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賑やかなキャンパス

序.賑やかなキャンパス


その日俺は休講によって生じた一時間半の暇を、宿題として課せられたレポートを作るため、大学内のフリースペースでひたすらにパソコンに向かって文字を打ち続けていた。

幸いレポートの内容となるテーマはつい先日の授業でやった事であったのに記憶に新しく、また細かくノートに書いていたので特に困ることなく進んだ。

このペースならこの時間に終わらなくても期限に十分な余裕をもった上で完成させられるだろう。

そう一安心した時にパソコンのすぐ隣に置いていた携帯がメッセージの着信を告げた。

キーボードから手を離してメッセージを開き、ざっと目を通すと一つ溜め息をつくと、レポートを保存してからそっとパソコンを閉じた。


歩いて別の館の食堂に辿りつくと、近づいてきた友人に笑顔を見せてから口を開く。

「状況は?」

友人、八島幸雄はわざとらしくかけているメガネのズレを直してから返した。

「全然余裕だよ」

「了解した。じゃあ失敗する前に始めますか」

「だね」

俺はさっさと購買に向けて歩きつつさっき届いたメッセージを思い出す。

『購買で10個限定のメロンパンが売り切れる前に4つ買っておくこと。お金は後で渡す』

今日はパシリかと心の中で一言嘆いてから、少し思い出す。俺こと、小浜誠がこうなった理由を。


あれは大学最初の期末試験の直前だったか。大概の学生はレポートか期末試験勉強にいそしんでいる頃だ。自慢には到底できないが、友人の多い方ではない。もっとも話せないわけではなく、ただそこまで深く付き合う人間が少ないというだけだ。

ただその日は授業後の今から昼休みという時に同じ授業を受けていた学生に話しかけられたのがきっかけで、全てが始まった気がする。

「君…、小浜君だっけ?」

話しかけてきたのは他の授業でも顔を見る女の子、春江瑞穂だった。

もちろんこの時点では顔はともかく名前まで憶えていなかったが。

「小浜で合ってるけど、何かな?」

瑞穂はちょっと恥ずかしいそうな顔をしつつ、黒板を指しつつ口を開いた。

「最後の所、教えてくれないかな?」

どうやら教授の説明では理解できなかったらしい。

なのだが…。

「他の二人に聞かないの?」

瑞穂のそばには二人も友人がいたのだ。

「えっとそれが…」

瑞穂が言葉を濁そうとしたが…。

「分からないから見ず知らずのあなたに聞いてるんでしょ!?」

と、俺はこの時初めてみた女子生徒に逆ギレされた。この時は予想外過ぎて唖然とした。

しかし誰だって話して一分足らずで当然逆ギレされれば唖然とするだろう。といっても今考えればテスト直前なのに分からない所があってピリピリしていたという理解はできるのだが。

それでもその剣幕に圧倒された俺は教室に他に誰も残っていなかったので、黒板と残されていた文字を使って三人に解説した。

幸い昼休みに突入していたので時間はあった。

正直空腹ではあったが、それでもなんとか教えきることが出来た。

「結構教え方上手いじゃない」

教え終わった直後、逆ギレした女学生がさっきとは打って変わって笑顔でそう言った。

「そりゃどうも」

突然の心変わりに私は戸惑ったがかろうじて言葉は紡げた。

「あ、そういえばあんた名前は?」

今更思い出されたように言われた。

「小浜だ、小浜誠」

そう名乗ると向こうも。

「あたしは敦賀林檎。宜しくね小浜君」

「宜しく」

これが残りの学生生活を無茶と隣合わせにいる敦賀林檎との出会いだった。


「ま、授業中だから流石に楽か」

「こっちも準備中だけどね…」

「並んでおけば流石にいけるだろう」

俺と幸雄は食堂の一角にある売店に並んでいた。言われたメロンパンを確保するためだ。

今日は割と簡単であったが、あの後林檎と再会した後から彼女らと行動を共にするようになってからかなり無茶をするようになっていた。

今日でもう一か月は経過していたが、俺を含めた四人のメンバーの課外活動というのは多岐に渡っていた。

こんなパシリ同然のもあれば、学校付近の電柱で迷い猫の張り紙を見つけた時は数日間本気であ探したりした。

正式なサークルというわけではないが、かえってそれが楽しいのかもしれない。

ただ、林檎の目的というものは加入したあの日からずっと考えているが、一向にわかる気配がしない。


授業後に内容を教えてから数日経った昼休みの事である。

その日は午前と午後とで受講する授業の教室の号館が変わるため、二限目の授業が終わった直後に屋外を移動していた。一号館と三号館を結ぶ通路の間にベンチがあるのだが、そこで何やら本を見つつ唸っている林檎らを見つけたのだ。

