〜お爺さんと薬草採集〜
人間の五感の一つ「嗅覚」の役割は、
危険予知…生命に危険を及ぼすものを探知
食料検知…腐敗・口にした過去の記憶の確認
異性探知…体臭で確認
異性探知なんかは、イケメンとすれ違った瞬間、同性も思わず振り返ってしまう「匂い」の力。記憶に残る美女は、良い香りを印象に持っているのではないかと思う。
香りがしていたらそのイメージと一緒に脳に強く印象付けられるそうだ。
匂いをかいだ途端、その匂いに関連付けられた過去の風景が、季節感とともに鮮やかに脳裏に蘇ってくるそうです。
身近でいうと賞味期限のちょっと過ぎた食材を匂いで判断する事があるのではないか?
「おぇ…この草くさい…。」
おっと、こんな駄洒落を言う為に草をちぎって嗅いだ訳じゃない。
――――
お爺さんに襟元を掴まれて砦を通り、
森まで連れてこられた。
これからポーションの材料の薬草を収集するらしい。
数十分歩いたところでお爺さんが座り込み、ギザギザの葉で少し大きいヨモギの葉のようなものを自分に差し出し、
「こいつが薬草の匂いだ!お前も探せ!」とむせてしまうような青草い匂いを嗅がされ、
「一束できたら持って来い!」
その草を持たされて薬草探しをする事になり、
「おぇ…この草くさい…。」
こんな駄洒落を言いながら草をちぎって嗅いでいるのだ。
「けどこれじゃないか…な?」
わからないよこんなん…。
全部草の匂いだよ……。
……この見た感じヨモギみたいな葉を持っていけばいいか。
――――
よし!とりあえず一束できた!
お爺さんところに持って行こう。
遠くにいるお爺さんに声をかけながら歩み寄る。
お、お爺さんもう籠の半分くらい集めてる。すげ。
「すいませ〜ん!」
「あん?」
ムッとした顰めっ面でこちらを向く。
「持ってきました〜!」
ズンズンと草を掻き分けこちらに向かってきて、
持っていた杖で頭を叩かれる。
「痛ー!なにするんですか!」
「森で、でっけー声だすな!」
なんだそれ?そんな事で叩く事ないじゃないか!と言うとまた叩かれそうのでやめる。
お爺さんは持っていた一束を受け取り、すんすんと鼻を動かすと、
草の束を顔面に投げつけられる。
「げほ!げほ!何するんですか!?」
「おめぇ…見ただけで選んだろ。これは腹下しの草、これは毒草、あとは雑草だ。」
「うぇ!?で、でも同じ見た目ですよ!?」
「バカタレ!見ただけでわかるんだったら誰にでもできるわい!」
それもそうだ。
「わかったらさっさと探せ!」
「う…。はい…。」
でも匂いでって言ったってなぁ…。
ガザッガザッ
ん?
なんか変な音が……
「ビギッー。」
30cmものさしを超えるようなデカイいも虫がウネウネと動いていた。
も、もしかしてお、お爺さんが大きい声を出すな、って言ってたのって……
そうだよなぁーこの世界モンスターいるんだもんなー。
「うぎゃああぁぁぁぁあ!」
自分は悲鳴を上げて尻もちをついてしまった。
男が虫くらいで情けないとはお思いでしょうが、こんな大きさの虫を見たら絶叫しますよ!
「ギッー!」
デカイいも虫は俺に向かって口から糸を吐き出してきた。
「わぎゃぁ!糸が!糸が!」
糸は足に絡みつき逃げようにも逃げられない。
うぁ!近づいてきやがった!
「あ、あっちいけ!」
地面に転がってる石や枝を投げつける。
が、そんな攻撃もろともせずに距離を詰めてくる。
「ビギッー!!!」
ゼロの距離まで接近する。
「ひぃ!」
怖くなり目を瞑る。
ヒュンッ
何かが風を切る音が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。
いも虫に見たことのある杖が突き刺さっていた。
「うるせえと思ったら…おめぇかい…。」
後ろの方からお爺さんが顰めっ面でこちらを見ていた。
結局、俺の薬草収集の結果は0に終わった。
――――
周りの景色が赤く染まっていく帰り道、
意気消沈している自分にお爺さんが話しかけてきた
「おめぇ、なんで家を出たんだ?」
「え?」
「なんでニホンとかいう所から出てここに来たんだ?その感じだと、いい暮らししてたんじゃねえか?」
「あぁ…え〜と……」
自分はここまでの経緯をはなした。
「……なるほど魔法で飛ばされて、襲われて、助けられて……か。ポーションを作って恩返し〜ってのは助けてくれたそいつに返しいってことか。」
「はい…どうやって帰るのかもわからないので助けられた恩だけでもせめて返したいと考えていまして。」
「はん!なるほどな。」
「……すいません。全然お役に立てなくて。」
「…はん、全くだ。」
「あと、目が悪いから精製は大丈夫なんですか〜とか生意気な事言って。」
「全くだ。こんなに使えんとは思わなかったぞ。」
「ほ、本当にそうですよね…グスッ…本当に申し訳ありません。」
泣いちゃダメだって、自分が情けなさすぎるからって、
「おめぇ…まだポーションの精製はこれからなんだから弱音吐くんじゃねえぞ!」
え?
「もうやめろとかじゃないんですか?」
「ああん?もうへばったのか!?まだまだやめさせねえぞ!」
まだチャンスはあるのか…
「は、はい、頑張ります!えっと……お爺さん?」
「……ルメディ・キャディ」
「はい?」
「俺様の名前はルメディ・キャディだ!ディディって呼べ!」
「あ、はい!…えっと…じ、自分は浦田遼です!よろしくお願いします!
…ディディ師匠!」
「……。」
ディディ師匠は黙ったかと思うと
「誰が師匠だ!」
そう言って杖で叩かれた。
初めて叩かれた時よりもやさしい気がした。
爺さん→お爺さん→師匠!