表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/41

9話 五十嵐家

五十嵐家の居間に、水面夫婦と俺の家族が集合する。

俺が家を出て行った後に、母さんは父さんを呼んだらしい。

なので、父さんも居間にいる。


……酷く震えながら。


「……瑠璃さんと貫太さんは危ない存在じゃないんだから、そんなに怯えなくても……」

「お、怯えてなど、いにゃい!」


……。


「……いない!」

「言い直すほどのことでもなくない!?ああもう、兄ちゃんもなんとか言ってよ……」

「あはははは!隆、ナイスツッコミだ」

「兄ちゃん!?」


隆の鋭いツッコミに、思わず笑ってしまった。


「ま、この人たちは能力者だから、怯えるのも無理はないか」

「……この人『たち』?」


隆が怪訝そうな顔をする。

ああ、まだ説明していなかったか。


「瑠璃さんも能力者だよ」

「え?……えええぇぇぇえええ!?」


悲鳴に近い声を上げる隆。


「そこまで驚かなくても……」

「いや、驚くでしょ普通!自分の家に能力者が3人もいるなんて!」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ……。兄ちゃん、発見されてる能力者は世界に10人しかいないんだよ……?」


……なるほど。


「その考え方だと、能力者ってのはかなり珍しいものになるな」

「実際珍しいんだよ。一部の人たちの間じゃ『能力者と会えたら一生幸せに生きていける』なんて噂が流れてるんだから」

「う、嘘だろ……?」

「本当だよ。嘘だと思うなら、うちのクラスの能力者マニアを呼んでこようか?多分喜びと驚きで気絶すると思うよ」


考えてみたら、宝くじで一等が当たる確率よりも、能力者に会える確率の方が低いのだから、そういう噂が生まれてもおかしくはないな。


「そ、そろそろいいか?五十嵐」

「ああ、すみません、つい話込んじゃいました」

「で、では……ごほん」


咳をして、貫太さんは俺の母さんと父さん、それと隆に向かって頭を下げた。


「五十嵐──武彦君を殺そうとしたこと、それと、あなた方を不安にさせてしまったこと、本当に申し訳ありませんでした。全て俺の責任です。本当に、申し訳──」

「いいんですよ、水面さん」

「え……」


母さんが、優しそうに、しかしどこか悲しそうに微笑む。


「私たちは能力者ではありません。きっと、能力者の方にしか分からない感情というのがあるのでしょう。……能力者同士の戦いにまで、干渉はできません」

「母さん……」


そこまで考えていてくれたのか。


「でも、全てを許したわけではありません。自分たちの子供が殺されるかもしれないと思うと、本当に不安でした。……武彦、あなたにも言っているのよ?」

「……うん、分かってる」


親の気持ちは分からないけど、なんとなくだけど、分かる。

きっと、すごく怖かったのだろう。

すごく、心配だったのだろう。


「ごめん、母さん」

「……ちゃんと謝れたんだから、今回は許してあげるわ。武彦、命は大事にしなさいね?」

「……うん!」


母さんの言葉が、痛いほど身に染みた。


「いいお母さんね、五十嵐君」

「そうですかね。……そうですね、いい母親だと思っています」

「あら珍しい、褒めても何も出ないわよ?」


よかった、いつもの母さんの笑顔に戻った。


「じゃあ、そろそろお暇させていただきます。貫太、帰るわよ」

「おお、もうこんな時間か。では、失礼します……」

「あ、水面さん、ちょっと待ってください」

「はい?」


母さんが水面夫婦を呼び止める。


「よろしければ、お夕飯を食べて行ってはいかがですか?もうこんな時間ですし」

「すみません、子供がもうすぐ習い事から帰ってくるので、家で待っていないといけなくて……」


……え。


「子供いたんですか?」

「ええ。8歳の子供がいるわ」

「それなら、少し待っていてください」

「は、はい」


母さんが、台所へと向かった。


「そういえば、瑠璃さんと貫太さんは何の仕事をしているんですか?やっぱり、研究本部で働いているんですか?」

「まあ、そんなところだ。研究員じゃないけどな」

「え、じゃあ普段は何をして……」


研究員じゃないけど、研究本部で働いている?


「研究本部に来た依頼の中で、俺らの能力で出来そうな仕事を片っ端からやってるのさ」

「能力を使わないと解決できないようなことが起こった時に、研究本部に依頼が来るのよ」

「依頼、ですか……なるほど」


そんなシステムまであったのか、超能力研究本部。

そんな話をしていると、台所から母さんがやってきた。


「お待たせしました。これ、貰い物ですけど、よかったらどうぞ」


そう言って母さんが差し出したのは、お菓子詰め合わせの袋。


「え、いいんですか?」

「ええ。子供さんが気に入るかは分からないけど、もしよかったら……」

「あ、ありがとうございます!」


そう言って、瑠璃さんは深々と頭を下げた。


「お詫びに来たのに、貰い物をしてしまうなんて……このご恩は、必ず返します!」

「気にしなくていいんですよ。……子供さんを、大切にしてくださいね」

「はい!」


瑠璃さん、本当に礼儀正しい人だな。

貫太さんも、根はいい人だし、いい夫婦だよな。


それから少しだけ話をして、午後7時に水面夫婦は帰っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