復習だろうかと思った俺はここは素通りすることにした。別に関わるのが嫌だとかそういうのはない。復習なら邪魔しては悪いし、もしまた解説を頼まれたとしたら自分も受講している授業なら構わないが、全く知らない科目であったなら到底出来るわけもない。という考えに至ったからである。

幸い彼女らは本に目が行っていたため私には気づいていなかった。

そのままその場を離れようとした俺であったが、幸か不幸かそこで本から目線を上げた幸雄と目線が合った。

「やあ、君はこの間の…えっと…」

そこで幸雄の言葉が濁った。当然だろう、何せあの日俺も幸雄も自己紹介をしていなかった。この時俺も幸雄の事は瑞穂と一緒にいた男子というくらいの認識くらいしかなかった。仮に私から声を掛けてたとしても名前の辺りで語尾を濁していただろう。

しかし、幸雄のそのセリフで林檎と瑞穂は私に気づき振り向いた。

「どうも。小浜誠だ」

「わざわざ名乗ってもらって悪いね。あ、僕は八島幸雄だ」

さっきから散々幸雄の名前をあげているが、実際に知ったのはこの時初めてである。

「宜しく。で、さっきからお悩みのようだったがまた授業で分からない所があったのか?」

俺は興味本位で聞いてしまった。だが、答えた林檎の口から出たのは思いもよらない言葉だった。

「違うわよ。宝の地図よ」

「…はい?」

この時俺は理解が追い付かなった。だが一つの可能性に考え至った。

「あ、宝ってどこかのお店か?」

「いや、読んで字が如くの意味よ」

本気なのだろうか。大学生が宝探しをするなんてどこかのイベント以外では聞いたことがない。

「確認だがそれはどこかのイベントか?」

「まさか」

「ちょっとその地図を見せて」

「どうぞ。どうせあたし達ではちゃんと読めなかったし」

そういうと林檎はベンチに置いていた本…地図帳を渡してきた。

中身を確認したら、学校から数駅離れた場所だった。内容自体は至って普通の現代の地図で宝らしきものは全く窺えない。

ペラペラと数ページ捲ってみると一枚の紙が挟まっていることに気付いた。それをよく見てみると筆で書かれたような古い地図で、所々黄ばんでいる。地図自体は細かく書かれているようだが、手書きだからか一目ではどこの地図なのははっきり分からない。もっとも私は全国の地図が頭に入っているなんてことはないので、全く知らない場所ならお手上げではあるのだが。

「これ、どこの地図かっていうヒントはあるか?」

「霧滝らしいわよ?」

「らしいって…」

曖昧なのはひとまず置いておいて霧滝とはさっきの地図の辺りだ。しかし特定には大きな問題がある。霧滝一帯は近年開発されて姿が大きく変わっていることだ。手書きの地図がいつのものかは分からないが、十年以上前に書かれたものなら、今の地図では見つけるものは到底難しいだろう。おそらく林檎たちが唸っていたのも姿が大きく変わっていたせいなのではないだろうか。

だが、その中でも不変のもだって当然ある。例えばお寺や神社は移築している可能性はあるが、なくなることはほとんどない。そういったものを今と過去の二つの地図を照らしせばヒントは得られるのではないだろうか?

