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ハーフエルフは野菜がお好き

--- とあるお腹の減った冒険者 ---



いつもより早くに仕事を切り上げて市場に来た。

食ベ物の匂いが鼻を伝わりお腹がかすかに、くぅーっと情けない音を発する。

周りに聞こえていないか少し周りを確認する。

どこも賑わっていた(・・)

私が来たのを見つけると誰もが黙る。誰もが私から目を逸らす。

そんな混み合っている市場なのだが、私の周りは誰も近寄らない。

私が進めば道ができる。

とても愉快だ(・・・・・・)



そして、いつも通り人の集まっていない露店に行く。

座っている茶髪の店主は私を見つけるとピンッと耳が立ち。

嬉しそうに話しかける。

「姉御!いらっしゃいませ!」

「…………ん。」

以前、チンピラに脅されている所を助けたら姉御と呼ぶようになった。

懐かれているのかもしれないし、親しくなり良いように利用する為かもしれない。

利益を得るために。

まぁ、他の所よりもマシなのでここを利用しているのだが。


「今日は良い【ジョヌコーン】がありますよ!」

「………じゃぁそれといつもの。あとホーンラビットの肉。引き取って。」

「へい!わかりやした!」

「………………。」

こいつの店はいつも特定の客に物を売っているらしい。

…まぁ私みたいな見た目とかで不当に商品を値上げされる奴等に物を公平な値段で商売しているのだから良いやつなのかもしれない。

そのせいで他の所の商店に目の敵にされているのだが。


だがこいつは頭が良い。そのおかげでここまで生きてこれたと笑っていた。

一人一人の客の顔と名前。何を買ったのか。何時頃に買ったのか。何が好きかも覚えている。

いつも野菜を買っていたら野菜の品揃えが良くなっていて驚いた。

【鑑定】のスキルを持っていたので買取もしてくれる。

複数の客を相手にしても計算は正確である。

恐ろしい記憶力に計算も早い。


大手の商会ギルドでも通用するはずだが、奴はそれを嫌がった。

それはなぜか聞いてみたいが人の過去に踏み入るのは良くないだろう。


「あ、そういえば姉御に見てもらいたいものが………あれ?」

「何?」

「おっかしーな〜。ちょっと珍しいキノコ仕入れたので見てもらおうと思ったんですけど……。あ。

そういえば姉御いつものマントは如何されたので?」

「ん?あぁ。………ちょっとね。」

「盗まれた……とかじゃないですよね?」

「……私から盗もうとするなら『プラチナ』クラスの『盗賊(シーフ)』を100人捨てる気で来ないと無理ね。」

「あはは…そうですよね。」

「なんで盗まれたと思ったの?」

「あ、いえ。実は今日姉御が持っているようなスキル持ちのマントを持ってる奴がいたので大丈夫かな〜って思っただけです!」


……あの子か。あのまま置いてきて気にはしていたが無事なようでよかった。

「いや〜びっくりしましたよ!声をかけられるまでそこに居た事に気づかなかったんですよ!?

いきなりそこに現れた(・・・)んですよ!もうびっくりして他の商店の手先かと思いましたよ!でもあんな高レベルスキルのマントあげてもよかったんですか?

まぁ、あいつは返す気はあるみたいですけど。」

「?」

確かに【隠遁】は付いていたがそんな効力の強いものではなかったはずだが。

「ていうか、あいつ没落貴族ですね。」

「……なんでわかるの?」

確かに見た感じ貴族のような裕福そうな容姿ではあったが。なぜ没落した貴族なのかが気になった。

「んー。石鹸を買おうとしていたからですかね。」

「へぇ。」

石鹸は動物系の魔物の脂身の部分を使い、花の灰を使った灰汁にオリーブ油などの金のかかるものを存分に使った貴族が愛用するものなのだ。

クエストでもその素材を集めたことがあるからわかるが一般的村人や市民ではあまり存在は知られていないだろう。

「けどお金がなくて諦めてましたからね。単純にお金がなくて石鹸を知っていたから没落した貴族なのかな〜って思っただけです。」

「………そうか。」

「でも没落貴族にしては謙虚でオドオドしていた奴でしたけどね。」

「……お前、顔は見たの?」

「え?なんか顔に付いてました?出来物でもできてくれれば少しは客足が良くなるんですけどね。はっはっはー。」

「…そうじゃない。その子の顔は見たのかって事を聞いているんだけど。」

「え?いやフードを深く被っていて良く見えませんでした。」

「あの子は…男だよ。」

「はっはっは。男の人だったら私の顔見て他の店に行きますよ。ここの客は9割は女性ですからね。後はジジイくらいですよ。」

……もしかしたら違う奴か?私が渡したマントを剥ぎ取ってそいつが着ているということもあり得るが…。

「あ、そいつのいる場所教えましょうか?」

「知っているの?」

「ええ。おそらくですが、ポーションジジイのお使いに来たのであの他の家屋からの離れた所の工房にいるかと。」

「……あの人の所で働いてるの?」

「ええ。匂いからして。」

……匂い?ああ。この子獣人と人間のハーフだったわね。匂いにも敏感か。


「はい!お待ちどう様です!」

「……。」

銀貨をピンと指ではじき渡し、クルリと背を向け帰ろうとする。

「姉御!待ってお釣り!」

「……いらない。」

「それにこの肉ブラックホーンラビットだから結構な値段で……」

「…いつかまとめて渡して。」

「そんなことしたらウチが破産しちゃいますよ!」

「………。」

本当に真面目な奴だ。他の店だと平然と10倍の値段で売りつけてきたり、くすねてくるのに。

今はお金に困ったことなどないのでとっとと帰ろう。

後ろから『姉御ぉ—』と声が聞こえるが振り向きもせずに帰る。



少し歩いた所で。



・・・・・・・・(ヒソ ヒソ ヒソ)


・・・・・・・・(ヒソ ヒソ ヒソ)




こちらを見てヒソヒソと耳障りな声が聞こえる。


その声のする方を見つめる。

声の主がこちらが見たことに気づいた。


いいつも通りに。

モンスターを狩る時のように。


殺気を込めて睨みつける。



そいつらが青ざめるのを確認して再び歩き始める。



あぁ。とても愉快だ(・・・・・・)



とてもとても。




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