鳴らす。
「この【空間掌握】ってのは一定範囲の物を自在に操ることができんだ。
それにこの杖さえありゃ目ぇ瞑っててもなんでもわかる。
どこに何があるのかとか、どんな奴が目の前にいるのかとかな。
それに自分の作ったポーションが300個できたってのもわかる。がっはは…おっとと。」
師匠の足が少しよろける。
駆け寄ろうとするが手のひらをこちらに向けて「大丈夫だ。」とぼそりという。
「ちょっと張り切りすぎた。これやると魔力使い過ぎていけねぇ。」
ふぅ〜。と息を吐いて
「俺ぁもう寝るぜ。おめぇもさっさと寝ろよ!」
と言って奥の方へと向かう。
さてと、じゃあ自分も…おっとそうだ。
――――
「うーむ、さすがにこのマントは明日に洗うか。」
さっきまでの興奮を覚ますために少し外に出てマントを脱ぐ。
帰ってきてすぐにマントを洗おうと思ったんだが……。
マント無しでここに入ったら胃の中の物リバースしかけたからな。
【感覚保護】っていうスキルのおかげで大丈夫なのかなぁ?
感覚保護ってことは嗅覚とか視覚?五感を守ってくれるって事?
ヒュー
マントを脱ぐと少し肌寒い。
【耐暑耐寒】のスキルというのもすごい。昼も夜も温度を気にせずに来てられるのだ。
本当にすんごい便利アイテムもらったな。
……いやいや。違った。借りたんだった。
このマントがなかったらここで働くとかポーション教えてもらうとか無理だったよな。
あの人のおかげだよなぁ。
こちらに来て助けてくれた彼女のことを思い出す。
早速と現れバッサバッサとうさぎを倒し、ポーションをくれて、マントを貸してくれて、ポンと銀貨までくれたのだからすごい。
銀貨もらった時はなんだろコレ?ゲーセンでたまに混ざってそう。
とか思ったけど、一万円貸してくれたんだよなぁ。本当に格好良い。
思い出しただけで少し顔が赤くなる。
あーあーあー。
明日早く起きてマント洗わなきゃ。
――――
ついでに寝る部屋は3つある。
1つは師匠の寝る部屋。
あとの二つは客部屋だと言っていたが、埃まみれだったので最近は使われていないようだ。(初日は部屋の掃除をしてから寝た。)
「ん?あれ?」
料理で使った調理台の隅に茶碗蒸しで使ったキノコが残っていた。
あ、そっか。キノコは20ルトで2つ入っていたんだっけ?
料理で少ししか使わないから明日にでも〜って置いといたんだったな。
………………。
ちょっと小腹が空いたな。
「塩でまぶしたキノコを炙ってパクリ。」
独り言をポツリと言うと、
気がついたらもう暖炉の火で焼いていた。
うん。うまい。
腹も膨れたし、寝るとするかな。