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第十能力者『円滑』  作者: イノタックス


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39話 『円滑』の真髄

始まりは零(ゼロスタート)』は、その右手で首を掴んだ。

確かに掴んだ。


目の前に突然現れた、


「お前……!」

「貴様……!」


──正太郎の首を、掴んだ。


「うおりゃっ!!」

「ぐっ……」


正太郎の右足が、『始まりは零(ゼロスタート)』の鳩尾(みぞおち)にめり込む。

さすがに効いたらしく、首を掴む手が緩んだようで、正太郎は解放された。

コンクリートの地面を蹴って、ひとっとびで俺の近くに着地。


「お待たせしました、五十嵐さん! ここからはおれも手伝います!」

「てつだ……? 俺、邪魔じゃないか?」

「いえ。……おれの心を読んでもらってもいいですか?」

「へ? あ、ああ。『円滑(スムーズ)』!」


始まりは零(ゼロスタート)』がうずくまって苦しんでいるうちに、言われるがまま、正太郎の心を読む。

──よかった、確かに立ち直ってる。さすがベイリーさんと第四能力者。


──じゃなくって。これって──『作戦』?

いやいや、こんな作戦は──。


「正気か……?」

「正気ですよ。おれはちゃんと『国土回復(レコンキスタ)』で精神を安定させてますから。これは──おれの頭脳で考え出した、あいつに勝てる唯一の筋道です」

「でも、俺の『円滑(スムーズ)』にそんな能力は……」

「五十嵐さん」


立ち上がる『始まりは零(ゼロスタート)』と俺の間に立ち、『始まりは零(ゼロスタート)』を見据えて、正太郎が言葉を発する。


「『始まりは零(ゼロスタート)』はおれがなんとかします。だから五十嵐さんは、五十嵐さんの能力を『進化』させてください。では、また勝った後に!」

「は!?」


『勝った後に』。

めちゃくちゃなことを言ってのける正太郎。

だけどその自信満々さに()てられたようで。


「まったく。……無茶言ってくれるぜ」


俺は、心の底からにやけていた。



正太郎が『始まりは零(ゼロスタート)』と肉弾戦を繰り広げているうちに、俺は能力を進化させようと試みる。

だけれども、どうやったものか。戦いの中で新たな能力を身に付けたことはあったが、それはあくまで『追い詰められたから』。今回は別に追い詰められていない。

ならばどうすべきなのか。


『真髄』。

ふと、その言葉が頭に浮かんできた。

新庄は自分の能力をその域にまで到達させていた。

それはきっと、戦いの中で進化したものではない。


自分の持つ能力の『限界』を引き出すという行為。

そこに至るには、一体何をすればいいのだろう。


──と、ごちゃごちゃ考えていると。


「五十嵐さん! おれの心を読んでください!!」

「っ! あ、ああ!!」


10メートルほど先で、何度殴られても殴り返す正太郎が叫ぶ。

再び『円滑(スムーズ)』で心を読む。


◆◆


『五十嵐さんの能力は、人と人、人と物を繋げる能力です』

『人と人を繋げる能力で、心を読んでいるわけです』

『ならば──いえ、こう問いましょう』



『幽霊っていると思いますか?』



◆◆


「──分かったぜ、正太郎!」

「どういたしまして!」


正太郎のおかしな質問で、俺は俺のすべきことを理解した。


「『円滑(スムーズ)』!」


叫び、能力を発動する。

発したのは俺。対象は──『幽霊』。

神様がいたんだ。幽霊がいたっておかしくないだろう。


『……五十嵐クン、もしかして』

「ええ、聞こえてますし見えてますよ。──ルークさん!」


ルークさんに繋いだのは、もちろん考えがあってのこと。

ルークさんは『能力を奪われずに』亡くなっていたから、もしかしたらまだ能力が使えるのでは、と思ったのだ。


──死者の声を聴く。

円滑(スムーズ)』の真髄その1、達成。


『ボクは何をすればいいかな?』

「空気中の水分を操って光を屈折させて、『始まりは零(ゼロスタート)』が俺を認識できないようにしてください。できそうですか?」

『モチロン。第一能力者の力を甘く見ないでネ!』


そう言うと、すぐに俺の目の前に水の膜ができる。

さて、ここからは賭けだ。


「『円滑(スムーズ)』! ……音たち、聞こえますか」


今度は対象を『音』に。

始めて話しかけたから、そもそも返答が来るか不安だったけれど。


『……ヘェ、僕たちの声が聞こえるの?』

「っ! ああ。早速だけど頼みがある」

『どんな頼み事? 聞いてあげる』


こそこそ話し、了承を得る。

さあ、ここからが『円滑(スムーズ)』の真髄、その2だ。


◆◆◆


「うわっ!」


始まりは零(ゼロスタート)』の拳がゴリラのものに変わり、おれは数メートル吹き飛ばされる。

いくら『国土回復(レコンキスタ)』で筋力を上げても、あくまで人間の限界まで上げられるだけ。ゴリラのソレには適わない。

だけど、すぐに回復し、立ち上がってもう一度『始まりは零(ゼロスタート)』の方を向く。


「……どこを見てるのかな、今はおれとの勝負に集中してもらわないと──」

「──第十能力者は、どこへ消えた」

「は?」


チラ、と背後を見る。

あれ、確かに五十嵐さんの姿が見当たらない。


「くはっ、くははっ! ……逃げたか、まさか完結の子供を置いて逃げるとは! どうだ、置き去りにされた感覚は!」

「テンション高いな、お前」

「当たり前だろう。俺から逃げられると思っているのが面白いからなぁ!」

「……バカだなぁ」


そんな人じゃないよ、五十嵐さんは。

まだまだ短い付き合いだけど、そんな簡単に戦いの場から逃げたりしないってことくらい、おれにもわかる。

もう一度殴りかかろうとしたところで、『始まりは零(ゼロスタート)』の身体が宙に浮いた。

また回収(?)した能力で浮いたのかと思ったけれど、違った。


「な、なんなんだこれは!!」


どうやら『始まりは零(ゼロスタート)』が使った能力というわけではないらしい。

始まりは零(ゼロスタート)』の背後から、すぅっと五十嵐さんが現れる。


「人と人、人と物、『人と自然』を繋げる。──俺の『円滑(スムーズ)』の真髄は、そこにあったんだ! 『円滑(スムーズ)』!」

「なにっ!?」


五十嵐さんが叫ぶと同時、『始まりは零(ゼロスタート)』の身体が空へと吹き飛ばされる。

よかった、おれの真意を読み取ってくれていたらしい。


「それじゃ、ちょっと行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい、五十嵐さん」


五十嵐さんの身体も宙に浮き、ばひゅーっと空へ──『始まりは零(ゼロスタート)』の元へ飛んでいった。

おれにできるのは、ここまで。


「頼みましたよ、五十嵐さん」


空を見上げ、そう呟いた。

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