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面白さを求めて

2.面白さを求めて


「結局うまくいったんだな」

「ええ。机の上に参考書やらノートやらをそのまま放置していたのも功をそうしたわね」

「それはもう片付けたんだよな?」

「ノートは学校に持ってくるから鞄にいれなきゃ仕方ないじゃない」

「参考書は?」

「……」

俺こと小浜誠は次の受講する教室までの移動中に、たまたま会った友人、敦賀林檎と先日俺が協力したことのその後の首尾を歩きながら聞いていた。

残ってるらしい片付け以外は上々のようで安心した。

もう既に慣れた日常が戻ってきた。

「じゃあ、あたしここだから」

突然林檎がそう言ってすぐそばにあった教室へと入っていく。

それを見送ると、俺も自分の教室を目指す。

報告以外は何も言われなかったことを考えれば今日は何もないのかもしれない。だが、たった今片付けが終わってないことが判明したので、手伝わされるかもしれない。そんなことを考えつつ俺は歩いていたが、廊下に設置されている廊下に座っていた男子の集団に一人、知り合いを見つけて思わず立ち止まった。

「はいブラックジャック」

どうやらトランプをしているようだ。

「また負けた…」

どうやら負けたらしい学生は頭を抱えていた。一方勝った方の学生、八島幸雄はニコニコと笑っていた。

この時俺は幸雄が林檎達以外の生徒と一緒にいる姿を初めて見たので、かなり新鮮であった。

俺にとって八島幸雄という人間は林檎か瑞穂と一緒にいる事が多いというか、一人でいることもあまり見ない。だが、これまで他の人と一緒にいるところを不思議と見たことが無かった。

「じゃ、時間的にこれで終いかな」

ゲームを見ていたらしい一人がそそくさとトランプを片付け始め、他のメンバーも散り散りに去っていく。

そこで幸雄と俺は目が合った。

「やあ」

幸雄はいつもと変わらない挨拶をする。

「トランプか」

「うん、ちょっと面白そうだったからね。一回だけ混ぜてもらうつもりだったんだけど、気付いたら結構やり込んでた」

「そ、そうか…」

大抵幸雄の行動理由は決まって『面白そう』だ。ここ数か月を見てそれははっきりした。といってもその基準は全く分からないのだが。

少なくとも林檎達の行動は『面白い』に該当するらしい。

「トランプは得意なのか?」

「それはどうだろうね。運という要素も強い所があるし、その内容によっても大きく差異が生まれるからね」

「それはそうだ」

「ただゲームによってはその駆け引きで楽しめるものもあるから割と好きではあるけどね」

「そうなのか」

「駆け引きね…」

案外そのあたりに基準の解答があるのかもしれないが、具体的には分からない。しかし考える暇を与えず、チャイムが鳴り響いた。

「じゃあ」

幸雄はそれだけ言うと教室に向かっていった。


それ以降授業が終わるまで幸雄のことを考えることはなかったが、放課後に入ると突然幸雄からメールが入った。

どうせ林檎の指定した場所の連絡だろうと思っていたが、いざ開いてみると以外な事に今から遊べないかというメールだった。意外すぎて真剣に戸惑った。


「で、遊ぶって何するんだよ?」

「まだ考えてない」

正門に集合した俺達はひとまず駅に向かって歩いていた。俺も幸雄も電車で通学しているからだ。だが、人を呼んでおいて何も考えてないと言われたことに内心でショックを受けつつ歩く。こういう所は林檎に通じるものを感じる。

「どうするんだよ…」

「そうだね…」

と、俺はそこで現在地のすぐ近くにゲームセンターがあることを思い出した。

「ゲーセンでも寄ってくか?」

「ん?」

「もしかしてゲーゼン行ったことなかったりするか?」

「実はそうなんだ」

これはちょっと意外だった。普段から何かにつけて面白さを求める人間が割と面白いものがあるゲームセンターに言ったことがないとは…。

「そうか。興味がないならやめておくか?」

「いや、行く機会が今までなかっただけなんだ。折角だし行ってみよう」

「じゃあそうすかるか」

幸雄の住む霧滝にはゲームセンターがなかったのかもしれないと考えつつ、交差点を曲がりいつもとは別の道に入ってゲームセンターに向かった。

学校一帯はそこまで大きな都市ではないため、さして大きい店舗ではないが、大抵授業終わりの学生や近所の高校生が通っている。いつ来ても遊べない筐体があるくらいだ。だが、幸い今日はそんなに混んでいなかった。

「初めて来たよ。中はこんな感じなんだね」

入ってすぐに中を見渡した幸雄がそう感想をもらした。

場所によって差異はあるが、まあそんなことを解説する必要はないだろう。

「なにをする?」

「なにをするなんて聞かれても何があるかが分からないよ。ああ、クレーンゲームとかプリクラくらいなら分かるけどね」

「ああ、そうか」

初めて来た人間に言う言葉としては適切ではなかったことに反省し、店内をとりあえず回ってみることにした。

俺もしょっちゅう来るわけではなく、お金に余裕がある時に少しだけ寄るだけだ。

このゲームセンターには結構な種類のゲームがある。クレーンゲーム、音楽ゲーム、格闘ゲーム、ビデオゲーム等々だ。やり方を知っているものは簡単に説明しているが、一体何をチョイスするのだろうか?