しばらく見つめていたが、一つの可能性に気付いた。

「多分ここだろうな…」

地図帳を三人に見せて、更に指で具体的な場所を示す。

「道路?」

確かに示した場所は道路だ。

「よく見ろこの古い地図は左端に細い線が描かれている。他は太目の線が多いのに、ここだけ細いとというのは他の線とは別のものを表している可能性が高い」

「つまり?」

「川だ。幸い似たような流れの川がある」

「けど、この川短くない?」

今の地図を見た瑞穂がそう呟く。確かに現代の地図では同じ川とは思えないくらい短くなっているのだ。

「おそらく埋立だ。多分道路の下になってるだろう。だから道路はかつての川とほぼ重なる筈だ」

「なるほど…。あんた教え方上手い上に、考察も上手いのね」

林檎が感心したように言う。

そうだろうか、頭の片隅で考えつつ地図を林檎に返す。

「なんの地図かは知らないけど、頑張って探したら?」

「あんたも来るのよ?」

「はい?」

しれっと言われた言葉に理解が追い付かなかった。

「今の私達にはあんたみたいな頭脳タイプが必要なの」

「頭脳タイプって言われても…」

「宝探しには興味ないかしら?」

「そもそも宝って一体なんなんだ?」

「さぁ」

「じゃあこの地図は一体…?」

「祖父が持ってたの。ずっと宝の地図だって言ってたわ」

そこで林檎は一瞬空を見上げてから、地図を見た。

「祖父が亡くなった時、あたしがこの地図を貰ってた時思ったわ、見つけだすってね。だからこの大学を選んだの。すぐに探し出せるようにね」

そんな理由でこの大学を選んだのか。と内心思ったがそんなことはおくびにも出さずただ私は林檎の言葉を聞いていた。

「実際ここに宝があるなんて確証があるわけでもないし、祖父のことだからさしたる価値がなさそうなのは分かってるけど…、それでも探してみたいのよ…暇つぶしに」

「おい、説得力が最初から脆かったのに、最後の一言で自分からとどめを指して崩したぞ…」

それどころか亡きお祖父さんが聞いたならちょっとショックを受けそうな言葉まで含まれていた気がした。

「よくこんなんで手伝おうと思ったな…」

私は幸雄と瑞穂にそう声を掛けた。

「僕は霧滝住まいだし、あと面白そうじゃないか」

「霧滝ならなんで分からなかったんだ…」

「うーん、普段川なんて見ないから盲点だったかな」

「……」

「私は林檎ちゃんの部屋が隣同士で仲がいいからつい付き合っちゃうの…」

瑞穂がお人よしというのはよく分かった。

「あんたも行くわよ」

どうやら確定事項のようだ。

「まあ、テスト後なら構わないが…」

「決まりね」

この時の決断は結果的には後悔は残らないのだが、この時だけは後悔があった。

次の授業で前の方の席を取るために早く移動したのにそれが叶わなかった事。そして昼食を取れなかった事である。


そんなこんなで巻き込まれたのだが、実際に行動に移ったのはテストが終わった後だった。

割愛するが、テスト中はテスト中で期限ぎりぎりのレポートを手伝わされたり、一夜漬けに付き合わされたり、おかげで俺がテスト勉強がおろそかになりかえたりと様々な事があったが、大学に入って初めてのテストを切り抜けた。

テスト終わった翌日、霧滝駅に集められた。

携帯のメールアドレスはテスト二日目あたりで交換していたので、打ち合わせとかは楽になっていた。

ただ、朝七時という時間に集められるのは回避出来なかったが。

しかし、その時間に時間を指定した本人と瑞穂は来なかった。

俺と幸雄はその場でしばらく待ってみたが何故だか二人に連絡がつかない。二人は同じマンションで暮らしているから集合場所まで一緒に行くという話だったが、どちらにも連絡がつかないというのはあまりにも不可解だ。

ひとまず一時間待ち続けたが、なんの音沙汰もなかったため、俺は大学へ向かった。

二人の住んでいるマンションが大学のすぐ近くだからだ。


場所はレポートを手伝う時に一度部屋まで行ったことあったから知っていた。二人の住むマンションは大学の正門から七分という好立地で、自宅から電車で一時間という時間を掛けて通学している俺にとっては羨ましいことこの上ない環境である。まあ、もっともその分料理やら洗濯やら自分でしなければならないのだろうが。

エレベーターで八階まで上がり、奥まで進むと目標としてた部屋の玄関が大きく開け放たれた。

出てきた…というより飛び出してきた人物はそのまま隣の部屋へ駆け込もうそしていた。

「連絡も入れずに何してるんだお前は…」

本当に俺に気づいてなかったのか、林檎はビクっと普段見せないような反応を見せてから、こちらを振り向いた。

しかし今度は俺が驚かされた。なんと林檎は泣いていたのだ。

「おい、どうした!?」

思わずそう言って駆け寄ったら、声を震わせつつかすかな声で、

「み、瑞穂が…瑞穂が…」

「なにがあった?」

それ以上聞いても林檎は何も言えないようで、うつむいて震えているばかりだ。

とりあえず一歩も動かなくなった林檎の手を引き、瑞穂の部屋に勝手ではあるが入る。正直背徳感は大きいが林檎がこんなになるほどであることを考慮すればただ事ではないだろう。

このマンションはワンルームである。玄関で靴を脱いで水回りが集中している場所を抜ければ一番広い所となるが、その広い場所の片隅に置かれたベッドの上で瑞穂は寝ていた。

ただし、息は荒く顔は紅潮させている。一見で高熱であると理解出来た。

「いつからだ?」

「昨晩…だと思う」

テスト最終日は土曜日だった。カレンダーなんて見ていないが間違いなく今日は日曜日だ。つまり救急病院しか営業していない。救急車呼ぶべきか考えるが、おそらくそこまで大事にしたら後々瑞穂本人が嫌がるだろう。じゃあとりあえずとるべき行動は何か。

「冷却ジェルシートとかお前の部屋にないか?」

「え…」

林檎は理解出来ていなさそうだったが、俺は言葉を続ける。

「とりあえずこのままはまずいから打てる手は打とう。ないなら氷を使って氷嚢にするのも一手だが…」

「探してくる!」

『打てる手は打とう』の所で急に覚醒したように体の震えが止まり、同時に言葉の震えが消えはっきりと言葉を放つと、部屋を出ていく。

それを見送ると俺は携帯を取り出し、霧滝で待ってる幸雄に電話を掛ける。

幸いすぐにつながった。

『そっちはどうなってた? 二人とも寝坊だった?』

電話の向こうからは幸雄の呑気な声が聞こえてくる。

「それなら良かったんだけどな。生憎春江が高熱だ」

『そうだったんだ…。大変だね』

「全くだ。敦賀まで混乱してたから不安しかないな」

『で、僕はどうしたらいいの?』

「察してくれて助かる。すまないが薬と消化によさそうなものを買ってきてくれ。お金は後で払う」

『了解』

そういうと通話が終わった。

「…お…ばまく、ん?」

かすかに声が聞こえたので目線を下へ向けると瑞穂が目を少し開けていた。

「あ、悪い起こしちゃったか…、それから勝手に上がって悪いな…」

俺がいることが現実であることを認識したようで、目をはっきりと開ける。ただ起き上がるのはつらいようで、寝たままでこちらを見ていた。

「わざわざ来てくれたの?」

「集合時間にも連絡なかったから、おかしいと思って様子を見に来た」

「あ、ごめんなさい…」

「状況が状況だから仕方ないだろ。気にするな。今はゆっくり休め」

「うん」

「今八島と敦賀が何かしら持ってくるだろうから」

「林檎ちゃんは…?」

「今自分の部屋で冷却ジェルシートを探してる」

「大丈夫なの?」

「というと?」

「夜からずっと私のそばで泣いてたから…」

「何があったんだ…」

「分からないわ…」

「念のためにちょっと様子見てくる。安静にしてろよ」

「ありがとう」

俺はその言葉を聞くと部屋を出た。


部屋を出たといってもすぐ隣の部屋だ。

扉は開け放たれていたので、そっと中をのぞいてみると、物音が絶えず聞こえる。

「敦賀、入るぞ」

そういって声を掛けても、これといった反応が返ってくることはなかった。

女子の部屋に連続で本人の許可なく入るのは正直背徳感が強かったが、奥へ入った。間取りは当然隣と同じだ。

瑞穂の部屋に入った時と同様に奥までいくと、そこにあったのは救急箱やらなにやらを必死でひっくり返している林檎の姿だった。

「冷却ジェルシート…冷却ジェルシート…」

「なければ氷でいいって言ったろ…」

戯言のような言葉に思わず突っ込むと、振り返った林檎は驚いたような顔をした。

「あんたいつからそこにいたの!?」

「来たのは今だけどな」

「どうやって入ったの?」

「どうやってもなにも開けっ放しだったぞ…」

どうやら本気で瑞穂の病気に同様していたようだ。

「ちょっと落ち着けよ…」

「え、ええ」

「とりあえず、氷だ氷」

絶対に落ち着いてる振りを見せている林檎に一旦背を向け、キッチンを通った時に場所を確認した冷蔵庫へと歩く。これ以上本人の許可を取らずに行動するのは嫌なのが本音ではあるが、今は緊急事態だから仕方ないと、言い聞かせつつ冷蔵庫を開ける。多分今林檎にやってもらったら何かしらのミスでタイムロスする気がする。