「これにしよう」

突然幸雄の足が止まった。そこにあったのは実際に踊る形式をとる音楽ゲームだった。

「マジで?」

「これはやったことないんだ」

「ま、まあな」

正直に言おう。これはかなり恥ずかしい。以前別のゲームセンターでこのゲームをプレーしている人を見かけたことがあったが、かなり他の人の目を集める。そして結構ハードらしい。

「やったことがないのでも全然構わないが、なんでこれなんだ?」

念のために理由を聞いておく。

「対戦出来そうっていうのが大きいけど、なんだか面白そうじゃない」

理由が予想通りの答えだった。

まあこれくらいの数えるほどの人間しか店内にいないのなら大して羞恥もないだろうから大丈夫だろう。

荷物と邪魔になりそうな上着を置いてコインを筐体に入れた。


「ま、負けた…」

数曲踊って俺の体は燃え尽きていた。両手を床に衝きつつ空いた時間を見つけたら少しは運動をするようにしようと心に誓いつつ、見上げると二曲目であっさり慣れてしまった幸雄を見上げる。

「慣れたらつまらなくなるな…」

ぴんぴんしていた。

「次は何をする?」

少しは休ませてほしかったが、俺は立ち上がり次の筐体へと歩き出した。

次に幸雄が選んだのは格闘ゲームだった。

これもやったことのない機種だったが、それは向こうも同じであるし、お金を入れる前にコントローラーを弄っている所を見るとかなり戸惑っているようだ。むきになることはないが、さっきみたいに体力は使うことはないだろう。まあ泥試合になる可能性も否めないが、そこそこいい試合が出来るだろう。

と、思ったが二ラウンド目に入るころにはボロボロになっていた。

「な、何故なんだ…」

いや、理由はなんとなく察してきた。幸雄はものすごく器用すぎるのだ。多分そこに慣れるまでの差が生じたり、自分なりにアレンジを加えるか否かの差に繋がっていたりする。正直所見の物は勝てる気がしなかった。

あと、やたら運が良いのも差を生んでる気がする。これはいささかオカルトじみてる気がしなくもないが、選んでいたキャラクターが操作しやすいものばかりだった。昼休みにブラックジャックを出していたのもやや強引ながらうなずける。

「もう少し楽しめたらな…」

本人はそんな感想をもらしていた。

俺は内心で少しだけ悔しさを滲ませつつ移動した。次に幸雄が選んだのは俺もやったことのあるレーシングゲームだった。

まあ、これなら幸雄が慣れるまでは勝てるだろうと、大人気ないことを自覚しつつも考えながら自動車の運転席を模した席に座り、コインを入れた。

ゲームが始まり、細かな設定をしてコースに入る。俺はスタートと合図とともにアクセルを強く踏み込み前へ出る。

当然慣れていない幸雄は差がここで生まれる。

最初は勝ったな。と初心者相手に情けないことを考えつつ走らせる。このレースはこのまま逃げ切った。

二レース目に入ると若干リードを許してしまった。たった数分で慣れるとは今日何回見ても信じられないが、幸雄は平然とやってみせてる。正直末恐ろしい。

ゲームの筈なのに、本当に追い詰められている感じがする。

幾度と抜いたり抜かれたりして縺れたりして、結局負けた。


「面白かったよ」

「そうか」

お互いの財布から小銭が消失し、ゲームセンターを出た所で幸雄は満天の笑みを浮かべていたが、俺はかなり疲れていた。ゲームで寿命縮めた感じだ。

「やっぱり、こういうゲームはお互い全力出した上でいい勝負出来た方が面白いからね」

なるほど、正々堂々でいい勝負が幸雄の『面白い』の基準だったわけだった。

「次は負けないぜ?」

「負け惜しみにしか聞こえないよ…」

「……」

「そうだね。次は将棋でもしようか」

既に陽は半分地上から見えなくなった頃、俺達は再び駅に向けて歩き出した。

今日は友人のことも理解出来たし、なによりこういう何気なく過ごせる時間が俺は『面白い』と思う。

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