林檎の冷蔵庫は幸い水さえセットしておけば勝手に氷にしていてくれるタイプで、既に氷が準備されていた。

「これを入れる袋とかないか?」

振り向いて林檎に問う。受け答えなら大丈夫だろうと思ったからだ。

「袋? ああ、ゴミ袋なら…」

「おい!?」

全然大丈夫ではなかった。というより混乱しすぎではないだろうか?

「冗談よ。あんたのすぐ後ろにビニール袋があるわ。それなら使ってくれて大丈夫」

「そっか」

言われた場所からビニール袋を一つ取り出して冷凍庫から氷を取り出し始める。その作業をしつつ後ろの林檎に声を掛ける。

「なんでそんなにパニクってるんだ? 看病とか初めてだったのか?」

直後に林檎が暗くなったのを雰囲気で感じ取った。冷凍庫の扉を閉めてから振り返った。

すると黙ってただうつむいている林檎の姿が目に入った。

どうした、と言おうと思ったが、なぜか口が開かなかった。

少し物音ひとつしない状態が続いたが、少し落ち着いたのか林檎が口を開いた。

「昔ね、おじいちゃんに宝の場所まで連れていってって頼んだことあるの」

突然始まった例の宝の話にちょっと戸惑ったがただ黙って次に言葉を待った。

「頼み自体は以外と快諾してくれたわ。だけどね、その約束した前日に熱をだして…」

そこで一気に顔が暗くなった。

「約束した日に亡くなったわ」

「……」

言葉を失った。

そして今日は隣の部屋で瑞穂が熱を出している。ものすごい偶然だ。

「瑞穂が熱を出したのはあたしのせいなんじゃないかって…」

「それはないだろ」

思わず突っ込んでしまった。確かに事情を考えたら精神的にはやられるだろうが…。

「それはどう考えたって偶然だろ。単なる偶然だ」

とりあえず、偶然だと思わせよう。それで一度落ち着かせる事が出来ると思いたい…。

偶然偶然と連呼しているが、それ以外頭に浮かぶものはなかった。

しかし、すでに林檎は落ち着いていたようである一点を見つめていた。

「氷…」

「あ…」

まだ溶けることはないが、早く瑞穂の所に持って行った方がいいだろう。

パッと携帯を開き時間を確認する。なんと十分も経っていた。

「あ、あたし携帯充電しなきゃいけないんだった…。忘れてた、あんたのせいで」

「なんで?」

「さっきあんたに呼び止められたから」

そんな感じには見えなかったが、いつもの調子に戻ってきたみたいなのでそういう事にしておく。

「じゃ、瑞穂の所に戻りましょ」

「ああ」

「小浜君…いえ、誠君ありがとうね」

「…おう」


「余裕綽々だったな」

「早めに並んでて正解だったね」

指定されたメロンパンを購入した俺と幸雄は食堂に机に座ってメールを送った張本人の到着を待った。

「ねぇ誠、さっき気になったんだけど、さっき待ってる間に何か書いていた青い小さなメモ帳はなんだったの?」

「ん、ああ…。レポートで使えそうな比喩を思いついたからメモっただけだ」

「提出近いんだっけ?」

「まあな」

実は嘘だ。今俺の胸ポケットに入ってるメモはこの活動の全部をメモっている。この面白い活動を記録していきたいと考えているからだ。

「ちゃんと獲得したの?」

「ようやくお出ましか」

そこに林檎と瑞穂が来た。メロンパンの入った袋を掲げるとそのまま強奪された。こんなことにももう慣れてしまってる自分が悲しい…。

「はい」

強奪した袋から一つメロンパンを取り出すとそのままメロンパンを全員に回した。

「さあ、食べましょう」

といってさっそくメロンパンを食べ始めた。

こんなことでも後でメモっておこうか。そんな事を考えつつ俺は今日も日常を満喫している。

投稿間隔空いてしまうと思いますが、もしよろしければ今しばらくお付き合い下さいませ。

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